第7話

「何かあったのですか?」

望奈を一目見た瞬間に、直樹が心配そうに声を掛けて来た。

望奈は分からないように、顔を整えていたのだが、直樹には直ぐに分かった。

何も言わずに望奈は後部座席に乗り込んだ。

ドアを閉めると、直樹は運転席に座った。

「失恋しちゃったの。でも心配しないで。仕事はちゃんとやるから」

望奈は努めて平静を装った。

「泣いていいですよ。そう言う時はちゃんと泣かないといけません」

直樹の言い方が妙に優しく感じられた。

空気が柔らかい。

直樹はいつも冷静で穏やかな話し方をする。

望奈は芸能界に入って3ヶ月経つが、まだ直樹が怒るのを見た事がなかった。

「彼はサッカー部。私も彼女も入学した時から好きで、いつも2人で練習見ていたの。もうカッコ良かったんだから!」

「同じクラスの人ですか?」

直樹が穏やかな口調で訊いた。

「そう。昼休みにも友達とサッカーをしているの。私は彼女とその姿を見るのが楽しみだっ

た」

望奈は知らず知らずのうちに、悠真の事を直樹に話していた。

涙が次から次に溢れ落ちた。

気持ちを落ち着かせようと、飴を一つ口に入れる。

直樹は何も言わずに運転を続けている。

「いつも2人で彼の事を話してた」

空気が暖かかった。

望奈は気が付いた時には、自分の恋の話を直樹にしていた。

「彼女とはお話出来たんですか?」

「彼が彼女を好きだって事を伝えたら、彼女は泣いていたわ。だから彼の気持ちにちゃんと応えるように言ったの」

「よく…… 頑張りましたね」

直樹の声が微かに震えた。

望奈は号泣した。

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