第5話
「ただ……」
作家先生は顎に手を当てて、考えるそぶりをした。僕は何か物足りないのだろうか、と先生の言葉を待つ。少しも経たずに、先生は驚くことを言い始めた。
「すまないが、これはイタリアンプリンではないね」
僕は衝撃のあまり頭が真っ白になった。まさか、レシピを間違えたのだろうか。急いで台所に向かい、冷蔵庫に貼ったレシピを見返す。レシピには何度見ても「イタリアンプリン」の言葉がそこに印刷されている。急いで離れに向かい、それを作家先生に見せた。
「でも! これにはイタリアンプリンと書かれていて……」
僕の言葉に、先生はレシピを受け取った。それをじっと見つめ、確かに、と呟いた。しかし、そのまま何も言わずにレシピを眺めている。
僕にとって長い時間が過ぎたように感じられたころ。作家先生は僕の目をしっかりと見て、頭を下げた。
「すまない、私の勘違いだったのかもしれない」
僕は困惑した。こんなこと、彼女が来てから一度もなかったことだからだ。彼女の頭を下げる姿を見て、何を言えばいいのかわからなくなった。
「私が食べたときはチョコレートプリンだったんだ。それがイタリアンプリンの普通だったと思っていたんだが……どうやら私に作ってくれた人のアレンジしたレシピだったのかもしれないな」
先生はそう言うと、悲しそうな顔をした。が、すぐに切り替えておいしそうにプリンを食べ始めた。
その日の晩は、寝ようにも眠れなかった。昼間のことが頭をよぎって、宿題さえ手につかないほど。スマホを手に、いつもやっているゲームのデイリーミッションを片付ける。それが終わってアプリを落とすと、枕に顔を埋めた。
プリンは美味しかった。作家先生は「これもまた美味いな」と言っておかわりもしていたし、両親も褒めてくれた。季節限定でお店に出したいね、と言われるほど。
しかし、あれは先生の思う「イタリアンプリン」とは違った。それをただ「先生の勘違いだった」で終わらせられればいいが、何となく僕はそれがしっくりこなかった。それに、単純にお客さんを満足させられなかったところが、とてもとても悔しかった。
いつの間にか眠りについた僕は、変な悪夢を見た。小学生の時に好きだった女の子に、溺れるほどのプリンを作ってほしいと言われて、プールいっぱいにプリンを作る夢。それを見せて告白したが、
「
と言われてフラれた夢。変に事実に沿っているから、余計に辛いかった。
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