第26話 邪竜の逆鱗と魔女の剣

「うっ……私……まだ生きてるみたいね……早く金髪を回収しないと……え?」


「プハ〜やっぱり酒にはソーセージっすよね。焼きそばもいい感じっすよ。うーん、このビール……うめ~っす」


 満身創痍のソルシエールに夢の中で酒を嗜んでいたカスパーが目に入った。

 ニヤケ顔を見て、額の血管をピクつかせたソルシエールは、カスパーを蹴り飛ばしローブを奪い取る。


「うげっ……なんすか? 痛いっすよ……え? ちょっと、何で俺のローブ取ってるんすか? 返して貰うっすよ。」


「うるさいわね。服が吹き飛ばされたのよ。お前の服装なんて何でも良いでしょ」


「えぇ……その分のお金は後で貰えるんすよね? というか、あの白髪は倒せたんすか?」


「多分やれたと思うわ……でも、私も意識を保つのがやっとよ。代わりに金髪を回収してきてくれるかしら? そうしたら報酬も払ってやるわよ」


「よくあれに勝てたっすね……了解っす」


「お前の魔眼ならすぐに見つけられるわよね? 頼んだわよ。私はその間にイリアを起こしてくるわ」


「あー、期待されてるとこ悪いっすけど、俺の【魔眼】って対象を見てからじゃないと対象の呪力は見れないんすよね……先に見れてれば見失っても少しの間なら呪力見れるんすけど……━━あっ……」


「何よ? ━━え? もしかしてお前……追ってる時に魔眼を使わず……」


「ちゃんと使ってったすよ。それに……もし、仮にっすよ……使ってなかったとしても俺じゃあ白髪には勝てなかったすから……」


「そう……つまりは役立たずということよね? やっぱり追加報酬は……」


「金髪を探しに行ってくるっす!」


 カスパーは話を切り上げてラアナを探しに行った。

 近づいてきたカスパーを木の影から見ていたシーラがヴァイルを呼び掛ける。


「くっ……ヴァイルさん……起きてください……ラアナが連れ去られちゃいます……私……頑張ってキスしたのに……ファーストキス捧げたのに……お腹殴られ蹴られ……それでラアナのことも守れないなんて……こんなのあんまりじゃないですか! 起きてください! 起きてください!」


「え? 痛い。痛い。痛い」


 焦りと怒りでヒートアップしたシーラがヴァイルの顔を何度も拳で叩き付けた。

 ヴァイルの意識が痛みで戻り始める。


(何だ? そうだ……爆発に巻き込まれて……)


「あっ……ヴァイルさん……目が覚めたんですね……」


「誰だ……? 俺様の顔を何度も殴りやがって……この小さい胸は……シーラか……?━━うぶっ……」


 シーラは無言でヴァイルの顔を思いっ切り殴り付けた。

 完全に目が覚めたヴァイルはシーラの手を掴み体を起こす。


「俺様を起こす時に殴りやがったことは許してやるシーラ……だが、最後の一発は明らかに不要な一撃だったよな?」


「さぁ……気の所為じゃないですか? まだ寝惚けてるんですよ。それより協力してください。ヴァイルさんのことは信用出来ませんが……敵の敵は味方です。このままじゃヴァイルさんだって命が危ないんじゃないですか? 魔力が切れたんですよね? 私の魔力をあげますから、その代わりにラアナのことを守ってください」


(俺様に付けばラアナが死なないとでも思ったのか? 王国の手に渡ろうが、俺様の手に渡ろうが、ラアナが死ぬことになるのは変わらないがな)


「良いだろうシーラ。俺様があいつらからラアナを守ってやる」


「えっと……それじゃあ早速キスしますね……」


「ああ……ん? おい待てシーラ……そう言えばお前、吐いてたよな? 口はゆすいだりしたのか?」


「え? 別にゆすいだりなんてしてないですよ。今も口の中は血の味がしますけど……」


「いや……その……それでキスするのか……?」


「そもそもヴァイルさんのせいじゃないですか……時間もないですし、早くキスしてください!」


「他の方法を試さないか? 別にキスじゃなくても良いんだぞ」


「うるさいですね。口の中に私の血反吐流し込んであげますよ!」


「待て。待て。待て。落ち着けってシーラ……」


 二人は取っ組み合いになり地面をゴロゴロと転がった。

 音のする方へと向って来たカスパーに土に塗れた二人が目に入る。


「おっ、金髪見つけたっす……━━うわっ……白髪まだ生きてたんすね。てか、あんたら何やってたんすか?」


「ん? 何だ……雑魚か……」


「それは否定しないっすけど……流石に今なら俺でも勝てそうっすけどね。そんなふらふらして、自分の状態に気づいてないんすか? 特に酷いのが頭の流血血塗れっすよあんた。」


「ん? 頭? 竜? 土塗れ? これは……おい、お前……さっき何て言いやがった……? おい、シーラ……キスするぞ」


「え? ヴァイルさん……? きゃっ……あっ……んんっ……」


 ヴァイルは青筋を立てるとシーラの唇を強引に奪い取った。

 二度のキスで完全にメスの悦びを覚え込まされたシーラの体は、ヴァイルに抱き寄せられるやいなや、手足を卑しく回し込む。


「恋人との最後のキスって感じっすか? まあ、あいつらにはあんたのことは死んでたって伝えておいてあげるっすよ。じゃ、金髪は貰ってい……━━ぐはっ……」


 魔力の回復したヴァイルがカスパーを蹴り上げた。

 蹴り飛ばされたカスパーがイリアを起こそうとするソルシエールの付近へと落下する。


「は? お前、何してるのよ……」


「痛たた……何がやれたっすか……あの白髪まだ生きてるじゃないすか…… 」


「あっ……おっ……ヴァイルさん……キスもっとしてくださ……きゃあ……」


「許さんぞ……ゴミが……」


 ヴァイルはだらしなく体を痙攣されるシーラを投げ飛ばし、ソルシエールたちの方を怒りの形相で睨見つけた。

 カスパーが落下した衝撃でイリアが目を覚ます。


「はれ? 私の王子様はどこの行ったんですか? 私の王子様は……?」


「何を言ってるんすか……それよりこの状況どうするんすか……? ヤバいっすよ」 


「どうもこうも無いわ。終わりよ。私はもう魔法を使えないわ。剣を貸して貰えるかしらイリア」


「え? 剣ですか隊長? どうぞ……」


「へー、あんた剣もいける口だったんすね。流石は王国最強の魔法師っす」


「何を言ってるのよ。私は剣なんて振るったことすら無いわ。これは自決用よ」


 ソルシエールが平然と首筋に剣を向けた。

 死を確信した二人は真っ青になり騒ぎ始める。


「自決っすか……?」


「え? 嘘ですよね隊長……? こんなことならそのまま夢の中で死にたかったです……王子様とキスしようとしていたら目が覚めて目の前にあなたがいた私の気持ち分かりますか!?」


「そんなこと言われても知らないっすよ。それよりもう逃げていいっすか? 流石に命あっての仕事なんで……」


「別に逃げていいわよ。イリアも逃げなさい。王国はもう駄目だと思うから帰れたら亡命すると良いわ」


「じゃ……許可も貰ったことっすし……さよな……━━ぐぇ……」


 イリアが逃げようとしたカスパーを脚をかけて転ばせた。

 逃げようとするカスパーの脚を、イリアは物心付いた時から剣を振るい鍛え上げた握力を使い、全力で握り締める。

 

「何を言っているんですか隊長? こいつを囮にして逃げましょうよ」


「ちょっと……その足を持ってる手を離すっすよ! 逃げるなら死を選ぶとか言ってなかったっすかあんた?」


「お前ら俺様から逃げられるとでも? まあ、俺様は優しいからな。ゴミ一匹以外は見逃してやろう」


「ほら、白髪も逃げて良いって言ってるみたいっすし……」


「二人とも早く逃げなさい」


「そんな……隊長……」


「さっきから何を言っているんだ? お前だけは逃がさないって言っただろ。」


 ヴァイルはカスパーを指さすと共に《アイスショット》をカスパーの真横に飛ばした。

 頬をかすった氷が大木を貫通して行ったのを確認したカスパーが絶望顔を見せる。


「え……? 俺すか……?」


「逃げましょう隊長」


「そうね。逃げるわよイリア」


「さっきまで自決する気満々だったくせに何しれっと逃げようとしてるんすか!?」


「うるさいわね。お前が恨まれることしたんじゃないかしら? 私は知らないわよ」


「そうだ。お前は俺様の恨みを買った。誰を逃がしてもお前だけは許さ……━━これは……石……それに何かが付いて……?」


 ヴァイルが避けた石礫に繋げられていた煙玉が爆発し、煙が辺りを包み込んだ。

 隙を付いた接近してきたペルンの剣を紙一重でかわしたヴァイルは反撃の蹴りを撃ち込んだ。

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