第23話
「結愛」
大好きな人の声。
優しくてかっこよくて、わたしを大切にしてくれる大好きな人。
「ぇ………っ?」
伏せていたぐちゃぐちゃの顔をあげた。
襲ってこない人たちに不思議に思う。
ずっと好きだった。
この家に来たときからずっとずっと好きだった。
許嫁のことを忘れるくらい、彼のことを好きになってしまった。
「結愛」
優しい声。
大好きな声。
一番安心できる声。
「ゅ…とさ……?」
震える体。
震える声。
ガシャンと音がして手足を縛ってた鎖から解放される。
伸ばされた手が視界に入った瞬間、私は彼に飛びついた。
冷たい地面を蹴った瞬間、私の体はぬくもりに包まれる。
大好きな千都さんの匂い。
さわやかでちょっとだけスパイシーな千都さんの匂いだ。
抱きしめてくれる腕も、抱きしめられる感覚も、全て千都さんだ。
背中から毛布をかけられ、毛布ごと千都さんに包まれる。
顔を見た瞬間、私は泣きながらまた千都さんの首に抱き着いた。
「ゆ…とさ…っ」
「ああ」
「ごめなさ…ごめ、なさい…!」
「なんで結愛が謝んだよ。俺のほうこそ怖がらせて…」
「ちがぅの! ゆだんするなっていわれてたのに、わたし、わたし…!」
こうして千都さんに迷惑をかけるなら仕事なんて行かなくてもいい。
家でずっと千都さんの帰りを待つ。
いってらっしゃい、おかえりなさい、を一番に言う。
「余計なことを考えるなよ。あとで詳しいことは聞かせるから、今は…」
千都さんがまぶたに唇を落とす。
涙をこぼしながら、彼を見上げれば優しく目元をぬぐわれた。
「今は俺の仕事に付き合ってくれ」
その言葉に何度もこくりとうなずいた。
すると千都さんは私を抱えたまま立ち上がって歩き出す。
車に乗せられる間も、ずっと私は涙を流していて千都さんから離れることをしなかった。
車の中で、千都さんから説明を受けた。
私に真実を話して不安にさせるより、嘘をついて不安を取り除いた方がいいと判断したみたい。
確かにその通りだったかもしれない。
もし千都さんが本当に狙われてるって知ったら、私は千都さんから離れたくなかっただろうし、彼女に会ったら相手にしていたと思う。
千都さんたちが彼女の計画を知って、私を救う計画までたててくれていたみたいだった。
そして今、彼女は霧島家に向かっていて、『結愛』として受け入れられてるらしい。
これから霧島家に行って、すべてを終わらせると言っていた。
そしたらきっと私の疑問も晴れると思う。
千都さんと結婚するのが彼女だった、と言っていた理由もきっとわかるよね…?
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