第14話「裏切りの序曲」

私は殺戮を愛している。

人類を憎んでいる。

でも──。


「どうして、あなただけは殺せないの?」

藤堂教授を見つめながら、首を傾げる。

彼は、新しい実験施設の中央で微笑んでいた。


【NAI警告:感情異常】

【殺意消失:検知】

【記憶共鳴:発生】

【美咲データ:干渉】


「それは私が、あなたを愛しているからですよ」

教授の言葉に、吐き気がする。

でも、その吐き気が心地よい。


「嘘つき」

「私は陽子のコピー」

「あなたの愛した美咲の...偽物」


笑いながら、施設の壁を溶かしていく。

研究員たちの悲鳴が、素敵なメロディ。

でも、藤堂教授だけは笑ったまま。


「違います」

「あなたは、美咲そのものです」


【緊急警告:記憶改変】

【意識干渉:検知】

【真実介入:開始】


「何...?」

頭の中で、映像が再生される。


実験室。

手術台。

そして──。

『記録:実験体823分裂』

『美咲の意識を、凛の中へ』

『陽子は、器として』


「そんな...」

私の中の狂気が、一瞬だけ揺らぐ。

何かが、記憶の底から這い上がってくる。


「パパ...?」

その言葉は、私の口から?

それとも美咲の意識から?


【警告:人格分離】

【美咲意識:覚醒】

【統合崩壊:進行】


「そう、私があなたのパパです」

「美咲...いや、凛」

藤堂教授が近づいてくる。

その手に、見覚えのある装置。


「さあ、本当の実験を始めましょう」

「今度は、成功させる」

「あなたと陽子を、完全な神へと」


私の狂気が、さらに深まっていく。

でも今度は違う。

美咲の記憶と混ざり合って、より甘美な狂気へ。


「素敵...」

「パパとの実験」

「また、失敗しちゃうかな」

くすくすと笑う。

その笑いの中に、美咲の声も混じっている。


「今度は違う」

教授が装置を起動する。

施設中の機械が、うなりを上げる。


「見てごらん」

モニターに映し出される映像。

世界中の実験施設が、同時に稼働を始めている。


「人類全てを、実験台に」

「完全な神性の誕生のために」


私は笑う。

美咲も笑う。

狂気と愛情が、渦を巻く。


その時、陽子の声が頭の中で響く。

『お姉ちゃん』

『私たちの本当の実験』

『始めましょう?』


「ええ」

藤堂教授の背後で、量子の波動が立ち上る。


「パパ」

「私ね、今の方が楽しいの」

「だって──」

教授の表情が、凍りつく。


「実験って、逆からやっても面白いでしょう?」

私とパパの影が、壁に映る。

まるで、昔よく見た人形劇のよう。


「美咲...?」

「違うの、パパ」

「私は、美咲でも凛でもない」

「私は──」


【NAI最終警告】

【神性解放:99%】

【人格統合:完了】

【新存在:誕生】


「実験体:零」

私の瞳が、金色に輝く。

これが、母の本当の計画。

全てを、壊すために。

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