第24話 邪竜VS王国最強魔女〜弐〜邪竜は魔法を求めていた
「へぇ……魔法で加速したのね……」
「目は潰せなかったか……だが、左腕は逝ったな。油断したなお前」
ヴァイルの拳をソルシエールは左腕を犠牲にして目を守った。
ヴァイルは吹っ飛ばされ木に叩き付けられたソルシエールに追撃を狙う。
「油断……? 油断したのはお前よ。私に触れたわね《視覚共有》」
ソルシエールを殴り付けたヴァイルの左拳に魔法陣が発現した。
ヴァイルの視覚情報がソルシエールに送られる。
(接触による魔法陣付与による魔法の発動……オーソドックスな方法だが、あらかじめ狙っていないと魔法陣の形成が間に合わず失敗しやすい。体に近いほど魔法陣の形成の早さは自体は上がるものの、不意を突かれてそうそう成功するものでは……)
「魔法陣の形成も早いとは、なかなかやるな。だが、お前の魔法のタネは割れている。これはマキシムに掛けていた魔法だろ? 俺様の視覚情報を得た程度で勝てるとでも?」
「あら。それもバレていたのね。でも、お前がこの魔法の発動を阻止出来なかったのなら同じことよ」
ソルシエールはヴァイルの目の前から姿を消した。
ヴァイルの頭上へと瞬間移動したソルシエールが放った火の玉がヴァイルを襲う。
「くっ……上か」
「もう、お前に勝ち目は無いわ」
(【瞬間移動】はあいつの視覚かつその中心に10m程度……魔力での強化やゲッシュの考えてもせいぜい50mが限界だろう。大した距離ではない。それに方向も前方のみにしか移動出来ない。だから回避にしか使っていなかったというわけだ。それが攻めに転じたということは……)
「なるほど《視覚共有》で得た俺様の視覚情報も【瞬間移動】のお前の視覚範囲内となるわけか。避けようと空を見た相手の視覚を利用して横移動を可能するということだろ。空は俺様のものだ。撃ち落としてや……」
ヴァイルの近くに火の玉が落ちた。
一瞬、ヴァイルの視線がそちらへと移る。
その一瞬に合わせ、そこに移動したソルシエールは、空を見上げたヴァイルを目掛けて魔法を放つ。
「《アイスショット》」
(しまった……魔法での相殺は間に合わない……だが魔力で守れば……━━鋭い……魔法陣構築を変えず小手先の技術でここまで……)
ヴァイルは魔力を一点集中し、額へと飛んで来た通常より鋭く尖った《アイスショット》を受け止めた。
ヴァイルの額から血が滴る。
(この左拳に付けられた魔法陣には直接的に被害与える能力が無い。魔法陣に注がれた魔力が切れるまで解除は無理だな……)
「クソ……」
「《フレイムバースト》」
ソルシエールを殴り付けたヴァイルの左拳に魔法陣が発現した。
(これは広範囲の爆撃魔法か。魔力での防御に入った相手に一点集中か広範囲の一瞬の二択を迫るわけだな)
ヴァイルは魔力を体全体に纏い負傷を減らした。
ソルシエールは間髪入れず鋭い氷で追撃を入れる。
「なるほど……空からの攻撃と死角から一点集中攻撃と広範囲攻撃を交えた嫌がらせか。想像以上だ。だが……」
ヴァイルは攻撃を避けると、空に向って火の玉を撃ちながら、一直線でソルシエールへと方へ向かっていく。
「(視覚情報が消えた……こいつ目を瞑って……)」
「反応が遅れたな。お前のスキル単体では前に移動するしかないだろ?」
「くっ……(どこに飛べば……━━水?)」
ヴァイルが《アイスショット》と《フレイムボール》を合わせて生成した水がソルシエールの視界を歪めた。
視界が防がれていなかった場所に瞬間移動したソルシエールに、移動先を予測し先回りしたヴァイルが汚い笑みを見せる。
「場所さえ絞り込めれば……俺様の勝ちだ秀才!」
「きゃあっ……」
ソルシエールは蹴り飛ばされ、激しく地面に叩き付けられた。
勝利を確信しゆっくりと近づいてきたヴァイルをソルシエールは敵意の眼差しで睨みつける。
「はぁ……はぁ……私は……まだやれるわよ……うっ……」
「諦めろ。もう動く力も残っていないだろ。しかし、その諦めを知らない目……不愉快極まりないな。よし、八つ当たりも兼ねて、その心をへし折ってやる」
「心をへし折るですって? 魔法使いだからって舐めてないかしら? これでも痛みには強い方よ。やれるものならやってみなさい」
(強さが全て。強いほど自由な空が手に入る竜にとっての屈辱は地に叩き落とされることだが……人間はどうすれば━━転生者の仲間は服が無くなると、とても恥ずかしがっていたな……そして転生者が命乞いの時に見せたジャンピング土下座……? これだな)
「ん? 消えない敗北の記憶を刻ませるのが楽しいんじゃないか。体に傷をつけても回復するだけだろ。何の意味が……ああ、人間は自己再生出来る種では無かったな。まあ良いか。おい、秀才。お前、全裸でジャンピング土下座しろ」
「は? 何を言って……? だいたい土下座って何よ……」
「ん? 意味が分からなかったのか……? それなら土下座はもう良い。ほら、早く脱げ」
「ふざけないで。脱ぐわけないでしょ」
「そうか。それなら、お前がさっき見せた魔法の模倣ついでに脱してやる。ちゃんと魔力を体に流しておけよ。《フレイムバースト》」
ヴァイルが極々小規模にした《フレイムバースト》を発動し、ソルシエールは無数の爆発に見舞われた。
全身を電動マッサージ器に使われたような感覚に襲われ、服が大破したソルシエールは胸と股を抑え怯えた表情を見せる。
「あんっ……ひゃっ……私に……何するつもりよ……?」
「グフ。フフフ。フハハハハハ。その顔が……その顔が見たかった。自分の魔法で脱がされたなんてどんな気持ちだ? なあ、今どんな気持ちだ? やはり敗者が見せる表情ほど良いものはないな」
ヴァイルは四つん這いになり倒れたソルシエールを覗き込んで嘲笑う。
ソルシエールは涙目になり、ヴァイルをから目を逸らす。
「良い表情だ……何するつもりと言われても、そんなの決まってるだろ。あっ、別に魔力や呪力はいらないぞ。お前の魔力と呪力は多いみたいだが、それはあの二人で事足りているからな」
「脱がせたってことは……くっ……やっぱりそういうことよね……物好きもいるものね……私なんかの何が良いのよ」
(竜と比べると人間の魔力なんてのはカスみたいなものだ。そのため、効率良い魔法は竜の時とは変わってくる。こいつの魔法はどれもかなりの出来だったからな。覚えておいて損はないだろう)
「物好き? 何を言ってるんだお前は? とても美しいと思ったがな……少なくとも俺様は好みだぞ。まあ、自分では気づけないこともあるか」
「へ? 美しいって……嘘言うんじゃないわよ。ば、馬鹿じゃない? 好みとかそんなこと言われても……困るわよ……」
「ん? 嘘なんて言ってないが……まあ良い。お前の一番大事な……(攻撃魔法……いや防御魔法の方が良いか……?)とにかく早く見せろ」
「見せろって……こ、こんなところ見せられるわけないでしょ! というか……お前……私に何かしたわね? さっきから身体が疼くのよ……」
体を求められていると勘違いしたソルシエールは、股に手を当ててハート目でヴァイルを弱々しく睨みつけた。
良い魔法が手に入ると思ったヴァイルはソルシエールの頬に触れニヤリと笑う。
(こいつ……もしかしてまだ何か切り札が……)
「ほう。それは面白そうだ。しかし、それでは何故今まで使わなかった? いや、使えなかったということか……? まあ、良い。俺様が貰ってやる」
「使ってないって勝手に決めつけないでくれるかしら!? でも……そうね……確かに……使ったことなんてないわ……イリアも言っていたけど、仕事で男と関わる機会なんて滅多にないのよ……仕方ないじゃない……男って初めてを奪うのが好きなのよね……? 良かったわね……初物ってやつよ……」
(こいつ……何が言いたいんだ……? 時間稼ぎか? 一応これを使っておくか【嘘発見眼】)
「ん? えっと……性能が良いということでいいんだな?」
「へ? 性能なんて知らないわよ! 良くないんじゃないかしら? うぅ……本当に……ここで……しちゃうの? やっぱり恥ずかしいわ……こんなこと……今日は危ない日だし……出来ちゃったりしたらどうするのよ……もう許して……」
(嘘ではない……性能が悪いということは……おそらく試作品ということだろう)
「分かった。それなら他のもので良いぞ」
「他? 他って……じゃあ口でするのはどうかしら……? よく分からないけど舐めたりしたら良いのよね……?」
(なるほど……人間にもキスで発動する魔法があるんだな)
「ああ、キスだな。分かった。それで良いぞ」
「キス? あ……そっちなのね……分かったわ……下手くそでも文句言うんじゃないわよ……」
「ああ、どうせキスも初めてなんだろ? 大丈夫だ。俺様は経験があるからな。リードしてやろう」
「どうせって……失礼ね……そうよ。キスも初めてよ。イリアと同じで手も繋いだことないわ。そういうお前は平然と美しいとか言えるあたり経験豊富そうね」
「え? そうだ。とりあえず、口の中は確認させて貰うぞ。毒とか仕込まれても面倒だ」
ヴァイルはソルシエールの口に指を突っ込み掻き回した。
ヴァイルが指を抜きソルシエールの口から唾液が垂れる。
「んん……んっ……あっ……何するのよ……そんなのあるわけないでしょ」
「何も小細工はないみたいだな。言っておくが隙をついて攻撃なんて考えない方が良いぞ」
「そんなことしないわよ。そもそも出来るとも思えないわ……」
「そうか。一応聞いておくがこれは攻撃魔法じゃないんだな?」
「は? 何を言ってるのよ」
(嘘は無い。偽って危害を加える気は無さそうだな)
「ああ、すまない。キスの攻撃魔法なんてあまりに非効率だよな。怒るのも無理は無い。これでもお前の事は高く評価している。今のは忘れてくれ。では、始めようか」
「高く評価ね……ふーん……別に怒っては無いわ。じゃあ……私は何も分からないから……リードして貰えるかしら……?」
「ああ、キスなら俺様に任せておけ」
(おそらくだがバフ系統の魔法……俺様にあの二人を倒されて使えなかったんだろうな。キスが未経験ということは使ったことがない魔法なんだろうが……他の試作品は見せるのを恥ずかしがっていたことから、それでも見せるとなると相当な完成度なはず……魔法自体なら転生者や転移者以上……人類最高峰の魔法か……非常に楽しみだ……)
ヴァイルは少年の様な瞳でソルシエールを抱き締め口付けをした。
ソルシエールは女の表情でヴァイルの唇を受け入れる。
「(んっ……口の中に舌が入って……舌……上顎……あっ……歯の裏側までって……まったく……どんなとこ舐めてるのよ……でも……悔しいけど……凄いわ……キスって……こんなに気持ち良いものなのね……)」
(ん? おかしいな……これ本当に魔法発動してるのか? )
「えっと……お前……これは……」
ヴァイルは唇を離した。
ソルシエールは恍惚とした表情を見せる。
「━━へ? きゃっ……ち、違うわよ! 気持ち良くなって意識を失ってたわけじゃないわ!」
(こいつ……魔法を失敗したのか……? 人間になんかに期待したのが間違いだったな……ん? 傷が……)
「よし……もう一度だ秀才」
「え? ちょっと……まだするの……? もういいでしょ……そんなに私とのキス……良かったのかしら……?」
ヴァイルはソルシエールを押し倒した。
ソルシエールは軽く手でヴァイルは押して嫌がる素振りを見せつつも、唇を欲しがりそうに軽く突き出した。
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