第22話

said:結愛


 仕事を終えるたびに現れる彼女。


 千都さんには動向を探りたいから、適当にあしらえって言われている。


 そうは言われても適当にって…。


 この子が勘違いしてるってことはわかったけど、それも真実かどうかはわからない。



「ねぇねぇお姉ちゃん」


「………」


「いつ旦那様を返してくれるのかなぁ?」


「私の旦那様が誰か知ってるの?」


「あったりまえでしょー」


「名前言ってみてよ」



 そう言うと彼女はクスッと笑って、私と腕を組んだ。



「霧島千都、だよね?」


「ッ!?」



 その言葉を言われた瞬間、お腹に電気が走った。


 振り向こうとしても意識がだんだん遠のく。


 彼女の手にスタンガンが握られてるのを最後に意識がなくなった。



………



 バシャンッという音と冷たい温度に目が覚めた。


 ポタポタと前髪から水滴が滴っている。



「ぇ……?」



 ハッとして顔を上げれば、彼女がバケツを持ってニヤリと笑っていた。



「いい気味」


「……こんな真似して何になるの」


「あははっ! 私の旦那様をとった罰に決まってるじゃない」


「あなたのじゃない!」



 立ちあがろうとしたけど、手と足が鎖でつながっていた。


 これじゃあ逃げられない。


 早く帰らないと千都さんに迷惑かけるのに…!


 あれだけ気をつけろって言われたのに私のばか…!


 スマホを確認したくても手は動かせないし、バッグも見当たらない。


 それに服も脱がされて下着姿になっている。


 千都さんには迷惑をかけたくなかったのに。


 これじゃあ幻滅されちゃう…。


 ……捨てられたくないよ。



「なに、泣いてんのよ。気持ち悪いなぁ」



 その瞬間、バシャンッとまた水がかけられた。


 その冷たさに体が震える。


 はやくにげないと。


 でも手も動かせないし、どうしたら…。


 周りを見渡せば、建物が工場っぽい感じの場所で、床もコンクリートで冷たい。



「まあいいや。じゃあ私はこれから旦那様のところに行くね」


「ぇ……?」


「私があんたの代わりになるの! じゃあね、お姉ちゃん」


「待って! ねえ、待ってよ!」



 私の制止は聞かずに、彼女は私のバッグを持って背中を向けた。



「いや! ねえ、行かないで!! おねが、お願いだから…!」


「じゃあ、楽しんでね。お姉ちゃん」



 そんな私の叫びも無視して、彼女は立ち去っていった。


 私の服を着て、私の靴を履いて、私のバッグを持って…。


 そして私の前には深くフードをかぶった三人の男の人たちが迫ってくる。



「いや、いや…いやぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!」

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