第23話 邪竜VS王国最強魔女〜壱〜才無き者は開き直る

「【ガードブレイク】」


「きゃっ……」


 ヴァイルはスキルを発動させて腹パンをキメたシーラに追撃の蹴りを入れた。

 木に叩き付けられたシーラは血反吐を吐きながら苦しそうにうずくまる。


「シーラ……お前やはり雑魚か……強さを隠していたなら一発目ならともかく二発目なら反応出来たはずだしな。まあ、それを見越して相手の防御に使っている魔力を破壊するスキルを使ったんだが……意味無かったな……」


「ゲホッ……うぅ……ヴァイルさん……どうして……」


「どうしてかって? それはシーラが一番危険だったからだ。魂にある莫大な魔力を使えるとすれば、あの女よりもお前の方が脅威になる。どうせ倒せるあいつら三人よりも、お前が転生者のように弱者のふりをしている可能性を潰しておくべきだろう?」


「えっと……仲間割れっすか……?」


「SMプレイですか……? あなたたちどこまで私に見せ付けて……」


「いや……多分違うと思うっすよ……」


「それじゃあ、次だ」


 ヴァイルはそう言うと一瞬で距離を詰めてソルシエールの目を狙った蹴りを繰り出した。

 直撃の間近、ソルシエールの姿が一瞬に消え失せる。


(消えた……いや、後ろか。速い……? いや、これは……)


「(少しでも反応が遅れていたらやられていたわね……この白髪……強い……《フレイムボール》)」


 ソルシエールは無詠唱で無数の火の玉を撃ち放った。

 ヴァイルはシーラから貰った魔力で体を覆い、火の玉を気にせずソルシエールへと一直線で殴りかかる。


「火の玉を放つ魔法か。無詠唱にしては威力は高いようだが……魔力で守ればこの程度問題ない。」


「くっ……まともに食らって無傷? 何て魔力量なのよ……」


 ソルシエールはヴァイルの目の前から姿を消した。

 空振ったヴァイルの拳は大木を粉砕し、吹き飛ばす。


「また面倒なスキルを……それにしてもそのスキル……赤き竜と同じゴミの足掻きか……まあ良い。お前は後回しだ」


「イリア逃げて!」


「隊長?━━うぐっ……」


 イリアは剣を振る間もなくヴァイルに蹴り飛ばされた。

 ヴァイルはイリアに向けて魔法陣を発現させる。


「これは《フレイムボール》と言うのか? これでもかなりのロスだが……人間にしては高度な魔法陣だな」


「隊長の魔法を……きゃっ……」


 ソルシエールの魔法を模倣して火の玉をイリアに撃ち込んだ。

 イリアを倒したヴァイルは次の獲物としてカスパーに狙いを付ける。


「あんた……さっきの蹴り方……あの時の追い剥ぎじゃないすか。リベンジマッチっすよ。ボコボコにしてや……━━グハッ……」


「ん? あの時の? 何か言ってたかこの雑魚……?」


 カスパーは瞬殺され木に突き刺さった。

 ソルシエールは魔法陣から複数のつららを撃ち出す。


「あの傭兵はともかく……イリアがあんな簡単に……くっ……【アイスショット】」


「ほう。氷の針を飛ばす魔法か。良い魔法だな。それも使わせて貰うぞ【アイスショット】」


 ソリシエールとヴァイルの魔法が相殺され、冷気が吹き荒れる。


「私の魔法を……魔法を真似るスキルかしら? 厄介なスキルね」


「スキル? そんなもの無くともこの程度の魔法なんて一度見ただけで真似出来るぞ。そうだ。スキルと言えばお前のスキル……あれは【瞬間移動】だろう? それも先天的に魂に刻まれてるものではなく、後天的に肉体刻まれた後天的獲得スキルだな」


「へぇ……ほとんどバレてるなら……公開してしまった方が良さそうね」


 ソルシエールは複数の魔法陣をヴァイルに見せ付ける。


(先ほどの二つの魔法と【瞬間移動】これは視覚内かつ自らを座標の中心にして10m程度に瞬時に移動出来るスキルだな)


「魔法陣解読対策の重ねがけ(プロテクト)無しの魔法陣公開。禁忌(ゲッシュ)の応用か。あえて情報を公開することで火力や精度を上げるものだな。あのレベルの魔法を使い、呪術まで使えるとは純粋な人間としてはやるではないか」


「よく知ってるわね……もしかしてお前も魔族なのかしら? ぶっ潰してあげるわ!《フレイムボール》」


「魔族? 何を言っているんだ? あんな下等生物と一緒にするなよ。《フレイムボール》」


 二人の魔法が衝突し相殺された。

 ソルシエールは瞬間移動で背後を取り、ヴァイルの接近攻撃から逃れつつ魔法をうち放つ。

 ヴァイルは魔法を相殺させながら、目を狙った蹴りを狙う。

 両者は互いに魔法を打ち消し合う拮抗状態へと入った。

 

(とっとと目を潰してやりたいところだが、魔法の妨害に【瞬間移動】の発動速度が上がったのもあって、蹴りが当たらないな……とはいえ、プロテクト有りでもほぼ解読していた二つの魔法には、火力上昇はほとんど無い。魔力量は俺様の方が上だ。あいつの奥の手も予想はついている。魔法の妨害が出来なくなるまで攻撃し続ければ問題な……ん?)


━━だが、それは数分の攻防の後、少しずつ崩壊の兆しを見せた。

 氷の破片がヴァイルの頬を傷つける。


「やっと当たったわね」


「ちょっと頬を切っただけだ。運だけのカスが調子に乗るなよ」


 両者の魔法が再度衝突した。

 相殺されたはずの魔法の残り火がヴァイルを襲う。


「くっ……なるほど……同じ魔法陣であっても出力された魔法には多少のバラツキが出る。これは魔法陣へ魔力を注ぎ込む時に生じる誤差が原因だ。本来であればほとんど無意識の領域のものだが、こうも繊細に魔法を扱うとは……いったいどれ程の鍛錬を積んできたのやら……」


「どうかしら? 付け焼き刃のお前には出来ない芸当でしょ。お前は分かってるとは思うけど、これは魔法陣への魔力の注ぎ込み方が変わるだけで、注ぎ込む魔力総量が変わるわけじゃないわ。もう諦めなさい。肉体か魔力かどちらを選んでもお前はジリ貧よ」


「このままお前の魔力切れを狙えば俺様にダメージが蓄積する。かと言って、魔法を相殺しようすれば俺様の魔力効率が落ち、魔力量が逆転されるか。なるほど面白い。だが、お前が出来ることがどうして俺様に出来ないとでも? 付け焼き刃なんて言葉は才能の無い奴の言い訳だぞ」


「随分と余裕だけど、その余裕もいつまで持つかしら? 別に私は才能あるなんて思ったこと無いわ。無駄な足掻きは早くやめなさい。でも、お前の知識……殺すのは惜しいわね。もし、私の国で魔法の開発に協力するのならお前の命は保証してあげるわ」


「無駄な足掻きはお前のことだろ? お前の努力を俺様が才能で否定してやる。俺様は秀才が嫌いなんだ。戦いは結果が全て。お前のような秀才は自己満足の努力なんてものに誇りを持っているが、過程に意味など無いぞ」


 ヴァイルは戦い方を変えずに戦闘を続けた。

 ヴァイルは段々と傷付いていく。


(うーん……あれ……? 思ったより難しいな……)


 ━━ヴァイルの魔法の模倣は厳密には魔法陣の暗号解読による魔法陣の模倣であり、魔法陣以外の情報までは模倣することは出来ない。

 理論的に行う魔法陣の解読に対して、魔法陣へ魔力を注ぎ込むのは感覚的な行為であり、大雑把なヴァイルには残念ながら、手先を器用に扱うような才能は無かった。


(まあ……勝てば良いか……これをすると少し穴が痛むのは難点だが……)


「うわっ……」


 ヴァイルはあえて転び、尻もちをついた。

 ソルシエールは隙を見逃さず反撃に移る。


「これで終わりよ」


(よし。こいつ距離を詰めたな。この魔法は座標がバグっていてもう攻撃には使えないが……自分のいる場所に飛んで来るのが分かっていれば……)


「馬鹿め。引っ掛かったな。【グランドニードル】んんっ……」


「早い……━━うぐっ……」


 ヴァイルの穴を土の針が突き上げた。

 魔法により一瞬で加速したヴァイルは拳をソルシエールへと叩き込んだ。

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