第4話
次の日。
僕は下校の道すがら、ちょっとドキドキしながら家に帰った。いつも通り裏口から入れば、作家先生の後ろ姿がいつもの場所に見えた。どうやら集中しているようだ。
自室に荷物を置いて、プリンの様子を見に行く。冷蔵庫から取り出し、型に沿ってナイフで一周する。大きめのお皿を用意して、その上でちょっと揺らす。すると、どっしりとした重さと共に型から出てくる。有名な某プリンとは違ってぷるぷるはしていないけれど、つるりとした側面にカラメルがとろりと垂れている。卵と甘い匂いがして、とてもおいしそうだ。
食べやすいように切り分けて、作家先生と僕のお皿に乗せる。チーズの種類ごとに別の皿に分けて、それをお盆の上に乗せる。今日は自分が淹れたコーヒーも乗せて、離れの部屋へと向かう。
「先生、プリンできましたよ」
そう声を掛けると、先生は執筆用の機械から顔を上げた。
「おお! 意外と早かったなぁ」
先生は楽しそうにしている。机の上を片付けてもらって、その上にプリンとコーヒーを置く。二つずつ、それぞれが座る前に置いたら、小さな机はいっぱいになってしまった。
置かれたプリンの姿を見た作家先生は、先ほどの楽しそうな顔から一転、不思議そうな顔をしている。僕も少し不思議に思ったが、気にしないことにして座った。
二つずつのプリンと、コーヒー。僕は眠れなくなるからノンカフェインのコーヒーを持ってきた。先生はまだ難しい顔をしているが、僕の「いただきます」の声に反応して食べ始めた。
「ス」が入っていないかだけはすごく心配だったが、なんとか完璧に作れている。うちではプリンをたくさん作るから慣れてはいるけれど、やっぱり切ってみるまではわからない。
まずはクリームチーズの方を食べてみる。スプーンで掬うと、固いのにとろりとしていておいしそうだ。口に含むと、バニラビーンズと卵の風味の後ろにチーズが優しくいる。甘ったるくなくて、爽やかだけど濃厚なのが良い。マスカルポーネの方も食べてみると、こっちは甘くて濃厚。ミルクっぽさを強く感じられて、これもまた美味しい。我ながら、大変良くできていると思う。
先生の方を見ると、彼女も二つのプリンを一口ずつ食べている。味わうようにゆっくりと食べながら、優雅にコーヒーを一口含む。その表情はとても幸せそうで、心の中で大きくガッツポーズをした。
「真純くん、やるじゃないか。どんどん菓子作りの練度が上がってきているね」
珍しい素直なお褒めの言葉に、僕は耳が熱くなった。なんと返せばいいかわからなくて、ちょっとむず痒さを感じる。
しかし、作家先生が紡いだ次の言葉に、僕の手足は冷えることになる。
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