第27話 黒い箱と滑る姫騎士
「守られたか……マキシムにやられた雑魚だと思っていたがなかなかやるな。まあ、マキシムも攻撃力だけなら悪くないしな。奇襲されて実力を発揮出来なかったというわけか。雑魚ばかりだと思っていたが、こいつが奇襲でやられて雑魚二人が残ったからキスが出来なかったんだろ秀才?」
「くっ……左腕が一撃で駄目に……大丈夫ですかソルシエール様?」
ヴァイルに奇襲をするもの返り討ちにあったペルンはソルシエールを呼び掛けた。
キスの記憶を思い出さされたソルシエールは心ここにあらずで返答する。
「お前……キスのこと言うんじゃな……━━あ……私はもう魔力が切れちゃったわ……ペルンこそ大丈夫なの?」
「骨折したぐらいです。問題ありません。私が時間稼ぎをするので、その間にお願いしますイリアさん」
「これと一緒の雑魚扱い……婚期を捨てて剣を振るってきた私がこれと同じ……?━━あっ……分かりましたペルン。それはそうとキス出来なかったってどういうことですか隊長?」
「早く行きなさいイリア!」
「へ? はい!」
顔を真っ赤にたソルシエールに怒鳴り付けられたイリアはラアナの方へと向かって行った。
ペルンの投げナイフと投石を絡めた剣撃でヴァイルの足が止まる。
「面倒なことを……」
「イリアさんの方へは行かせないです」
二人が戦っている間にラアナを見つけたイリアがラアナを担ぎ上げた。
ラアナの服にシーラが刺してあったナイフでイリアが体勢を崩す。
「あっ……お嬢ちゃんいました。気絶してるみたいで助かりま……━━え? 何か引っ掛かって……」
「ここです。避けたらラアナに刺さりますよ」
ラアナを背にしたイリアに木の影に隠れていたシーラが剣で突いた。
ラアナを突き飛ばしつつ剣突きを間一髪のところで避けたイリアはシーラの剣を弾き飛ばす。
「危ない……いたんですね……あなたはたしかドMの……」
「ドMじゃないですよ! これ以上近付いたらラアナの首にナイフを刺しますよ。どうせ殺されるぐらいならラアナは私の手で殺します」
「くっ……」
シーラはラアナに抱き着き体重をラアナの首筋にナイフを突き立てた。
ヴァイルに段々と後退させられたペルンがイリアに呼び掛ける。
「手が震えています。その子にそんな覚悟はありません。ただのハッタリです。引き剥がしてくださいイリアさん」
(さっきの外すのかよ……どこまで剣の才能が無いんだシーラ……)
「ああ、そう言えばその女が物心付いた時から剣を振るっていたと言っていたが、確かにそれと比べるとお前の動きにはやはり無駄が多いな」
「ん? 私の仕事は時間稼ぎです。煽って隙を作るつもりなら無駄ですよ」
「ただ事実を言ったまでだ。無駄が多いとは言ったが別に弱いとは言ってないぞ。実力ならあの女よりお前の方が格段上にだろう。実際、お前の攻撃は染み付いた様に一撃一撃が的確に急所を狙っている。何十何百と殺してきた人殺しの戦い方だ」
「だったら何だって言うんです……?」
「戦いは相手を知る事から始まるということだ。言っただろ。お前は一撃一撃を無意識に殺しにきている。剣に殺意を込め過ぎだ。お前みたいな奴は隙を見せたら体が勝手に動き出す」
ペルンの体はヴァイルがあえて作った隙に反応し、剣を首に一直線で向かわせた。
ヴァイルは首筋に迫った剣を《アイスショット》を応用することで凍らせて持ち、ペルンを蹴り飛す。
「やられた……イリアさん!」
「ラアナは渡しませ……━━きゃっ……ヴァイルさん……ラアナを……」
「ごめんなさいね。お嬢ちゃんは貰っていきますよ」
「よくやったシーラ。あの状態で剣を当て損ねたのはともかく……雑魚としては十分な時間稼ぎだ。この距離なら届く《グランドニードル》うぐっ……」
ヴァイルは穴を土の針が突き、ヴァイルが吹っ飛んだ。
一瞬にしてヴァイルはイリア距離を詰める。
「さあ、どうする? シーラなんてクソ雑魚に一杯食わさた雑魚に何か出来るとは思えないがな。素直に逃げていれば良かったのものを……」
「くっ……早い……」
イリアは全力で魔力を高めた。
ヴァイルは急ブレーキをかけスピードを落とし再度魔法で加速狙う。
「ほう……なかなかの魔力だな。剣より魔法の方が向いてるんじゃないか? だが、甘いな。お前の反撃は読めている」
「お嬢ちゃんの回収は無理みたいですね……《ブラックボックス》」
「《グランドニードル》━━な? それはマキシムが言っていた魔法……しまった……ラアナにマーキングしたのか……」
イリアは魔法陣をラアナの体に刻み付けた。
想定外の行動により座標の制御を失敗し、勢い良くふっ飛ばされたヴァイルはイリアに突撃する。
「へ? きゃっ……」
(クソ……魔法が失敗して……)
勢い余ったヴァイルは結果的にイリアの唇を奪い、取り押し倒してしまっていた。
イリアを下敷き滑って行ったヴァイルは勢いのまま、イリアを助けようと並走していたペルンの方へと吹っ飛んでいく。
「(私の唇にこの人の唇が当たって……)ん……おぉ……」
「大丈夫ですかイリアさん? よくもイリアさんをソリみたいに…… (痛……え? これもしかしてキスされてる……?)」
ヴァイルはペルンの唇も奪い取り押し倒すと、ペルンをソリして転がるイリアと共に滑っていった。
木にもたれかかっていた一生涯の魔力を失い戦力外になったソルシエールは、そもそも戦力外のカスパーを責め立てる。
「というかお前はさっきから何をしてるよ。お前も早く戦いに行きなさいよ」
「嫌っすよ。あんな化け物と戦うなんて契約外っす。俺はまだ死にたくないっすよ」
「は? つっかえないわね。やっぱりペルンの言う通り埋めておけば良かっ……━━へ?」
「何か飛んで来て……━━うぶっ……」
キスをしながらペルンをソリして滑ってきたヴァイルはソルシエールの唇も奪ると木に頭から突っ込んだ。
カスパーは足から滑り飛んできたイリアに蹴り飛ばされた。
(あれ? 体が動かない……しまった……頭を打ってしまったのか……?)
イリアとペルンを唇を奪いつつソリにして山を滑り最終的にソルシエールの唇まで奪ったヴァイルは軽い脳震盪を起こしていた。
ハート目になった少女たちがヴァイルに迫り来る。
「私の白馬の王子様はここにいたんですね……まあ、カッコいいとは薄々思っていましたが……初めてを奪った以上は責任取ってくださいね」
「もう……そこまで私が欲しいってなら仕方ないわね……良いわよ。何もかも捨ててお前のものになってあげるわ。ちゅっ……ちゅっ……」
「隊長……それは私の王子様ですよ。どいてください。ちゅっ……」
「私にもしてください……私だって初めてだったんですよ。んっ……」
(何だ? 待て……来るな……やめろ……死にたくない……)
唇を奪われ理性が完全に弾き飛ばされた三人はヴァイルに胸を押し当てて抱きつき、メスの表情を見せ代わる代わるに唇をかわし合った。
ヴァイルは心の中で情けなく声を出した。
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