第21話

said:千都


 結愛が眠って、布団を抜け出した。


 静かに掛布団をかけなおし、部屋を出る。


 部屋を出れば時雨が待機していて、歩き出す俺の肩に背後から羽織りをかけた。



「結愛ちゃんには言わなくていいの?」


「言う必要ねぇだろ」


「喜んで協力すると思うけど」


「変に気を張られるよりはマシだろ。それにまだあいつにそんな勇気はねえよ」


「元カノさんと比べるのどーかと思うけど」


「うるせぇ」



 比べてるわけじゃねぇけど、でもやっぱり俺の女になるという意味では評価が変わる。


 あいつとよりを戻すつもりもなければ、結愛を手放す気など一切ない。



「でもさすがヤクザだよねー。元カノさんといい、結愛ちゃんといい、残酷なことをする奴だ」


「元カノって言い方ヤメロ」


「はーい」


「結愛には言うなよ」


「わかってますよー」


「どうだか」



 書斎に入ってスーツへと着替える。


 黒シャツに黒のネクタイ。


 汚れてもいいように、仕事着は全身真っ黒だった。



 着替えを終え、廊下に出ると背後から肩をぽんっとたたかれる。



「若頭、これだけはもう一度言っておくよ」



 いつもの明るさはなく、低い声で時雨は静かに言葉を放つ。



「結愛に傷一つでもつけたら許さないから」


「……わかってるっつうの。てめぇとの約束だからな」


「わかってるならよろしい」



 それが結愛を霧島家に受け入れる条件だったから。


 いつもの調子に戻った時雨に俺は静かに息を吐いた。



「てめぇこそ結愛に嘘ばっかついて泣かせんなよ」


「なんのことだかわからないなぁ」


「はぁ…」



 時雨に気は許せない。



 この家の人間ではない、『外部の人間』なのだから。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る