第10話

望奈は劇団あすかに行った。

そして稽古場を覗いてみると、暖が1人で台詞を言っていた。

台本は既に見ていない。

完璧に諳んじていた。

「あの…… 」

おずおずと望奈は室内に入って来た。

「じゃあ、早速始めようか。此処は他の人が来るから別室へ行こう」

望奈は暖について、違う部屋に入った。

物置きのようだ。

パイプ椅子が積み上がっている。

「ではシーン、7からもう一度」

望奈は確認のために台本を開いた。

「台本見ないと分からないの?」

「不安で…… 」

望奈は口籠る。

「大丈夫。俺が付いてるから。思い切り演ればいい」

暖は望奈の顔を見ながらはっきりと言った。

「じゃあ、シーン7から」

背中を押してくれるような力強い声に励まされて望奈は思い切り声を張り上げた。

途中で声が裏返ってしまう。

暖は笑い出した。

まるでそこだけ日が差し込んだような明るい笑顔だった。

望奈は恥ずかしいのも忘れて、その笑顔に釘付けになった。

「演技の稽古、した事ないの?」

暖は笑いを止めると真剣な目を向けた。

望奈は黙って頷いた。

「そう。じゃあまずは発声練習からだ。演技はその後だな」

暖は真っ直ぐに望奈を見つめた。

その光の強さに望奈は釘付けになっていた。

「あー!」

暖の声が室内に響き渡る。

「やってみて」

暖に言われて望奈はおずおずと口を開いた。

「あー」

「もっと堂々と!お腹の底から声を出して!」

暖の声が飛ぶ。

「あー!」

望奈は声を張り上げた。

「違う!それじゃただ喚いているだけ。もっと真っ直ぐに!」

暖は再度手本を見せる。

「あー!」

張りのある声が2分近く伸びている。

望奈は驚いていた。

「あー!」

望奈は胸を張って声を上げた。

「少し良くなった。もっと胸を張って」

望奈は再度発声練習をした。

暖の顔が柔らかになった。

「あめんぼあかいなあいうえおー!やってみ

て」

結局、発声練習だけで2時間掛かっていた。

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