第8話

映画の顔合わせの日が来た。

「高坂真斗役の吹石暖です。宜しくお願いします」

望奈は初めて間近で暖を見た。

身長は175CMぐらい。スラリとした身体つきをしている。

声は張りがあって、決して大声でないのによく通る。

喉が鍛えられているのだ。

眼差しは温かみがある。

寒い日に飲むミルクココアみたいな感じで、望奈は初めての顔合わせの緊張が和らぐのを感じた。

そして顔は超イケメンである。

自己紹介が終わると、早速本読みに入った。


「お疲れ様」

望奈がパイプ椅子に座って休憩していた所へ、海苔巻きが乗った包みが差し出された。

見ると吹石暖である。

「有難う」

暖は隣の椅子に座った。

暖の表情は穏やかである。

「えっ?」

望奈が暖を見ていると、暖が首を傾げた。

「私、見ました。セブンティーン」

それはまだ望奈が普通の少女の時に見た映画だった。

難病で余命のない少年と、合唱部の少女の切ない恋物語だ。

暖は主役の少年を演じていた。

明るくてクラスメートを笑わせる性格と、内に秘めた哀しさでラストは涙なしでは見る事が出来なかった。

暖は少し照れ臭そうに笑った。

「有難う。撮影頑張ろうね」

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