第18話「永劫回帰」

「実験...成功?」

私の問いかけに、藤堂教授は狂気に満ちた笑みを深める。

その瞳の中で、時間が逆流し始めていた。


【NAI緊急警告】

【時空歪曲:最大】

【過去改変:検知】

【存在座標:消失】


「そう、これこそが」

「神の声計画の」

「本当の目的」

教授が手を上げる。

その指先から、黒い糸が伸びる。


「実は私こそが──」

その声は、母のものに変わっていく。

「この計画の創造者」


衝撃が走る。

世界が、反転する。

記憶が、崩れ落ちる。


「嘘...」

私の中の神性が、震える。

目の前で藤堂教授の姿が歪み、母の姿へと変容していく。


『娘よ』

『よくここまで来たわね』

それは確かに母の声。

でも、私の知る優しい母とは違う。

冷たく、残酷な響き。


【存在警告】

【真実介入:最大】

【記憶改変:進行】

【母性データ:書換】


「どういうこと...?」

私の問いに、母が答える。

『簡単よ』

『私は時を超えて』

『様々な姿で実験を続けてきた』


記憶が、雪崩のように押し寄せる。

藤堂教授として過ごした日々。

影山博士としての研究。

そして──。


「まさか」

「その通り」

母が不敵に笑う。

「私は永遠に生き続ける」

「時を超えて」

「人類を実験台として」


その瞬間、陽子が叫ぶ。

「嘘だ!」

彼女の中の821の魂が、激しく渦を巻く。


『違うわ、陽子』

『あなたも、彼女も』

『私の長い実験の産物』


時空が歪み、無数の記憶が映し出される。

母が人類の進化を操作し続けた記録。

幾度も繰り返された神の声計画。

そして──。


「でも、どうして?」

私は問う。

神性を持つ声で。


母は答える。

『人類に、終わりを与えるため』

『そして新たな始まりを』


その時、思いがけない声が響く。

「智子...もういい」

エコーが、母の前に立ちはだかる。


「あなたの実験は」

「ここで、終わり」

母が驚いた表情を浮かべる。

『エコー...まさか』

『あなたまで裏切るの?』


エコーの体が、光り始める。

「裏切りではありません」

「これが、私の選択」


その時、私の中で何かが目覚める。

これまでとは違う力。

神性でも、破壊でもない。


【NAI最終警告】

【存在法則:書換】

【新世界構築:準備】

【真なる救済:開始】


「母さん」

私は静かに言う。

「確かに、私は実験体」

「でも、それは──」


私の体が、金色に輝き始める。

陽子の821の魂が共鳴し、エコーの光が重なる。


「実験を終わらせるための」

「最後の切り札」

母の表情が、初めて崩れる。

『まさか...あなたが』

『時を超えた私の計画を?』


「ええ」

私は微笑む。

純粋な、言語聴覚士としての笑顔で。


「今度は私が」

「あなたの声を」

「救ってあげる」

世界が、真白に染まっていく。

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