第7話

 それからお店に戻ると子連れのお客様がこちらに視線を向けた。


 目がバチッと合うと彼女はそっと微笑む。


 その笑顔があまりにも綺麗でなぜか悔しさを覚えた。



「結愛ちゃん、大丈夫?」


「うん。大丈夫。ごめんなさい」


「大丈夫ならいいけど…」



 もしかして千都さんの相手ってあの方なのかな。


 あの子供ももしかして千都さんの子供…なのかな。


 いやだな、やだな、嫌だよ。


 なんでこのお店に来たの。喫茶店なんていくらでもあるのに、どうして。


 でも今しかタイミングないよね。


 今以外に接触するチャンスなんてあるはずない。


 そう思ってお客様に近づくと、彼女はパァッと花を咲かせたように笑顔になる。



「初めましてだね。結愛ちゃん」


「え…?」


「ずっと会いたかったんだ。千都のお嫁さんに」



 声をひそめながら彼女は微笑む。


 あぁ、そっか。


 結婚した私を見たかったんだ。


 でも千都さんの好きな人ってこの人だっけ…?


 二人きりで会ってるのを見たことがあるけれど、なんか雰囲気も違うような…。



「千都が好きになるのもわかるなぁ。結愛ちゃん可愛いね」



 もう嫌味にしか聞こえない。


 だってこの香水が染み付くくらい千都さんはこの人と一緒に…。



「付けてる香水ってどこのですか?」


「え? あ…この香水は夫が作ってくれたもので、販売されてないの」



 販売されてない…?


 ってことは、本当にこの人が千都さんの…?


 もう嫌だよ。


 こんな残酷なことってある…?


 さいあくすぎる。



「あぁ、でも千都は持ってるかな」


「……え?」


「あ、ごめんね。そろそろ約束の時間だから行かなくちゃ。またね、結愛ちゃん。ごちそうさまでした」



 お客様はお子さんを連れてお会計をしてそのままお店を出て行った。



 千都さんが香水を持ってる…?


 なんて謎の言葉を置いていくんだろう。



(意味がわからないよ…!)


 

………


Said;Yukito



「これでよかったの? 千都」



 子供を連れて喫茶店から出てきた彼女、一華はむすっとしながらそう言った。



「ああ。サンキュな」


「こういうことをするのはこれっきりだからね」


「わぁってるって。でも結愛に会えたんだからいいだろ」


「それでもあれじゃあかわいそうだよ。それに結愛ちゃん、知ってるんだよね…?」



 その言葉に喫茶店の窓に目を向ければ、こいつらが座っていた席を片付ける結愛がいる。


 言ってはないけど、結愛は知ってるかもしれない。



「千都の婚約者のこと知ってるんだよね?」


「元婚約者、な。今はもうかわいい奥様がいるんで」


「でも…! 結愛ちゃんがかわいそうだよ」


「結愛は察してるって。俺が他の女に会ってるって」


「ねえ、まさかとは思うけど…香水、悪いことに使ってないよね?」


「最初に伝えた通り、仕事後に使ってる」


「それ、結愛ちゃん知ってるよね? 元婚約者さんのこと知ってるなら、勘違いしてる可能性ない? ちゃんと説明してるよね?」


「いや? 香水でにおいを消すほどのコトをしてるなんて言ってねぇけど」


「それじゃあ逆効果でしょ! っていうか説明もしないで使ってたなんて…。そりゃあ結愛ちゃん私を見てあんな顔するよ」



 でも仕方ねぇじゃん。


 そうしか方法ねぇんだし。


 結愛には悪いけど、当分このまま黙っててほしい。


 ヤクザの女に結愛じゃまだなれねぇし、な。

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