第15話

暖はもう空っぽのコーヒーカップに手を触れながら、思い出の世界に入っていた。

あの時……

ファミレスの中は土曜日の夜で客がごった返していた。それなのに、双葉はちゃんと覚えていて、再度謝った。

それが暖が双葉を意識した最初だった。


「お待たせしました」

ある日の夜、チキンカレーを運んで来た時、双葉が口を開いた。

丁度客が切れていた。

「あの、新しいドラマ出るんですか?」

「どうして?」

暖は台本から顔を上げた。

「台本が新しいですから。いつもはもっとボロボロなのに」

暖は台本を閉じると、まじまじと双葉の顔を見た。

「高校、何処?」

「森越です」

「え、俺も森越。普通科だよな。何年?」

「1年です」

「俺も」

「名前、訊いてもいいかな?前田……何ていうの?」

暖が名札の名字を見ながら言った。

「双葉です」

「そう。さっきの事だけど、まだ言えないん

だ。だからこれね」

暖は唇の前に人差し指を立てた。

「はい」

双葉は笑顔になると、そのまま奥へと戻って行った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る