第9話 「最後の反逆」

光が消えた時、世界は一変していた。

【NAI警告:次元歪曲】

【現実改変:臨界】

【神性干渉:検知】


「こ...これは」

私の声が、空しく響く。

ネオ・メディカルシティは、完全に姿を変えていた。

建物は量子の渦に歪み、道路は生命体のように蠢き、空は血のように赤い。


【警告:現実改変確認】

【空間歪曲度:∞】

【生存者:データなし】

【神性レベル:対抗不能】


「やっと目が覚めたようね」

不気味な声が響く。

振り向くと、そこには──。

「母...さん?」


いや、違う。

母の姿をしているが、明らかに別の"何か"だ。

その体は量子の波動で構成されている。


「正解よ」

母の形をした存在が、不自然な笑みを浮かべる。

「私は、影山博士の最終兵器」

「人類統合計画の、真の管理者」

その姿が歪み、巨大化していく。


【警告:未知の量子生命体】

【対処法:算出不能】

【推奨:即時撤退】

【NAI出力:限界突破】


「逃げられないわ」

母の形をした怪物が、量子触手を伸ばしてくる。

それは瞬時に私の足を捕らえ、宙に持ち上げた。


「ぎゃあっ!」

激痛が走る。

骨が、量子レベルで分解されていく音を立てる。


「NAIを...寄越しなさい」

「あなたの母が、最後の抵抗として残したもの」

「それを、回収しに来たの」

触手が、私の首に絡みつく。

呼吸が、できない。


【緊急警告:生命活動低下】

【残存時間:42秒】

【遺伝子崩壊:開始】


「や...め...」

「無駄よ」

怪物の笑い声が、次元を超えて頭蓋を直接震わせる。


「もう誰も助けに来ない」

「あの小娘の共鳴なんて、子供だましよ」

「この私が、本物の神なの!」


地面から無数の量子触手が生え、街全体を覆っていく。

建物が歪み、人々の悲鳴が響く。


「見なさい」

「これが、真の進化!」

空が裂け、そこから漆黒の量子エネルギーが降り注ぐ。

触れたものが全て、異形へと変容していく。


「うっ...あぁぁぁ!」

私の体も、徐々に形を失っていく。

細胞が量子化され、意識が拡散していく。


「美味しそうね」

「あなたの遺伝子」

「母親譲りの、特別な配列」

怪物の口が、次元を超えて大きく開く。

そこには、無数の量子の牙。


【緊急警告】

【生体崩壊:進行】

【推定生存時間:28秒】

【NAI機能:停止】


「さようなら, 凛」

「母さんの元へ、行きなさい」

大きく開いた口が、私を飲み込もうとする。

その時。


「だめだよ」

微かな声が響いた。

振り向くと、そこには。

「陽子ちゃん...?」


いや、違う。

陽子の形をしているが、その目は。

金色の量子光を放っていた。


「残念でした」

陽子が、不敵な笑みを浮かべる。

「私は、もう一つの最終兵器」

「智子が用意した、本当の切り札」


その瞬間。

とてつもない量子波動が放たれた。

【警告:未知の力場】

【出力:測定不能】

【時空間:崩壊】


「なっ!?」

怪物が悲鳴を上げる。

しかし。

「甘い!」

量子触手が、陽子を貫いた。


「はっ...」

陽子の体から、光が噴き出す。


「愚かね」

「人の形に留まるから」

「そんな、弱い存在だから」

怪物が、陽子の体を引き裂こうとする。


「さよなら、偽物」

その時。

陽子が、笑った。


「まだ、わからないんですね」

「人の弱さこそが」

「最強の武器だって」

彼女の体が、眩い光を放つ。

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