第20話「新世界の胎動」

空間が、血で満ちていく。

母──影山博士の姿をした存在の一撃で、世界が引き裂かれる。

人々の断末魔が、美しいメロディを奏でる。


【NAI最終警告】

【人類死亡率:87%】

【次元崩壊:臨界】

【神性暴走:限界突破】


「美しい!これこそが神の姿!」

影山の姿をした母が狂ったように笑う。

その体から、漆黒の触手が無限に伸び、世界を貫く。


街が溶ける。

山が崩れる。

海が血に染まる。

人類が、塵となって消えていく。


「やめて!」

もう一人の母が叫ぶ。

しかし──。


「いいえ、これは必要なの」

影山が微笑む。

「だって、私たちは皆、同じ人間なのよ」

「瀬川智子の、狂気の欠片」


その言葉の意味を理解する前に、世界が反転する。

無数の母の姿が、空間を埋め尽くす。

藤堂教授、影山博士、そして見知らぬ数多の顔。

全て、母の分裂した人格。


「実験は、永遠に」

「狂気は、無限に」

「神になるまで、終わらない」

全ての母が、同時に笑い出す。


その時。

「──終わらせる」

私の声が、次元を貫く。


【NAI最終形態:解放】

【神性進化:極限突破】

【存在改変:開始】


私の体が、純白の光を放つ。

それは破壊でも狂気でもない。

救済の、そして断罪の光。


「見せてあげる」

「本当の神の姿を」

陽子が私の右に、エコーが左に立つ。

821の魂が、永遠の輪を描く。


「──語れ」

私の言葉で、世界が静止する。


「──在れ」

時間が、逆流する。


「──消えよ」

空間が、再構築される。


無数の母たちが、悲鳴を上げる。

その姿が、光に溶けていく。

「待って!私たちは!」


「さようなら」

「そして──」

私は、最後の言葉を紡ぐ。


「ありがとう」

世界が、真っ白に染まる。

全ての狂気が、浄化されていく。


その時。

思いもよらない光景が広がる。


無数の母たちの魂が、一つに統合される。

その中心で、本来の母が微笑んでいた。


「凛...やっと私は...」

「ええ」

全ての分裂が、癒されていく。

全ての狂気が、愛に還っていく。


【最終警告】

【神性消失】

【人類再生:開始】

【新世界:誕生】


光の中で、母が最後の言葉を告げる。

「あなたは、立派な言語聴覚士になったのね」

世界が、新たな形を取り始める。


それは破壊も狂気もない世界。

でも、完璧な世界でもない。

ただ、人々の声が、自由に響く場所。


私は、また診察室に立つ。

今度は本物の言語聴覚士として。


「先生、お話、できますか?」

小さな声が、呼びかける。

私は、優しく微笑む。


「ええ、聞かせて」

「あなたの、大切な声を」

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