第9話

撮影が始まると、暖の表情はガラッと変わっ

た。

普段の穏やかさが消え、悲しみと憂いを含んだ孤独な少年の姿になる。

望奈にとっては初めての映画、初めての演技である。

「私だって高坂君が好きなのに!」

「違う、望奈、そんな言い方じゃない!」

監督に何度も指摘を受けて、何度も撮り直しになっていた。

「もっと切なさと必死さを込めて!」

結局その日はそれ以上進まず、残りは明日になった。


悔しかった。

何も出来なかった。

同じ台詞を何回言わされたのだろう。

周りのスタッフ達のため息が聞こえた。

望奈が廊下の片隅で悔し涙に暮れていると、暖がやって来た。

「泣いても何も変わらないよ」

「ごめんなさい。迷惑かけて」

初日はボロボロだった。

「本当にそう思っているのなら、劇団あすかに来て」

暖はそれだけ言うと、そのまま行ってしまっ

た。

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