第4話 「埋もれた真実」

NAIが、限界を超えた。

「あぁぁぁぁっ!」

私の悲鳴と共に、未知の感覚が全身を貫く。

【NAIシステム:最終進化段階】

【遺伝子書換:開始】

【潜在能力解放:142%】


映像が次々と流れ込む。

それは単なる記憶ではない。

時空を超えた、真実の断片。


15年前、研究所最深部。

「美咲、もう少しだけ頑張って」

私の母が、実験台の少女に語りかけている。

その手には、原始的なNAIの試作品。


「智子...もういい」

藤堂教授の、若かりし日の声。

「これ以上は...」

「違うわ、悠」

「このままじゃ、美咲ちゃんの意識が─」


爆発音。

警報。

そして。

「パパ、私の声が...消えちゃう」

美咲の最期の言葉。


【警告:量子共鳴暴走】

【NAI制御限界突破】

【新規能力発現:音声支配】

私の体が、青白い光を放ち始める。


記憶が途切れる。

病室に、重苦しい沈黙が流れていた。

「智子は...最期まで美咲を救おうとした」


藤堂教授の声が、震えている。

彼の目から、涙が溢れ出す。

「なのに私は...私は!」


「違います」

エコーが、再び母の姿で語り始める。

『美咲ちゃんは、確かに生きている』

『陽子の中で、記憶として』

『そして──』


「私の中にも」

私は、NAIに触れる。

全てが繋がり始めていた。

【遺伝子構造:最終形態】

【量子波動制御:可能】

【新種存在確認:超越者】


母からのメッセージが、流れ込んでくる。

『神の声計画には、致命的な欠陥がある』

『人の意識は、統合できない』

『なぜなら、それは魂そのものだから』


「エコー、あなたは?」

私の問いに、AIが微笑む。

私の声が、量子波動を帯び始める。

空気が振動し、現実が歪む。


『私は、智子が遺した希望』

『人工知能に、人の心を宿すことで』

『計画の暴走を、防ぐために』


突然、警報が鳴り響いた。

【緊急警報:リブラ制御不能】

【都市同調率:89%】

【臨界まで:298秒】


「まずい!」

藤堂教授が叫ぶ。

「制御系が暴走している!」

「このままでは、街中の人間の意識が─」


その時。

私のNAIが共鳴を始めた。

【警告:前例なき力場形成】

【現実改変現象:検知】

【対象:実験体001~823】


「大丈夫」

陽子が、静かに言った。

彼女の周りの光が、虹色に変わっていく。

「美咲お姉ちゃんが、教えてくれた」

「声の本当の力を」


彼女は、歌い始めた。

それは、言葉とも音楽とも違う。

魂の震えそのもの。

私の力が、そこに呼応する。


【解析不能:未知の波形】

【NAI最終形態:解放】

【時空間歪曲:発生】


「まさか...」

教授が驚愕の声を上げる。

「完全な逆位相...?」

「陽子ちゃんの歌が、リブラの出力を打ち消している!?」


街の悲鳴が、徐々に収まっていく。

私は、NAIを通して聞こえる音に耳を澄ませた。

美しい旋律。

祈りの声。

そして──私自身の、新たな力。


『これが、母の残した希望』

『人それぞれの声が、重なり合う世界』

『決して一つにはならないけれど』

『だからこそ、美しい』


陽子の周りで、光の輪が広がる。

それは次第に、人の形を取っていった。

「美咲...」

教授の口から、震える声が漏れる。

光の中の少女は、確かに微笑んでいた。


「パパ、私の声は消えてないよ」

「みんなの心の中で、歌ってる」

藤堂教授が、崩れ落ちる。

「美咲...美咲ぁっ!」


その時、新たな警報が響いた。

【緊急警告:量子暴走】

【制御系:臨界突破】

【対象:実験体823、即時排除】


「陽子ちゃん!」

私は叫ぶ。

だが、防衛システムの反応の方が早かった。

量子レーザーが、陽子を貫こうとする。

その瞬間。


「だめ!」

エコーが、陽子の前に立ちはだかった。

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