第10話 邪竜VS運無し転移者〜弐〜首が宙を舞う

「━━ともかくだ。俺様がお前を王にしてやろう。人間は王族や貴族と弱い奴が偉そうにしているんだろ? おかしいとは思わないのか? 俺様は弱いくせに偉そうな奴が嫌いなんだ。お前も一番強いものが一番偉くあるべきだとは思わないか?」


 空を見上げ、一呼吸置いたヴァイルは転移者、運賀内人(ウンガナイト)に語り掛けた。


「別に俺は王様になりたいとは思わないよ。そもそも俺が一番強いというのも……」


「安心しろお前は強い。俺が戦った人間の中では二番目にな。ちなみに、一番強かったのは転生者、田中太郎(タナカタロウ)だ。まあ勿論、俺様が圧勝したわけだが……確かに、あいつはお前より何倍も強かったな。だが、転生者はもう死んだんだろう。もう一度聞くぞ。弱いくせに偉そうにしているカスどもを潰してお前が人間の王にならないか?」


「転生者のことはよく分からないけど、仮に俺が一番強くても力で人を従わせたいなんて思わないな。それにさっきから俺が一番強いって言ってるけど何かの間違いじゃないか……? クラスで転移してきたけど、俺は他の人と比べて魔法もスキルもあんまりだったしな……」


「そうか残念だ。さようなら転移者……おい待て、クラス……?━━クラスって田中が孤立していた集団のことか……ということはお前以外にも転移者がいるのか?」


 転生者の自分だけが誘われていなかったクラスラインの記憶を見て、クラスの意味を理解したヴァイルは、顔を青ざめて運賀に問い掛けた。


「そりゃクラスで転移したんだから三十人くらいはいるけど……(てか、田中……転生者って友達いなかったのか……)」


(は……? そんなの聞いてないぞマキシム……こいつ以上の強者……転生者並みが複数人か……? いや、こいつ程度でも数十人から同時に魔法で攻撃されたら……クソッ、竜に戻れれば転生者程度、何人いようが……)


「ハハ……何だ。お前が最強ではなかったのか……ならば、お前にはもう用は無い」


 ヴァイルは背を向けて去って行った。

 ━━見えなくなった瞬間、全力疾走で遠回りして運賀の背後を取ったヴァイルは、小型のナイフで斬り掛かる。


「何だったんだあいつ……それにしても死ぬかと思った……━━は? お前、用はないんじゃなかったのか?」


「気付かれたか。まあ良い。口封じだ。死ねええ」


「口封じ……? くっ、《グランドニードル》」


「はっ、当たるかよ。そんなもの。お前はまだ毒で動けないはずだ。懐に入れさえすれば俺様の勝ち……は?」


 ナイフが空を切る。

 大地から勢い良く出た土の針が運賀を突き飛ばした。


(こいつ、俺様の真似をして……)


「おい、待て転移者。逃げるなんて雑魚のすることだぞ。」


「痛た……知るか。待つわけないだろ!《グランドニードル》、《グランドニードル》」


 運賀は魔法を連続で発動し移動する。

 ヴァイルと運賀の距離が段々と離れて行く。


(クソッ……何か……何か無いのか? 毒も回復してきたみたいだ。かと言って、スキルを使うのはリスクが……ん? ━━そう言えばこいつ周りの人間を巻き込む事を気にして……)


「転移者、お前が逃げるのをやめないなら代わりそこら辺にいる他の人間を殺すぞ。それでも良いのか?」


「な……? ━━いや、お前は危険だ。俺は早くみんなに知らせて救援を呼ぶべきだ。口封じって言ってたってことは転移者が集まればお前でも厳しいってことだろ?」


「チッ、仕方ないか【断罪】」


「うわっ……」


 転移者は無理な体勢に成りつつも、何とか攻撃を避ける。


(これも避けたか……━━そうか、こいつのスキルは……)


「俺様の蹴りを背後からまともに食らうような奴が高速で首へと斬撃を飛ばす俺様の【断罪】を避けられる訳が無い。つまりはそういうスキル。お前のスキルは生命に関わる攻撃に対する回避力が火事場の馬鹿力の様に大幅に上昇する【致死回避】だろう?」


「━━もしそうだったら何だって言うんだ?」


「その反応……図星だな。お前をすぐに殺すのは至難の技だ。だが、逆に言えば一撃で致命傷にならなければ当たるのだろう?」


「なぶり殺しってか……やってみろよ」


「いや、そんな面倒なことをしなくとも一発当たれば十分だ。やはり、竜の時の魔法は全部使えなくなってしまったが人間の魔法なら使えるみたいだな」


「《グランドニ……魔法陣? うわっ……」


 転移者が魔法を発動するより先に無詠唱で発動したヴァイルの《グランドニードル》が転移者を突き飛ばす。


「言っただろう? 無詠唱の方が発動は早いって」


「俺と同じ魔法を……しまった空中に……」


「全く同じというわけではないがな。お前にさっき当てた魔法自体に殺傷能力は無い。発現させたのは針の土台部分だけだ。さて、どうする? 空中では攻撃は避けられないぞ」


「そんなの《グラ……あっ……」


 運賀の見た景色は人の密集した大通りであった。

 ヴァイルが汚い笑みを浮かべ加速していく。


「ああ、そうだ。お前の魔法で足場を作れば良い。ただ、ここでお前が魔法を使えば確実に死人が出るぞ」


「畜生……」


「フハハハ。何で死にたい? 【断罪】か? それともお前の魔法で他の人間ごと殺してやろうか?」


「お前!」


「ギャハハハ。まあ、俺様も鬼では無い。この手で楽にしてやるよ。俺様の勝ちだ転移者ああああ……━━え? うわっ……」


 運賀の落下点である向かいの建物へと走って斬り掛かろうとしたヴァイルは何かに足元を取られ宙を舞う。


(何が起こった? 転移者が魔法を使ったのか? いや魔法の反応は感じなかったが……━━これは……転生者の像の首!?)


 ヴァイルの瞳にヴァイルが切断し、遥か彼方へと蹴飛ばした転生者の石像の首が映り込む。

 ヴァイルはそのまま情けなく転がりバウンドして建物の屋根へと突っ込んだ。


「ぐへぇ……は?」


 田中の首が背中から落ちたヴァイルの顔の側へと落ちる。


(危ない……━━クソ……こっち見んなよ!)


 田中の首が落ちて来た方をヴァイルが見ると、まるでガチ恋距離の添い寝のように、ヴァイルの顔を田中の首が覗き込んでいた。

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