第17話 壊れない黒剣と記録魔法
「出来たぞヴァイル。どうだ?」
「おお……凄いな。刀が黒くなってる」
ヴァイルはマキシムの家で黒錆加工をしてもらった剣を見ていた。
「それにしてもこれ凄い剣だなヴァイル。オリハルコン製なんてそうそう見れるもんじゃないぜ」
「そんなに珍しいのか?」
「ああ、オリハルコン製って言ったら人間が壊すのはほぼ不可能。竜災。それも竜の攻撃が直接当たる以外では壊れないって言われるほど頑丈な代物だぜ。作り方も竜が気まぐれで壊したオリハルコン結晶を数十数百年かけて少しずつ少しずつ加工していくものなんだぜ」
(竜に戻ったらオリハルコン製の武器を片っ端から壊すことにするか。ふふ。楽しそうだな)
「ただ、良かったのか? 錆びにくいオリハルコン製の剣に黒錆加工してもあんまり意味はないと思うぜ」
「いや、大丈夫だマキシム。これで良いんだ」
「そうか。それなら良かったぜ。ところでシーラから聞いたんだが、ヴァイルも転生者様の像巡ってたんだよな? どこらへんから巡ってたんだ? 行き違いになっちまったのかな?」
「どうだったかな……実は道に迷ってしまってあまり巡れなかったんだ」
「そりゃ残念だったな……今度は一緒に行こうぜヴァイル。転生者様の像って色んな国にあるらしいからな。機会があれば行ってみたいもんだぜ」
「ああ……次があれば頼むよ」
(まあ、お前に次なんて無いがな。色が変われば転移者どもにふと見られるぐらいなら問題はないだろう。よし。マキシムはぶっ殺してこの剣は売っぱらうか。さようならマキシム……)
「あっ、ヴァイル。その剣まだ乾いてないからしばらく使えないぜ。もうちょい置いとかなきゃいけないぜ」
「え?」
マキシムの背後から首を斬ろうとしたヴァイルは、その言葉を聞いて咄嗟に剣を止めるも、足を滑らし情けなく転がった。
転んだヴァイルの目に剣の柄頭が映り込む。
「痛てて……ん? なあ、マキシム。この剣の底に付いてる魔法陣は何なんだ?」
「それか? それは《ブラックボックス》っていう転生者様が開発した付与魔法の一種だな」
「どういう魔法なんだ?」
「ああ。その《ブラックボックス》は使用者や周囲の人間を記録してくれる魔法なんだぜ。ある程度の性能、価格の武器には付与するのが義務付けられてて、売る時や落し物として警察に届いた時に情報を読み込むんだぜ」
「え……? それじゃあ、この剣が作られてから全てのことがこれに記録されてるのか?」
「いや、そこまで記録はしてないぜ。破壊されないことを重視してる魔法だから怪我による魔力流出を感知した時ぐらいしか発動しないぜ。この魔法を破壊するならもう武器ごとって感じになるぜ」
(この剣に俺様が転移者の首を斬ったことが記録されているのか……しかも壊れない、捨てられないだと……ろくでもない魔法作りやがって転生者の奴……)
「はは……それは凄いな……」
「だろ? 転生者様、凄いよな。昔は武器や防具目当て冒険者狩りってのがあったらしいんだけど、この魔法のおかげですっかり減ったらしいぜ。それに人を斬れば斬るほど強くなる妖刀の抑制にも繫がったらしいぜ」
(それにしてもどうしたものか……転生者のことは心底嫌いだが、奴の真似をしっかり出来ていればこうはならなかったのは事実。これからは一層奴の真似を意識して……━━そうだ奴隷だ。奴隷をたくさん買って贄にしていけば、わざわざ三十人以上も転移者を殺して国を乗っ取る必要も無い。転生者の記憶では奴隷もそこまで高いモノではなかったはずだ……)
「なあ、マキシム。奴隷って……」
「やっぱり転生者様って凄いよな。人権宣言で奴隷を禁止して解放するなんてな」
「禁止? 解放?」
(クソが……転生者……あいつ、自分は買っておいて禁止にしやがったのか? ことごとく俺様の邪魔ばっかり……竜に戻ったら転生者の像は一つ残らず破壊しつくしてやる……)
ヴァイルは血走った目で一点を見つめていた。
マキシムの家の玄関扉が走って来たシーラによってドンドンと叩かれる。
「居ますかクソ兄貴!?」
「ど、どうしたんだシーラ?」
「ん? 何かあったのか? 」
「教会に侵入して来た二人組にラアナが拐われたんです。リューゲさんによると誘拐犯は大樹林を抜けるようとしてるとかで……今から馬車で追い掛けることは出来ませんかクソ兄貴?」
(人攫い……そうか。いくら奴隷禁止とはいえ、やはり完全に消えた訳では無い。裏で奴隷を買って贄にすれば金はかかるだろうがこれなら……)
「え? まあ、馬車は出せるぞ。とにかくラアナが拐われたんだな。他のみんなは大丈夫なのか?」
「リューゲさんは大怪我してましたけど……息はあったので多分大丈夫だと思います……マカさんは分かりません……見間違いじゃなければ屋根に刺さってたと思います……」
「へ? えっと……とにかく馬車を出そうか。ヨシ。行って来るぜ。シーラは俺の冒険者仲間に伝えておいてくれないか。悪いなヴァイル。シーラのことを頼んだぜ」
「何言ってるんですかクソ兄貴? 私も行きます」
「いや、シーラは留守番だぜ。そいつら危ないんだろう?」
「でも……それでも私も行きたいです」
(ラアナのことは心底どうでもいいが……こういう時、転生者なら迷いなく助けに行くんだろうな……まあ、こいつらに恩を売っておくのも悪くないか)
「俺様も行くぞ。助け合いだろマキシム?」
「ヴァイル……助かるぜ……ただシーラは……」
(そう言えばあの三人だとシーラが一番金持ってそうだったな。目の前で助けた方がより感謝されそうだし連れて行くことにするか)
「シーラなら俺様が守るから安心しろマキシム。連れて行ってあげたらどうだ? 俺達は犯人の顔が分からないしな」
「それは……分かったぜ。どうせシーラは言っても聞かないだろうしな」
マキシムはそう言うと事のあらましを紙に書いて石と共に隣の民家に投げ付けた。
「マキシムかてめええ。何しやがる」
「伝言は頼んだぜ。おばさん」
三人を乗せた馬車は爆速で大樹林と駆けて行った。
ーーー
計画失敗の結果、偵察の任務を中断し合流余儀なくされたソルシエールの部下である王女直属の親衛隊の二人(イリアとペルン)はカスパーを冷ややかな視線で見ていた。
「つまりあれですか? この男がミスをしたということですかソルシエール隊長?」
「えっと……そうね……」
「こいつの報酬、私たちの百倍って本当なのですか? いえ、私は報酬はどうでもいいのですけどね。国のため、王女様のため、報酬なんてなくてもいいぐらいです。贄は見つかったんですし、こいつは口封じとしてもうここで埋めませんかソルシエール様?」
「まあ……失敗は誰しもあることよ……二人とも、彼を悪く言うのは辞めてあげなさい」
「いや、失敗したのあんたじゃないすか!?」
「離してよー」
「ぐはっ……」
魔力の鎖で上半身を縛れているラアナは隙をついてカスパーを蹴飛ばした。
鎖を持っているイリアは鎖を引っ張りラアナを動きを抑制する。
「こら、お嬢ちゃん暴れないの」
「きゃっ……うぅ……」
「やっぱり、こいつ埋めて行きませんか? この状態のただの少女に蹴り入れられるとか、とっとと口封じした方がいいですよ。私の何十倍の報酬貰ってるのが非常に腹立たしいです」
「あんたさっきまで報酬はどうでもいいとか言ってなかったすか? あのババアにボコられてない状態だったら俺だってこれぐらい避けれ……多分避けたと思うっすよ……ん?何かが来て……馬車?」
爆速のぶっ飛んで来た馬車は着地の衝撃粉々になりながら停止した。
「ちょっと、クソ兄貴! また誰か轢いたんじゃないですか? 何か鈍い音しましたよ……」
「悪い。暗くて何が何だか……」
(痛た……やっぱり助け行くんじゃなかったな……)
「あっ、この人たちです」
「こいつらなんだなシーラ。ん? ラアナ……?」
ラアナは頭から血を流し、ぐったりと倒れていた。
それを見たマキシムは激昂し、大剣を取り出し斬り掛かる。
「許せないぜ。よくもラアナを! うおおおお!」
「くっ……重い……」
剣を抜き、何とか攻撃を受け止めたペルンが片膝を付く。
(あれ? ラアナ死んでないか? これでは恩を……まあ、良いか……とりあえずここはマキシムみたいに怒る演技をしておこう)
「よくもラアナを痛めつけてくれたな!」
「そうです。絶対に許しません!」
「え? あのお嬢ちゃん轢いたのはあなたたちでしょ……?」
目の間でラアナを轢き飛ばされたイリアはふと声を漏らす。
「━━は……?」
転生者の記憶を見てもどうにもならない状況に陥ったヴァイルはバグり、シーラの方を見て固まった。
「え……? ━━許しません!」
シーラは微妙な表情でキョロキョロした後、何事もなかったかのように、もう一度怒り始める。
「うおおおおおお!」
幸いにも真相が聞こえなかったマキシムは大声を出し何度も斬り掛かる。
カスパーは当然のように馬車に轢かれて木に突き刺さっていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。