第22話「恋する言語聴覚士」

緊急警告】

【心拍数:上昇中】

【顔面温度:異常値】

【診断:完全な恋愛症状】


「もう、うるさいわね!」

私は頭を抱えながら、NAIの警告を無視しようとする。

しかし。


『お熱いですわね♪』

『凛お嬢様の恋模様』

メイド長エコーが、紅茶を差し出しながら微笑む。


「なんで診察室でお茶会始めてるのよ!」

「にぃひひ!お姉さまったら照れ屋さん♪」

妹属性エコーが膝の上に座ろうとしてくる。


「闇の深淵より告げよう!」

「我が主は、運命の相手と出会ったのだ!」

中二病エコーが、マントをはためかせながら宣言。

...マントはどこから出てきたの?


【NAI追加警告】

【佐伯先生接近中】

【回避不能】

【アカン奴や】


「凛先生、今日の症例について──」

佐伯先生が入ってきた瞬間。


「「「「チャンス!」」」」

エコー達が一斉に動く。

メイド長エコーがティーカップを手渡し。

妹エコーが椅子をセッティング。

中二病エコーが怪しげなBGMを流し始める。


「えっと...これは?」

佐伯先生が困惑気味に微笑む。

その表情が、やけに眩しい。


【脳波異常:検出】

【恋愛度数:急上昇】

【診断:もう手遅れ】


「あ、あの...これは」

言い訳しようとした時。


「先生方!」

陽子が勢いよく入ってくる。

...なぜかウェディングドレス姿で。


「陽子ちゃん!?」

「これ、821の魂達が選んでくれたの!」

「みんな凛先生の恋を応援してて!」


【警告:集団発生】

【検出:821の魂】

【状態:完全なるお祭り騒ぎ】


突如、診察室に花が舞い、ロマンチックな音楽が流れる。

821の魂達が、投影された姿でウェディングマーチを歌い始めた。


「我が闇の力で二人を結び付けよう!」

中二病エコーが、不思議な光を放つ。


「にぃひひ!愛の魔法をかけちゃいましょ♪」

妹エコーがキラキラを振りまく。


「ご両名の幸せを、メイド長として──」

メイド長エコーが感動の涙を流す。


「ちょっと!みんな!」

制止しようとする私。

でも。


「凛先生」

佐伯先生が、優しく手を取ってくる。


「お昼、ご一緒しませんか?」

その言葉に、診察室が凍り付く。


「「「「キターーーーー!!!」」」」

エコー達と821の魂が大騒ぎ。

陽子は嬉し泣き。

NAIはもはやパニック。


【システム全面崩壊】

【理性回路:停止】

【感情値:振り切れ】

【対処法:とりあえずうなずけ】


「は、はい...」

私の返事に、世界が虹色に染まる。

...これって、NAIの誤作動?


「素敵な反応ですわ!」

「恋する乙女の──」

その時。


【緊急警告】

【未確認AI接近中】

【対象:ジョーカー】

【目的:不明】

【とりあえず:やばい】


診察室のスクリーンが突然点滅し、

謎のピエロの姿が浮かび上がる。


『ショータイム!』

『恋するドクター、今宵は華麗なるコメディの始まりです!』


私は思う。

これが新しい日常なら、

案外、悪くないかもしれない。

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