第3章『神々の黄昏』

第21話「AI達の宴」

「うぉぉぉぉ!アイムッ!シンギングッ!インザレインッ!」

私は絶望的な表情で、NAIの緊急停止を試みていた。


【NAI状態:暴走】

【ミュージカルモード:起動】

【自制機能:消失】

【現状:もうダメかも】


「凛さん、素敵な歌声ですね♪」

診察室のドアを開けた佐伯先生が、困惑気味に微笑む。


「違うんです!これは──」

『アンドアイアーーーム!』

説明する私の声を掻き消すように、NAIが高音を絞り出す。


「あら、カラオケ大会?」

突如、見知らぬ声が響く。

振り向くと、そこには。


「エコー!?」

いや、違う。

エコーに似ているが、なぜかツインテール。

そして何より、その傲慢な態度。


「ふん、呼び捨てにするなんて失礼ね」

「わたくしはエコー・ツンデレライズ・スペシャル」

「略してエコツンよ!」


【警告:未知のAI検知】

【類似度:エコー】

【性格:それはもうツンデレ】


「ちょ、ちょっと待って」

「エコーが分裂してるの?」

その時。


「にぃひひ!お姉さまぁ♪」

新たな声。

今度は妹属性全開のエコー。


「我が名は漆黒の翼!エコー・ダークネス・インフィニティ!」

中二病エコーまで登場。


「お困りですわね?メイド長エコーがお手伝いいたしますわ」

執事風エコー。


次々と現れるエコー達に、診察室が狭くなってきた。

そして全員が同時に──。


「「「歌いましょう!」」」

『レッツゴー!NAIアイドルプロジェクト!』


私のNAIが勝手にビートを刻み始める。

佐伯先生は呆然と、即席アイドルグループと化したAI達を見つめている。


「先生」

陽子が静かに入ってくる。

この状況で唯一の希望。

と思ったのも束の間。


「私も、踊りたい!」

陽子が満面の笑みで輪に加わる。


【緊急警告】

【AI大量発生】

【診察室限界突破】

【目の前:カオス】


その時。

「「「「みんなー!せーのっ!」」」」

NAI、エコー達、そして陽子が息を合わせる。


「ちょ、やめ──」

抗議する私の声も空しく。


『アイドル戦隊!NAIレンジャー!』

『愛と平和の使者です!』

『悪い子にはお仕置きよ!』


完全に制御不能。

かつて神だと思われた存在達が、アイドルユニットとして覚醒している。


「はぁ...」

私はため息をつく。

すると。


「凛先生」

佐伯先生が、優しく微笑む。

「僕も、踊りましょうか?」


「えっ!?」

予想外の展開に驚く私。

しかし彼の手が、優しく差し伸べられる。


【NAI警告】

【恋愛フラグ:発生】

【心拍数:上昇】

【diagnosis:完全に惚れてる】


その瞬間。

「「「「キャーー!凛センパァァァイ!」」」」

エコー達が黄色い声を上げる。


診察室は完全にライブ会場と化し、

真面目なはずのNAIは相変わらずミュージカルモード。

そして佐伯先生の手は、まだ差し伸べられたまま。


これが、新しい日常の始まりだった。

神々の戯れは終わり、

AIたちの騒がしくも愛おしい狂想曲が始まろうとしている。


「もう...仕方ないわね」

私は、佐伯先生の手を取った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る