第11話 邪竜VS雷ギャル(転移者)〜壱〜毒の剣が突き刺さる
「それにしても……本当に腹立つ顔だな………死ね転生者」
ヴァイルは立ち上がり、笑顔の転生者、田中の像の首を蹴り飛ばした。
「そうか……俺は転生者のお陰で助かったのか……━━あっ、お前、あの時の……」
倒れ込んでいた転移者、運賀に女物のビキニアーマーを着た変態が目に入った。
ヴァイルと運賀が落下した衝撃音で帝都の大衆が上を見上げる。
「何だ? 屋根の上に変態がいるぞ」
「何だあれは……露出狂みたいな……」
「どこだ? どこにおっぱい大っきいお姉ちゃんがいるんだ!?」
「どけ!俺にも見せろ!」
「露出? 女? 女か!? ━━男じゃねえか!」
「下が騒がしいな。しまった……大勢の人間に顔を見られてしまったか。転移者がお前一人だったら問題なかったんだが、複数人いるとなると顔を覚えられるのは困る。無益な殺生は嫌いなんだが……まあ、仕方ないか」
転んだ時にローブが脱げてしまっていたことに気づいたヴァイルは開き直り、魔力を高める。
「何をするつもりだ……? まさか……」
「決まってるだろ鏖殺だ《グ……」
ヴァイルの背後に雷が落ちた。
ヴァイルは魔法の発動を中断し、後ろを振り返る。
(こいつ……転移者か……)
「あっ、運賀じゃん。なんか生首飛んで来たんだけど〜ウケる」
雷と共に現れた金髪の警官帽を被った白ギャル風の美少女、稲妻雷葉(イナズマライハ)は田中の首を指で回転させながら、へたり込んでいた運賀を呼び掛けた。
(━━ん……?あれは……転生者の首? もしかしてあれのせいでここに……?いや、深くは考えないことにするか……)
「稲妻さん……? あっ、それさっきの……」
「怪我してんの? 大丈夫そ? てか、帝都に変態が二人もいるって通報を受けたんだけど何か知らない運賀?━━きゃっ……え? もう一人の変態って……もしかして運賀じゃないよね……?」
「いや、俺は違うって。変態はこいつだけだよ。もう一人はどこに行ったか分からないけど……」
「変態……? ━━何を言っているんだ? 変態はお前のことだろ。変態とは、引かれたり、涙を流して嫌がられる転生者みたいなクズな人間のことを言うんだろう? 実際、お前の周囲の人間は変態がいると逃げていたじゃないか」
「あれはお前らを見て逃げて行ったんだよ。俺に擦り付けるなよ」
「運賀……ないわ〜指詰める?」
「詰める……? いやいや、稲妻さん。誤解だよ」
「ん? 擦り付けているのはお前だろ。俺様を転生者なんか一緒にするな。お前はごめんなさいごめんなさいと女を二人を泣かせていたじゃないか。」
「うっわ〜運賀さぁ……嘘ついたの? もう詰めるしかなくなっちゃったし……あっ……警察は詰めないんだった……えっとね……自白した方が罪は軽くなるよ運賀……」
「怖いこと言わないでよ……というか何でクラスメイトよりこの変態を信じるんだよ……あれに事情があって……あっ……」
運賀は弁明のため、思わず立ち上がる。
━━ヴァイルが持っていた小型のナイフは、ヴァイルが転倒した時に手から滑って吹っ飛び、運賀のズボンとパンツに突き刺さっていた。
運賀が気づかず勢い良く立ち上がった結果、ズボンとパンツが破れ、下半身が露わとなる。
「は? あーしに粗末なモノ見せないでくれる……?」
「ん? ━━何がゾウさんだ転生者……それにしても……ふっ……確かにお前の小さいな……」
転生者が酒の席でぶん回していた記憶が読み込まれ怪訝そうな表情をしたヴァイルは運賀を見て鼻で笑う。
「何なんだよ! 俺が何か悪いことしたのかよ!━━ともかく稲妻さん。こいつはただの変態じゃないんだ。応援を呼んでくれないか? 戦闘狂か革命家か素性は良く分からないけどめちゃくちゃ強いんだよ。俺は強いからって理由で命を狙われたし、王族貴族を潰すとか言ってたし、目撃者も皆殺しにしようとしてたんだ」
「ふ〜ん。とりま、このキモいの邪魔だから持っててくれる? ま、運賀の話は刑務所でゆっくり聞くから」
「刑務所って…… ━━うわっ……」
雷葉が運賀の方へと田中の首を投げ飛ばす。
「隙だらけだぞ、お前」
「公務執行妨害ってことで良いよね、おに〜さん? で、それ、あーしに当たると思ってた感じ?」
雷葉は警察手帳を見せると目を狙ったヴァイルの手刀を人間離れした反射速度で避け、ハイキックをヴァイルの顔に食らわせた。
ヴァイルの鼻から血が垂れる。
(鼻血……? なるほどな。誘っていたのか……)
「お前こそちゃんと当てる気はあったのか? かすったか程度で調子に乗るなよ。とはいえ……人間にしてはなかなかやるな。お前も転移者か?」
「はいはい。ありがと。そうだよ〜で、おに〜さん、何者? ━━え?」
体力の限界で田中の首をキャッチ出来なかった運賀は屋根から転げ落ちていた。
「フハハハハ。感謝するぞ。わざわざあいつを倒してくれるとはな」
「え? あーしのせい……?」
「大丈夫だよ……それよりそいつを……」
「ひでぇ……いくらモロ出しの変態だからって……」
「そうよ。いくら変態でもここまでボコボコにするの……?」
一部を見ていた帝都の民衆が雷葉に詰寄った。
責められた雷葉は鬱陶しそうに話す。
「いや……あーしのせいじゃないし……ま、トドメはあーしかもしんないけど……」
「おい婦警。これは特別公務員暴行陵虐罪なんじゃないか?」
「チッ、うるさいし……あーしのせいじゃないよね運賀?」
「あ、うん……(というか何だよその法律……)」
「言わせされてるんじゃないの変態さん?」
「え? いやだから俺は変態じゃないって……体は大丈夫だよ。俺、転移者だし」
「お前みたいな小さくて弱そうな奴が転移者なわけないだろ! 黙ってろ!」
「えぇ……」
(ん? 何をモメているんだこいつらは? しかし、鼻血が止まらんな……かすっただけだと思ったんだがな……しっかり……当たってやがる……)
「あのさ~運賀……あのおに〜さんって皆殺しにしようとしてたんだよね? それってこの人たちも含まれてるの?」
「え? 顔を見られたって言ってったから多分そうだと思うけど……」
「そうなんだ。━━皆殺し……皆殺しね……」
「稲妻さん……? 」
「皆殺しかぁ……ま、それなら……ちょっと死んじゃってもしゃーなしみたいな?」
「え? 稲妻さん……!?」
(まあ、良いか。モメてるのは好都合だ。さて、どいつから殺そうか……強い奴、弱い奴、そして雑魚ども……やはりここは強い奴から……)
「ダーリン見て、変態が鼻血出してるわ。きっと私に興奮しているのね」
「また君は何を言ってるんだ。さっきそれで追い剥ぎに殺されそうになったじゃないか。というかあれさっきの追い剥ぎじゃないか? 」
「ちょっとそこのあなた。私は旦那がいるんだからね。変な気は起こさない方が良いわよ」
(……━━やっぱり雑魚どもから殺すか……)
鼻血を垂れ流していたヴァイルは呼び掛けてきた女を見て魔力を高めた。
魔力を察知した雷葉の周りに雷が走る。
「おに〜さん何してるし……させないよ」
「くっ……」
雷葉は一瞬で距離を詰め、ヴァイルを蹴り上げた。
腕で防御したヴァイルは遠くへと蹴り飛ばされる。
「あのさ~殺すなら運賀の近くにいた奴ら狙ってよ〜」
「安心しろ。目撃者は全員殺してやる」
高速で近づいてきた雷葉は着地の瞬間を狙いもう一度ヴァイルを蹴り上げる。
間一髪のところでかわしたヴァイルはカウンターを雷葉にぶち込んだ。
「てっきり戦う気が無いのかと思っていたぞ。さっきの奴みたいに逃げてくれるなよ」
「おに〜さんこそ逃げないでよね。逃走されるとめんどくさいし」
「ふっ、逃げるわけないだろ。逃げるなんて雑魚のすることだぞ。フハハハ【断罪】」
「きゃっ……」
雷葉の首元へ斬撃が飛んだ。
ヴァイルは既のところでかわした雷葉に殴りかかる。
(体が動かない……?)
雷葉に触れられたヴァイルの体は感電して動きを止めた。
雷葉はヴァイルにジャブとストレートを打ち込むと一本背負いで投げ飛ばし、雷撃を叩き込む。
「【雷神】」
(これはやはり雷を操りスキルか……?)
「ぐはっ……━━くっ、【断罪】」
ヴァイルは痺れた体を何とか起こしてもう一度首を狙う。
「当たらないよ。おに〜さん」
攻撃をかわした雷葉はヴァイルに飛び回し蹴りをぶち込んだ。
ヴァイルは何とか立ち上がり空を見上げる。
「さてと……」
ヴァイルは逃げた。
足に魔力を集中させ全速力で逃げていった。
「は? え? ちょっと逃げるな……待つし。逃げないんじゃなかったのおに〜さん?」
「戦略的撤退だ! 勘違いするな!」
(しかし、どうしたものか……反応速度が早くて【断罪】が当たらない……かと言って肉弾戦をするにも触れられると痺れて……とはいえ逃げ切るのも不可能だろう……━━そうだ。あれがあったな)
「《グランドニードル》」
ヴァイルは急に向きを変え、魔法で更にスピードを上げて走り出す。
雷葉は負けじと加速し、ヴァイルを追う。
(確かここに……)
「待つし……━━え? いない……下?」
ヴァイルを追う雷葉が建物を越えるとヴァイルの姿は見えなくなっていた。
建物の影に隠れていたヴァイルは奇襲を狙う。
「【断罪】」
「うわっ……危な〜」
「まあ、これは避けられるか。だが、本命はこっちだ」
ヴァイルは回収した運賀との戦闘時に屋根に刺さってしまった毒の塗られた剣をぶん投げる。
(かすりさえすれば俺様の勝ちだ。ふっ……まあ、人間なんてこんなものだよな。少々無様は晒した気もするが……そもそも転生者だって不意討ちで穴に剣を刺しやがったんだ。問題ない)
「━━はぁ……はぁ……死ぬとこだったし……これ返すね、おに〜さん」
スキルで鉄の剣に磁力を持たせた雷葉は紙一重の所で剣を止め、ヴァイルに向かって跳ね返した。
「へぇっ……?」
剣は変則的な軌道を描きヴァイルの尻へと突き刺さった。
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