第21話 魔力少女のファーストキス
「自分から出て来てどういうつもりですか? 私としてはその方が助かりますけど」
「やっと見つけたっすよ。いったいどこ逃げ回ってたんすか? 雑魚は雑魚らしく逃げ回ってた方が良かったんじゃないすか?」
カスパーとイリアは姿を現したヴァイルを見て構えた。
ヴァイルは余裕綽々で口を開く。
「ん? 何か言ったか? 今、俺様は気分がいいんだ。雑魚の戯言は聞き流してや……」
(何だ? 大きな魔力反応が途切れだがこちらに向って……まさかあの女か……? そうだ……マキシムに付いていた……)
「あれ? どうしたんすか? まさかまた逃げたりしな……━━え? 本当に逃げるんすか?」
「ちょっとまた逃げるの? 待ちなさい」
マキシムを見ていたヴァイルは背を向けるとシーラたちの方へ全速力で走り去って行った。
マキシム近くまで来たヴァイルはマキシムの顔を覗き込む。
(やられた! 戦闘すれば多少の魔力残穢は体に付くが……しまったな……見逃していたか……マキシムの目のあたり付いている魔力残穢……おそらくあの女の感覚共有魔法だ。視覚を共有したマキシムを空高く打ち上げ索敵に使ったということだろう……よく考えればマキシム程度があの女から生きて帰れる訳が無い……感覚共有魔法のために生かされていたということか)
「ちゅっ……ちゅうっ……うーん……キスってどうすれば良いんですかね……? マカさんの話を少しは聞いていれば良かったです……ちゅっ……ちゅっ……」
(それにしても何してるんだシーラの奴……やっぱりラアナ以外は見捨てて逃げるか……? いや、一応魔力は貰っておくべきか……)
「おい、シーラ。逃げるぞ」
ヴァイルはキスの練習に集中していたシーラを呼び掛けた。
シーラは涙目になりひどい慌てようで取り繕う。
「きゃー、ヴァイルさんいたんですか? えっと……違うんです。これは……その……とにかく違うんです」
「ん? ああ、キスの練習をしていたんだろう? 練習熱心なのは良いことだ。恥ずかしがらなくて良いぞ」
「へえっ? そうですか……? ありがとうございます……それで、あの二人は倒したんですか?」
「いや、あの女も来てるからな。魔力回復を優先する。三人は運べなそうにないな……走れるかシーラ?」
「はい。走れます。その……やっぱりキスするんですね……」
ヴァイルはラアナを抱き抱え、マキシムを引き摺りながら進んでいく。
シーラは引き摺られる兄には目もくれず、ヴァイルの横顔をうっとりと眺めて並走していた。
ーーー
「ラアナはここで寝かせておこうか」
「そうですね。ここなら痛くなさそうです」
逃げてきたヴァイル達はラアナを木影に寝かせていた。
二人は次にマキシムを動かし始める。
「マキシムはどこに置こうか?」
「あの辺にでも捨てたらどうですか?」
「ん? ああ……この辺に置くか。それじゃあシーラ。魔法を頼む」
「わ、分かりました……キスですね……あっ、キスはどういう種類のキスをしたら良いんですか? 唇と唇を軽く重ねる感じですか? それとも……お互いの舌を絡み合わせる感じのですか……?」
(キスの種類? キスって種類があるのか……?━━いや、転生者の記憶を見るのは辞めておこう。何となく酷い光景を見る気がする……)
「別に何でも……いや、シーラの言うことも一理あるか。魔法には法則があり、法則通りに扱えば失敗することはない。だが、実際には色々な要素が関わってくる。そこで用いられる内の一つが魔法発動のルーチン。即ち精神状態による魔法への影響を言っているんだろシーラ?」
「へ? あ……はい……?」
「それなら大丈夫だ。簡単な魔法だから精神の影響なんて微々たるものだ。まあ、あえて言うとするなら……魂と魂と繋ぎ合わせると言っても《ブラッディキッス》は共同魔法ではなくシーラの単体魔法だ。シーラが一番気持ち良く使えると思う方法で魔法を発動したら良い。俺様はそれに合わせるだけだ。魔法を頼むシーラ」
「ええっ? 一番気持ち良くですか……? 分かりました……でも……その……ファーストキスでディープキスなんて……」
(早くしろよ! 口を動かす時間があるなら口を付けろよ)
「ん? もしかして何かキスが出来ない事情でもあるかシーラ?」
「いえ、別したくないって訳では無いんです……むしろ……ヴァイルさんとキスはしたい……です……でも……心の準備が……私の理性も今度こそ耐えられないと思いますし……それに魂と魂を繋げるのというのも何か恥ず……」
(うげっ……まさかこいつ気づきやがったか……?)
「魂のことは気にするなシーラ」
ヴァイルは焦って早口そう答えた。
それにより返って不信感を覚えたシーラはもう一度聞き返す。
「魂のことは気にするなってどういう……? あの……魂と魂を繋げるのって本当に大丈夫なんですかヴァイルさん……?」
「あっ……そうだな……正直に言うと非常に危険な行為だ……魂と魂を長時間繋げておくと相手の魂の影響を受けて魂が変形やしていき、耐え難い苦痛や精神の崩壊などを引き起こしやがて死に至る」
「え? そんな危険なんですか……?」
「すまないシーラ……不安にさせたくなかったんだ……影響も俺様がシーラの分も肩代わりするつもりで……」
ヴァイルはとても申し訳無さそうな演技をした。
シーラは背伸びをしてヴァイルの頭ポンポンと触り、柔らかい笑顔を見せる。
「なるほど……私を不安にさせないためだったんですね……ヴァイルさん。そんな暗い顔しないでください。次からちゃんと言ってくれればいいですよ。仮に大きなリスクがあっても、私はみんなを守れるなら構わないですから。それに長時間は危険って言ってましたけど短時間なら大丈夫なんですよね?」
(竜と人間の魂であれば影響を大きく受けるのは当然人間の魂だ。それに、魔法の簡略化で影響は全てシーラに押し付けるように変更した。本当は短時間でも竜の魂と人間の魂の繋げるのは危険な気がするが……)
「ああ、(俺様の魂は)大丈夫だ。だから安心してくれ」
「安心ですか。分かりました。それじゃあ……ヴァイルさんに身を委ねますね……」
シーラは胸を押し付けるようにヴァイルに抱き着くと媚た上目使いでヴァイルを見つめた。
体を火照らせたシーラの熱とメスの匂いがヴァイルを包み込む。
(シーラってこんな体温高かったか? それにこの匂い……)
「あの……あんまり嗅がないでください……ごめんなさい……臭かったですか……?」
「いや、良い匂いだぞシーラ。あれだろ? 石鹸っていうやつだろ?」
「なんだ……臭くなくて良かったです……私もヴァイルさんの匂い好きですよ。嗅いでいると何だか落ち着きます。あれ? でも、私たちが使ってる石鹸は安物なのであまり匂いもしないはずですが……」
「そうか? かなり強い匂いだけどな?」
「そうですか? 私の鼻が慣れているのかもしれませんね……あっ……やっぱり石鹸……結構強い匂いだったかしれません……それより早くキスしませんかヴァイルさん? 私の匂い……そんなに嗅がれても困りますし……」
シーラは口ではそう言いつつも、胸元の服を軽く引っ張り、卑しい女の匂いを自分から漏れ出させ、流し目でヴァイルを見つめる。
「ん? ああ、そうだな。敵もそろそろここに来そうだしな」
「ヴァイルさん……私……キスは下手だと思いますし……理性も壊れて見苦しいところを見せてしまうかもしれません……それでも……愛してくださいね……? ━━ちゅっ……」
ヴァイルの唇にシーラはそっと赤味を増して膨らんだ唇押し付けた。
シーラはぎこちない動きで懸命に舌を動かす。
「ん……れるぅっ……れろぉ……」
(シーラは舌使っているみたいだし俺様も舌を使った方が良いのか?)
「(ひゃっ……ヴァイルさんの舌が……あっ……んっ……おぉ……気持ち良すぎて……何も考えられない……)」
ヴァイルは元竜(爬虫類)に恥じない巧な舌使いでシーラの口の中を隅々まで這い回らせた。
一瞬意識が途切れたシーラはのけぞり崩れ落ちる。
「おい、シーラ大丈夫か……? 」
ヴァイルは力の抜けたシーラを受け止めた。
シーラは小刻みに体を痙攣させつつも何とかヴァイルに抱きつき口を開く。
「はぁ……はぁ……魔法失敗しちゃいました……ごめんなさい……ヴァイルさん……少し休ませてくれませんか……? 」
「そうか……なら少し休憩を……━━いや、そんな時間は無さそうだ……あの女がすぐそこまで来ている。すまないシーラ……もう少し頑張ってくれ。」
「え?きゃっ……んんっ……」
ヴァイルは強引に唇をシーラの唇に押し付けた。
小刻みに痙攣し、とっくに限界が来ていたシーラの体は何度ものけぞりながらも逃げようとする。
「おい、シーラ。危ないだろ。動くな」
「そんなこと言われても……もう体が言うことを聞かなくて……」
「少し強く抱き締めるぞシーラ」
「ヴァイルさん? ちょっと待っ……んっんん……!?」
ヴァイルはシーラの顔と背中を手で力強く抑え込み唇を奪った。
シーラは涙をためた虚ろな目で何度も何度も足を思い切りピンと伸ばして痙攣する。
(なんて底知れない魔力量だ……人間の魔力量ではないな……下手したら竜並の……)
ヴァイルはシーラから唇を離した。
朝日が唾液の橋を照らし出す。
「んっ……あっ……終わり……ですか……?」
「ああ。この状態でさらに悪いが、危険だから魔法の発動は終了しておくんだぞシーラ」
「分かりました……えへへ……ヴァイルさん……私……頑張りましたよ……褒めてください……」
(お前ほとんど暴れてただけだろ……まあ、良いか。この魔力量ならあの女程度どうにでもなるだろう。少しぐらいは褒めてやるか。頭でも撫でてやれば良いのか?)
「よく頑張ったなシーラ」
ヴァイルはシーラを抱き締め、頭を優しく撫でた。
シーラはとても幸せそうに表情を緩ませ、ヴァイルの首筋に手を回し、小さく何度も口づけをする。
「ありがとうございます……ヴァイルさん……大好きです……ちゅっ……ちゅっ……ちゅっ……」
「えぇ……何をしてるんすか?」
「はい?」
カスパーとイリアは困惑した様子で偶然見つけた二人を見つめた。
敵の前で棒立ちする二人が全速力で近くまで来たソルシエールの目に入る。
「あの二人……敵を目の間に棒立ちってどういうつもりよ……?」
(危ない……ギリギリセーフか……)
「お前ら少し遅かったんじゃないか? もう俺様の魔力は自然回復してしまったぞ。あくまで自然にな」
ヴァイルは自然をやたら強調すると不敵な笑みを見せた。
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