第2話
朝、目が覚めると腰がずっしりと重かった。
隣に彼はいなくて、出て行ってから時間がたってそう。
…あぁ、今日も仕事にいけないのか。
オーナーには説明をしたけれど、なぜか事情をきいてると言われてすんなり納得されたし…。
まさかこの家とつながってるとか…?
そしたらヤバイでしょ。
作戦どころじゃないし、ヤクザとつながってる喫茶店なんて危ないじゃん。
でも
なら危なくないのかなぁ…。
「もうわかんないよぉ…っ」
何をどうしたらいいんだろう。
早く逃げ出したいのに、外に出ようとすれば強制的に組の人がつくし。
あんなに自由にしてくれていたんだから、今さら迎えに来る必要なんてなかったじゃん。
あのままそっとしておいてくれれば楽になってたかもしれないのに。
「はぁ…着替えよう」
とりあえず動こう。
今こうして考えても答えが出ないのだから。
一方的なこの想いを抱えていられるほど、わたしはつよくもないから。
………
日が暮れて間もなく、スマホが音をたてた。
このスマホが何かを知らせるときは、千都さんからの連絡以外にない。
たまには気づかなかったふりでもしてみようか。
「まぁ、無理よね…」
返事が遅れたことなんてないから、不審に思うかも。
変に思われちゃったら、仕事にも行けないだろうし…。
送迎付きでもこのチャンスだけは失いたくないからいつも通りでいよう。
そう思ってスマホを開けば一つのメッセージ。
≪明日、帰る。≫
つまり今日は帰らない。
その内容に肩がわかりやすいくらいに下がったのがわかった。
……いつものこと。
そう思っても胸がぎゅっと締め付けられる。
だって明日は女性ものの香水をつけて帰ってくるから。
とても甘い香りの彼らしくない匂いをまとって。
(あぁ…そっか。明日は一週間ぶりに彼女との逢瀬の日……なんだ)
その事実に息を深く吐いた。
何も考えないようにと瞼を閉じ、流れた涙も無視して眠ることに専念した。
………
甘い香りが鼻をくすぐる。
大きな手が優しく頭をなでてくれた。
帰ってくると必ずこうして頭をなでてくれるのは、彼以外にいない。
「ゆき、とさ…」
ゆっくりと瞼をあげると、視界いっぱいに彼の顔があった。
肘をついて横になる彼は、私の頭をなでながら隣に横になっている。
まだ部屋が暗いから、夜はまだ明けていないみたい。
「まだ早い。寝てろ」
「……いま、かえってきたんですか…?」
「ああ」
「……」
彼女さんとそんなに早く別れてよかったの?
そう聞こうとした唇を閉じて、寝返りを打った。
彼に背中を向けて、猫のように丸くなる。
この匂いが嫌い。
甘ったるい女性ものの匂いが、だいきらい。
いつもの彼の匂いがいい。
いつものさわやかでちょっとスパイシーな彼の香りに戻ってほしい。
「結愛、どうした?」
ぎゅっと背後から抱きすくめられ、体がぎゅっと密着した。
そのせいで匂いが余計に漂ってきて、辛さに涙があふれる。
言えない。言えるわけがない。
彼女の匂いをつけてこないで、って。
会ってもいいから、行かないで…なんて言わないから、
帰ってくるときはせめて、その匂いを消して、って。
……そんなこと、いえるわけ、ないけど。
「もうすこし、ねます」
「ああ、おやすみ」
「…おやすみなさい」
まぶたを閉じれば不思議と眠気が襲ってくる。
体は密着したままで甘い匂いがするのに、彼の体温があったかい。
彼の息遣いと規則正しい心音に引き込まれるように、気づけば眠りについていた。
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