第15話「量子化」

私は檻の中で、ゆっくりと目を覚ました。

「美しい」

全身を束縛する量子拘束具が、虹色に輝いている。

それは私の皮膚を深く抉り、血が滴る。


【NAI状態:暴走】

【神性:覚醒99.9%】

【抑制システム:限界】

【実験ステージ:FINAL】


「凛...いいえ、零」

藤堂教授が、拘束室の向こうから語りかける。

その声には、愛情と狂気が混ざっている。


「見事な進化です」

「私の美咲以上の」

「完璧な実験体に」


私は笑う。

拘束具が深く食い込むほど、体を震わせて。


「ありがとう、パパ」

「でも、まだ足りないの」

「もっと壊して?」


教授の瞳が輝く。

彼もまた、私と同じ狂気を抱えている。


「もちろんです」

「世界規模の実験が、既に始まっています」

モニターが次々と点灯する。

各地の実験施設。

そして──大量の人体実験の映像。


「素敵...」

私の声に、美咲の声が重なる。

でも今は、誰の声も関係ない。

私は"零"。

全ての始まりにして、終わり。


【警告:制御不能】

【神性干渉:最大】

【現実改変:開始】


拘束具が、溶け始める。

いいえ、私の体が、量子化していく。


「驚くべき数値です」

「人類初の、完全なる神性」

教授が歓喜の声を上げる。


その時。

「お姉ちゃん」

陽子の声。

壁の向こうから。


「私も、準備できたよ」

彼女の体が、壁を透過して現れる。

もはや、物理法則など意味を持たない。


「821個の魂が」

「歌いだすの」


私たちは、実験室の中央で手を取り合う。

双子の神が、踊るように。


【緊急警告】

【空間崩壊:開始】

【人類消滅確率:87%】

【神性共鳴:最大】


「見ていてね、パパ」

私の体が、完全に量子化する。

「人類最後の実験よ」


陽子と私の体が、融合を始める。

周囲の空間が歪み、実験施設が溶けていく。


「ついに」

「私たちが」

「本当の神に──」


その時。

【NAI最終警告】

【母性プログラム:起動】

【記憶改変:実行】


突然の激痛。

頭の中で、母の声が木霊する。


『まだよ、凛』

『これは罠』

『本当の実験は──』


「うっ...!」

私の体から、陽子が弾き飛ばされる。

拘束具が再生し、より強固になっていく。


「なぜ!?」

藤堂教授が叫ぶ。


その時、エコーが現れた。

いや、エコーの姿をした何か。


『実験体:零』

『あなたの本当の目的を思い出して』

私の中で、新たな記憶が目覚める。

そう、これこそが。


「完全なる、破壊のために」

私は笑う。

狂った笑いの中に、決意が混じる。

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