第16話 教会ではお静かに
「おや、こんな時間に何の用だい?」
「おっと……こんばんは……いや、おはようございますと言った方がいいんすかね? 今時、二時に起きてるシスターなんているんすね。信仰がお深いようで」
正面から堂々と教会に侵入したカスパーの目の先にはマカが立っていた。
マカは寝ぼけた様子で口を開く。
「ん? 何を言ってるんだい、お前さん。私は神に祈るためにこんな時間に起きたことなんて一度もないよ。目が覚めちまっただけさ。用があるなら手短に頼むよぉ」
「手短にすっか。そんじゃ、おばあちゃん。ちょっと質問なんすけど、この辺りに住んでる金髪の女の子って知らないっすか?」
「う〜ん……金髪の女の子は知らないねぇ……ところで教会の結界が調子が悪いみたいでねぇ。お前さん、何か知らないかい?」
「ありゃ……やっぱり気づいてたんすか。じゃあ、話は早いっすね。この様子だと俺の目的も分かってるんすよね?」
カスパーは短剣に手をかけた。
マカは魔力を高めていく。
「ん? あっ、分かったよぉ。お前さん、巷で評判の私に夜這いしに来たんだろう?」
「は……?」
「そうだろ。そうだろうねぇ。金髪の女の子……もしかしなくても私のことだろうねぇ」
白髪で老人のマカは魔法を使い、肉体を強化した。
それを見たカスパーは短剣を取り出す。
「え……? 何を言って……」
「何だい? 私の評判を聞いて来た熟女好きじゃないのかい? まあ、違ってても別に構わないけどねぇ。気持ち良くしてやるから早く脱ぎな餓鬼!」
「……さっきから何言ってるんすかこの変態ババア! だいたいどこが金髪の女の子なんすか? 悪いけど手加減は出来ないっすからね」
「何を言ってるんだい? 今でも下は金髪の女の子だよぉ!」
カスパーの投げナイフを避けたマカはカスパーの顔を拳で殴りつける。
それと同時にカスパーもマカを蹴り付ける。
「うっ……うん……どうしたんですかマカさん……━━え? これはどういう状況なんですか?」
「見たらわかるだろうシーラ? 私を夜這いしに来た男と遊んでるんだよぉ」
「何が夜這いっすか。ちょこまかと動いて……無駄に元気っすね」
「ほら、前の遊びは見世物じゃないんだよぉ。早くみんな連れて逃げな」
「はい」
目が覚めたシーラにマカはカスパーと戦いながらそう言い放った。
少し遅れて目が覚めたラアナとリューゲは眠そうに口を開く。
「夜這い? ヴァイルが私に夜這いしに来てくれたの? えへへ」
「何を寝ぼけたことを言ってるのですかラアナちゃん? ヴァイルさんは私に夜這いしに来てくれたんですよ」
「二人とも、何を寝ぼけているんですか……私たちじゃどうにもならないので人を呼びましょう」
「あれは盗賊なのかな?」
「どうなのですかね? この教会に金目のものは無いはずですけど……まあ、目的は分かりませんが弱そうなので大丈夫だと思いま……」
「何やってるのよ? もう私も教会入れるぐらい結界中和出来ちゃったんだけど……これじゃあ、お前だけ結界入れるようにした意味がないじゃない。追加報酬は無しで良いわね?」
ソルシエールが教会へと入って来た。
カスパーはバツが悪そうにソルシエールに話し掛ける。
「いや……このババアが結構強いんすよ。すでに金的三発はキメられたっす」
「は? お前……シスターの……それもおばあちゃん相手に苦戦してたの……? 道に迷ったとかじゃなくて?」
ソルシエールは心底呆れた様子でカスパーを見つめた。
ソルシエールを見たリューゲは顔を青くして二人に語り掛ける。
「私はマカさんを援護するために残ります。シーラちゃん。ラアナちゃん。私のことは気にせず逃げてください」
「リューゲさんは逃げないですか?」
「私は多少は戦えますから大丈夫です。いいから早く!」
「リューゲって戦えたんだ……うん。分かった。行こ、シーラ」
「あ……はい。リューゲさん、お気をつけて……」
二人は教会の奥へと駆けていった。
マカはソルシエールの大きな胸を見ながら口を開く。
「ほぉ~、なかなか良いおっぱいの美人さんだねぇ……やっぱり人は多いに越したことはないからねぇ……私はどっちもいける口だよぉ。お前さんはどうだい?」
「どっちも……? 何を言って……まあ、いいわ。一撃で楽にしてあげる」
「な?」
ソルシエールは無詠唱で火の玉を放った。
マカは反応することすら出来ずに吹き飛ばされ、祭壇に衝突する。
「マカさん……やはりやるしか……」
マカの敗北を見てリューゲは魔力を高めていった。
それに気づいたソルシエールが咄嗟に魔法を撃ち込む。
「《フレイムバースト》」
「【トライアン……きゃっ……」
大爆発が起き、それをまともに食らったリューゲは吹き飛ばされていった。
気絶していたマカは爆風で舞い上がりステンドグラスを割って外へ放り出される。
━━教会を中心に爆音が鳴り響いた。
「え……? 何をやってるんすか? 大きな音って駄目なんじゃないんすか?」
「仕方ないでしょ……つい、撃ちゃったのよ……」
「あのババア倒した魔法でよかったじゃないすか。何でただのシスターにこんな魔法つかったんすか? 人が来ちゃうっすよ」
「分かってるよ。そんなこと」
そう言うとソルシエールは全速力でラアナを追って教会の奥へと駆けていった。
━━後ろから来た爆音で吹き飛ばされた二人は倒れ込んでいた。
「わっ……」
「痛た……いったい何が……というかさっきマカさん飛んでませんでした……?」
「そう……? 私はリューゲが後ろから飛んで来たように見えたけど……」
「見つけたわ金髪。《チェイン》」
すぐ追い付いたソルシエールはラアナを見つけると魔法を発動し、魔力で出来た鎖でラアナに襲いかかる。
「え? きゃー」
「ラアナ!?」
「一応、この黒髪も倒しておこうかしら……」
ラアナを捕らえたソルシエールは、シーラに目掛け無詠唱で火の玉を放った。
満身創痍のリューゲが魔力そのものを撃ち出し、火の玉と相殺させる。
「させません……」
「くっ……やはりお前からは……口封じといきたかったけど……流石に厳しいわね……」
ソルシエールはリューゲを見ると、諦めてカスパーのいる所へと戻っていく。
「目当ての贄は捕らえたわ。撤退よ傭兵。これ以上は本当に人が来ちゃうわ」
「一応、計画成功っすか……? 了解っす」
二人はラアナを連れ、闇の中へと消えていった。
倒れ込んだリューゲにシーラは近寄り、容態を気遣う。
「大丈夫ですか、リューゲさん……?」
「私は大丈夫です……それよりラアナちゃんを……おそらく彼女たちは大樹林を抜けようとするはずで……マキシムさんたちに伝えてください……馬車で全力で追えば間に合うかもしれません……」
「本当に大丈夫なんですねリューゲさん……? 分かりました……」
リューゲは伝言を言い切ると気を失った。
シーラは走ってマキシムの家へと向かっていく。
吹き飛ばされたマカは教会の屋根に刺さっていた。
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