第19話 控えめ少女は心臓を鳴らす

「え? ああ……そうだな……魔力の調子が悪くてな……魔力がなかなか回復しないんだ……」


 独り言を聞かれたのに気づきヴァイルはお茶を濁すように呟いた。

 それを聞いたシーラは自信無さげに提案する。


「そうですか……それなら……私の魔力をヴァイルさんに分け与えるのはどうですかね……?」


(なるほど、その手があったか。ただ、一人分の魔力ではどうにも……まあ、無いよりは良いか……)


「分かった。ただ、バレないように小さくゆっくりだぞ。」


「はい。分かりました。━━どうですか……?」


 シーラは魔力を送り込んだ。

 あまりにもすぐ送るのをやめたシーラにヴァイルは何とも言えない表情で呟く。


「これで全部なのか……?」


「そうですね……これでは少ないですよね……?」


「そうだな……すまない。これだけでは流石に……」


「ごめんなさい……やっぱり駄目だったみたいですね……」


「まあ、確かにシーラの魔力量は少ないが……魔力を分け与えるとかなりの魔力ロスが生じるからな。それもバレないように少量を少しずつとなるとさらにロスは大きくなる。そもそも一人で一人分の魔力を回復させるなんて、そう簡単に出来ることでは無いからな。気にするなシーラ」


(最初からお前にはお礼の金しか期待してないからな。足手まといなのは承知の上だ。もしもの時は囮にするつもりだしな)


「いえ……その……私は魔力は自体は結構ある方だと思うんです……ただ、それをあまり外に出せない体質と言うんですかね……? とにかく魔力もっとはあるんです……あるんですけど……」


「外に出せない? なるほどな……少し耳を当てるぞ。これ使えると良いんだがな……【心音反響】」


 ヴァイルはそう言うと耳をシーラの胸に押し当てた。

 シーラは顔を赤くして戸惑いを見せる。


「ちょっと……ヴァイルさん……?」


「聴こえないな……すまないシーラ。服が邪魔だから脱いでくれないか?」


「え? 服ですか?」


「ああ。この【心音反響】は文字通り心臓の音を聴くことでその反響から相手の体を隅々まで把握するスキルだからな。心音が聞こえないと使えないのが欠点だが、魔力や呪力そして臓器の傷まで分かるんだ。残念ながら魂までは把握出来ないけどな」


「そっ、そんなに分かるんですね……分かりました……それでは脱ぎますね……あんまり見ないでくださいね……小さいので……」


 シーラが服を脱ぎ、細身の体にしてはかなり大きいものの、ラアナやリューゲと比べると少々慎ましいツンとした三角型の胸が露出した。

 シーラは羞恥心でいっぱいになりながら小さく声を漏らす。


「あの……早くお願いします……」


「え? ああ……それじゃあ耳を当てるぞ……」


「はい……んっ……あっ……」


「心音が激しくて逆に分かりにくいな……それに胸も邪魔だ……少し退けるぞ。」


「ひゃっ……」


 ヴァイルはシーラの谷間を開き耳を押し当てた。  

 ヴァイルは胸を掴みながら、つい独り言を漏らす。


「有るような……無いような……」


「んっ……え? ヴァイルさん……?」


「小さいな……小さい……いやでも、わりと有るような……良くて人並みか……?」


 初めて人間に【心音反響】を使うヴァイルは勝手わからず、シーラの胸を揉み解しながら何度も耳を押し当てた。

 シーラは足をピンと伸ばし、蕩けた声で問い掛ける。


「あっ……ちょっと……ヴァイルさん?」


「まあ、有ると言えば有るような気もするが……小ぶりというか……やはり小さいな。」


「これ魔力の話ですよねヴァイルさん!?」


「え? そうだが……他に何があるんだ?」


 ヴァイルはシーラの胸から顔を離して不思議そうに呟いた。

 シーラは胸を押さえ、涙目になりながらヴァイルを見つめる。


「それは……その……私の大事なところのことかと……」


「大事なところ……? そうか。そういうことか。シーラの魔力だがおそらく魂にあるんじゃないか?」


「魂ですか……?」


「確かにシーラからは突発的にだが、大きな魔力反応を感じた。だが、シーラからはその魔力が見つからない。そうなると残るは魂だろう。このスキルは魂までは把握出来ないしな」


「なるほど……ただ、魂から魔力ってどうすれば……?」


「大丈夫だ。方法なら一つ思い付いている。そうだ。念のため、ラアナにも【心音反響】を使っておくか。服を捲ってあげてくれないかシーラ?」


「はい。分かりました」


 シーラはラアナの服を捲り上げた。

 ヴァイルはラアナの胸に頭を付ける。


「うーん……シーラより聴きづらいな……」


「……━━聴きづらいならラアナの駄肉、削ぎ落としてもいいですよヴァイルさん」


 シーラは笑顔で腰に付けていたナイフをヴァイルに見せつけた。

 ヴァイルは困惑しながらラアナの胸に顔を埋める。


「いや……大丈夫だ……」


(ん? これは……そうか……そういうことだったのか……あいつらがラアナを狙っていた理由は……)


「どうでしたかヴァイルさん?」


「心音が激しいこと以外は特に異常は無かったな。俺様の名を呼びながら十人目とか言ってたからな。おそらく何か夢でも見てるだろう」


「へ? 十人目……十人目ですか……? ラアナ……どんだけ夢の中で盛って……えっと……そうですよね、ヴァイルさん。ラアナは変な夢でも見てるんですよきっと。あはは……とにかくラアナが無事で良かったです。頭打ってるとなるとやはり心配でしたから」


 シーラは柔らかい満面の笑顔を見せた。


「ああそうだな。ラアナが無事で本当に良かった」


(なんて……なんて莫大な呪力だ……幾千万の人間分の呪力を一人で……まさかこんな極上の贄を見つけられるとは……フフ、フハハハハハハ。天は俺様を見放していないということだろう。流石にラアナの命だけでは厳しいがこれなら簡単に竜に戻れそうだ)


 ヴァイルはシーラたちに背を向け、汚い満面の笑顔で空を見上げた。

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