第8話

………

said:Yua



 幼い頃はなんでも手に入った。


 流行ったゲームに本、流行の服やバッグ。


 みんなが買えないブランドを身に着けるなんて当たり前だった。


 私の周りには常に人も集まっていて、友達や恋人に不自由したこともない。


 だけど中学生になってから全てが反転した。


 友達だと思っていた子たちも、私から離れてクスクスと笑うようになった。


 それは当然のことだった。


 お金のない私に価値などなかったからだ。


 親の会社が倒産して、手にしていたものも手放すことになって、それでもまだ足りなくて…。


 親もだんだんおかしくなっていって、喧嘩が絶えない家になった。


 そして中学を卒業するころに、私は霧島組の人たちと出会った。


 卒業式が終わって現れた四人のお兄さんたち。


 真ん中にはまだ二十代前半だった千都さんがいて…。



「七種結愛だな。今から俺たちと来てもらう」


「………。パパとママの知り合い?」


「ああ」


「そう…ですか」



 お兄さんたちは私服だけど、首元にはタトゥーも見えるし、雰囲気が明らかにふつうじゃない。


 だけど恐怖とかは全然なくて、なんだかしっくり来る展開で。



「わかりました。今からどこに行くの? なにか持つものある?」



 そう問いかけると、一番背の低いお兄さんが私の手をとって歩き出した。



「身一つでいいよ。必要なものはこっちでそろえるし、新幹線で旅行気分で向かおうね」



 新幹線…?


 そんなに遠くに行くのかな。それも初めて会った人と旅行気分…か。


 なんだかおかしい。



「ふふ…」



 その笑みと一緒に目から熱いものが流れた。



「結愛ちゃん? え? いや、俺ら怖くないからね!? 怖いことは絶対にしな──」


「ちがうの…。なんだか、なんだか、ほっとして…」



 誰かに触れられるのも、誰かと話すのも、とっても久しぶりで。


 それがとってもとてもうれしくて。



 ぽんっと頭に大きな手のひらが乗り、顔をあげれば真ん中に立っていた男性が頭をなでてくれる。



 黒髪の黒いピアスをつける男性。


 このころはまだ知らなかった。


 彼に恋をし、夫婦関係になり、辛い恋心を持つことになるなんて。



 何をされるわけでもない、彼らについていけば普通の生活が待っていた。


 借金の肩代わりになったのに、普通に高校に行って、普通に友達と遊んで、お小遣いももらえて…。


 中学時代よりも私はしあわせな暮らしをヤクザの霧島家で送った。



 そして私は高校卒業と同時に想いを寄せていた、若頭の千都さんと結婚することになった。


 ただただつらいばかりの結婚。


 だって彼には想い人がいたから。


 でも私に拒否権なんてなくて、形だけでも喜んでしまう自分もいて…。


 その時はじめて、私はこの家を出ていきたいと思ったんだ。

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