地下で繰り広げられる陰謀

ろうそくがほのかに光る部屋の中。 修道服を着たニベアが廊下を歩いていた。


彼女が廊下を歩く理由は一つ。 司教から受けた命令を遂行するためだった。


どれくらい歩いたのだろうか。 彼女は廊下の端にある扉を開け、にやりと笑った。


「クラーク」


彼女が心の中でクラークの名前を呼ぶと、彼の声が耳を通さず直接頭の中に伝わってくる。


「見つけたか?」

「それらしい場所を見つけたわ。」

「場所は?」

「宿舎廊下の端、地下に下りる階段よ。」

「すぐ行く。」


彼女は手に持っていたランタンを前に下ろし、階段の下を見下ろした。 果てが見えないほど長い階段。 この下に、きっと自分たちが探していたものがあるだろうと思った。 というのも、たいてい地下室には秘密の物が隠されているものだからだ。 特に、地下室がないように見える建物にある地下室には。


タッ、タッ。


後ろから足音が聞こえ、ニベアが振り返る。


「来たの?」

「状況は?」

「まだ下りてないからわからないわ。」

「そうか。」


クラークが階段を見つめ、ゆっくりと下りていく。


「気をつけろ。中に何があるかわからないからな。」

「心配しないで、自分でなんとかするから。」


彼らが地下室に下りて数分、風が吹かない廊下で彼らが開けた地下室の扉がゆっくりと閉じた。


&&&


『静かだ…』


本当に静かだ。 夜ごと木の上に登り見張って三日目。 ずっと見張っているのに、一度も外に出てこない。 夜明けのミサの時間には確かに建物にいるのだが、毎晩姿を見せないのが少しおかしい。


『バレたのか?』


気配もきちんと消した。 足音はもちろん、息も漏らさなかった。 そもそもバレたのなら、あいつらの一人、ニベアが嬉しそうな顔をして飛び出してきて、目を輝かせて飛びかかってきたはずだ。 しかし、ニベアどころかアリ一匹さえ見当たらない。


『せめて一度くらい外に出てきそうなものだが…』


こんな風に時間を潰すのももう飽きてきた。 本当に王城からあの司祭を助けるために送られたのだろうか。


『今まで何も起きていないところを見ると、それが正しいのだろうな…』


事を起こすつもりなら、もうすでにやっていただろう。 これ以上見守る必要はないようだ。 そう思ったその時。


ドン。


地面が振動する。 自分が木から降りたからではないだろう。 この三日間は外に出なかったが、それまで毎日外に出て食い物を漁っていたため、少し太ってしまった。 しかし、それでも今の地面の振動は人の重みで出せるものではなかった。


ミノタウロス…いや、それよりはるかに大きなモンスターが地上を歩くときや、近くで強力な魔法が発動したときに起こるほどの振動。 そして、その振動の発生源と思われる場所はまさに。


『教会の中…』


ついに何かが起き始めた。 学校で知る前に。 学校に何かが起きる前に解決しなければならない。 今回も学校内で何かが起きるようであれば、本当に学校が閉鎖されたり転校しようとする学生で溢れ、普通の学校生活を送ることができなくなってしまうだろう。


私はすぐに教会に向かって駆け出し、扉を開け放った。


夜明けとは違い、人一人いない祈祷室が目に入ってくる。 人々の間にいるときは慈悲深く見えた祭壇の彫像は、夜になると暗殺者の彫像のように見え、この空間を不気味にしている。


ドン、ドン。


もう一度振動が響く。 それもごく近くで。


振動がした方向にゆっくりと体を動かした。 祈祷室の右端、扉を開けて中に入ると、大理石の床のある長い廊下が現れた。 中にゆっくりと入り、扉を一つ一つ開けていった。


ある部屋には人がいないが、ある部屋には死んだ人の遺体が目に入ってくる。


『これは…大事だな?』


これがバレたら、確実に学校に大騒ぎになるだろう。 かといってここにある遺体をこっそり土に埋めることもできない。 仮に埋めたとしても、教会の人々がいなくなったことを学生や先生がすぐに気付くだろう。


廊下の端にある、他の扉とは異質な木の扉。 そのドアノブを掴んでゆっくりと力を入れて引いてみた。


『開かないか?』


しっかりと閉ざされている。 いくら力を入れても開かない。


短剣を取り出し、扉に向かって振った。


ガン!


短剣は少し輝きを放ちながら扉に触れる前に弾き返される。


『防御魔法…』


中にあるものを出さないためなのか、それとも誰も入れないようにするためなのか、扉に防御魔法がかかっている。


ドン、ドン、ドン!


聞こえてくる音、感じられる振動を見ると、原因はこの下にある。


『これでどうだ…』


私は短剣をしまい、腰にかけていた赤い杖を取り出し手に握った。 そして距離を取って扉に向けて杖を向けた。


「ファイアボール。」


呪文を唱えると、杖が振動し、透明な魔法が素早く飛び扉にぶつかる。


防御魔法が砕ける音が聞こえ、扉の方に歩み寄り、ドアノブを掴んで引くと、ギイッという音を立てて木の扉が開く。


『やった!』


扉の内側には地下に続く長い階段がある。 この下で何が起きているのか。 私はゆっくりと階段を下りていった。



階段を最後まで降りると、壁ごとに横になれるスペースがある地下通路が目に入った。

そこにあるのは人間のように見える骨。

骨だけでなく、腐りかけた死体もいくつかある。


「死体保管所か…?」


学生のものには見えず、ラブリンスから持ち帰ってきたようなものだ。

最近になってこの場所に死体が運び込まれたのか、まだ腐らず保存されたままの死体も、地下通路の壁の空いた空間に横たわっている。


死者を埋める墓地はラブリンスに別にあるはず。

それならばここはどんな目的で作られた場所なのだろうか。


廊下に沿ってまっすぐ進んでいくと、もう一つの扉が現れる。


ゴォン!


大きな爆発音が響く。

慎重に扉を少し開け、中を覗いてみた。


「くそっ!」


ニベアの声が聞こえ、続いてクラークという男が剣を構え前に向かって突進していく。

彼らが相手にしているのは……

あれはモンスターだろうか。

それとも獣か?

頭に角が生えているところを見ると、人間ではないだろう。

しかし、青白い皮膚に少し変形したような大きな体躯。

人間とかなり似ている。


「だが、着ている服が…」


顔つきも、服装も、こいつは数日前の明け方にニルと共にミサに行った時に見かけた神父とそっくりだ。


そいつが放った炎をクラークがローブで身を守って防ぐ。

炎は防げたが、衝撃は防げなかったのか、クラークの体が壁に吹き飛ばされぶつかる。


「クラーク!」


グルルル…


人間ではないモンスターのような咆哮を唾を飛ばしながら叫ぶ。


「助けるべきか…」


この二人が敵か味方かも分からない状況で二人を助けるのは少し迷う。

しかし、どう考えても目の前の青い皮膚に角が生えたやつのほうが敵に見える。


「なら、決まりだ。」


今から二人を助ける。


タッタッタッ。


かなり狭い部屋の壁面が火に包まれて燃え盛る。

何のモンスターか分からないほど粉々にされた肉塊が床に散らばっていて、手術道具らしきものが壊れて床に転がっている。


「また別の敵か…」


ニベアが私を見て、薄く笑いながら額に流れる汗を拭う。


「見ろよ、クラーク。言っただろ? こいつ、カオスウェーブかもしれないって。やっぱりカオスウェーブで間違いないようだな。」


この前もカオスウェーブと言っていたが、いったいカオスウェーブとは何なのか。

今すぐに聞きたいが、そんな時間はなさそうだ。


グオオオオ!


そいつが手を伸ばし、私に向けて炎を放つ。

私は腰にある短剣を引き抜き、すばやく動いてそいつの炎を避けながら距離を縮めた。

そして剣を振り下ろした。


シャアッ。


私の短剣がそいつが身を守るために持ち上げた腕を貫いた。

青い血が腕からポタポタと落ちる。


「なんだ、お前カオスウェーブじゃないのか?」


私は短剣を捨ててそいつから離れ、もう一本の短剣を腰から取り出した。


「そうか、ならば…」


ニベアがにやりと笑い、構えを取る。


「ひとまずカオスウェーブのゴミを片付けるまでは同盟しよう!」


ニベアが私が攻撃した部分とは逆側に走り込み、空いている腰に短剣を突き刺す。


ブシュッ!


そいつの口から血が飛び出し、壁に寄りかかっていたクラークがよろめきながら立ち上がり、剣を持って怪物の正面を狙う。


「はあっ!」


クラークは気合を入れながら正面に突進し、そいつの首を狙って剣を突き刺した。

大量の血が怪物の口から飛び出し、クラークの剣を伝って手の甲へと流れ落ちる。


グルル…


喉を刺したのにどうして声が出せるんだ?

いや、それよりもどうして生きているんだ?


グオオオオ!


そいつの咆哮と共に謎の気配が部屋中に広がる。

蛇の目と舌が私を舐めるような気味悪い感覚。

今までに感じたことのない気配だ。


「くっ…!」


距離を取ったクラークとニベアがすぐに鼻を押さえる。


「まさか、嗅ぐだけで死ぬ毒みたいなものか?」


私も彼らに倣って鼻を塞いだ。


そいつは私が突き刺した短剣とニベアが刺した短剣、さらに首に刺さっていたクラークの剣を次々と抜き取る。

剣でつけた深い傷が瞬く間に治り、そいつがこちらに向かって腕を伸ばす。

すると、腕がチーズのように長く伸びていく。


グオオオ!


そいつの腕が伸びてニベアを鞭のように打ちつけ、彼女が吹き飛ばされると、今度は私の方へと方向を変えた。

攻撃がかなり重い。


腕はクラークにも攻撃した後、再び元の形に戻り、続いてそいつは私たちに向かって口を開ける。


「これは危険だ。」


体全体がそいつの攻撃が危険だと信号を送っている。

そいつの手の前に魔法陣が現れ始め、青い炎が集まり始める。


「防がなければ。」


防げなくても、せめて魔法の力で衝撃を和らげなければならない。

私はワンドを取り出し、そいつに向かって構えた。


「ファイアボール。」


赤いワンドが普段より強く震える。

空間を引き裂くような陽炎がだんだんと一か所に集まり始め、魔法を放つそいつに向かって勢いよく飛んでいき、強力な爆発を起こした。

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