第3話
私の旦那様は暇じゃない。
この組織の若頭っていう役で、家にいることのほうが少なかった。
だから、彼に暇なんてなくて、私の送迎なんてできるはずがなくて。
少しでも信用したわたしがバカだった。
「………はぁ」
縁側で足を揺らしながら、曇り空を見上げる。
この家に来てからだいぶたったけど、マンガとかにあるような拳銃バンバンとか、そういうのは一切ない。
見えていないだけかもしれないけれど…。
田舎にある古いお屋敷って感じで、周りは田んぼと畑。
なんだかおばあちゃんになった気分。
「ふぅ………」
息を吐いて、もう一度空を見上げる。
ポツポツと降りだす雨に手を伸ばして、雨粒をつかんではもう一度息を吐いた。
本当なら今頃大学に行って、友達と遊びまわっていたのかな、なんて。
そんな年頃の感情なんてもうどっかに行ってしまった。
今はただ、許嫁の彼に救ってもらうのを願うだけ。
この家から一日でも早く離れるために。
許嫁の恋人もいい人なんだろうな…。
私のこと一緒になって助けてくれないかな…。
「こいびと、ほしいなぁ…」
恋がしたい。
こんな想っても返してくれない恋なんかじゃなくて、
もっとふわふわであまあまな恋がしたい。
好きな人に好きな人がいるなんて辛すぎる。
なんで好きな人がいるくせにわたしと結婚したのよ…。
……………
それから一週間がたったある日、寝ようとしたら
「ただいま」
「……おかえりなさい」
泊まりじゃないのに、甘い香水の香りをつけてくるのは初めてのことで、視線をそらしてしまう。
「はぁ…疲れたな」
布団脇に腰を下ろして、ネクタイを緩める千都さんにドキッと心臓が高鳴った。
だけど漂う匂いはだいきらいな匂いで、複雑な感情が胸に広がる。
「明日から休みとったから、何もなきゃ一週間送迎できるぞ」
「………え?」
「は? 行かねぇの?」
もしかして最近いつもより忙しくしていたのは、私を送迎する時間を作るため…?
まぁ…彼女さんにも会ってたみたいだけど。
泊まりじゃなくても会う…んだね。
このままじゃダメ。
一週間もあるなら、早く作戦を実行してこの家を離れよう。
「ありがとう、千都さん。よろしくお願いします」
ぺこりと頭を下げると、千都さんは頭をなでてくれた。
「早く寝ろ。お前が寝るのを見届けたら風呂行って俺も寝るから」
「うん」
今日はしないんだ…。
彼女さんと会ってたんだもんね…。
「うん。おやすみなさい」
「ああ、おやすみ」
布団をかぶって目を閉じる。
そのとき、私を見つめてる千都さんがどんな視線を向けていたのかなんて…
この時の私は知らなかった。
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