魔剣術の女帝と共に行くダンジョン
「な、なんでここに生徒会長が……。」
「ん? 私、言ってなかったかな?」
「聞いてませんでした!」
「なら、今わかればいいじゃないか。」
言い終えたアレイラ先生がハハと笑う。 こちらは全然笑えないけれど。
「どうしよう……。」
全力で無視するつもりだった相手が、ダンジョン探索のパートナーだなんて。 頭がずきずきしてくる。
「エドワードはシャーロットのことを知っているみたいだから省略して、シャーロット、こちらが前に話した魔法が『使えない』生徒のエドワード・エステルだ。」
「はじめまして、エドワード・エステル。」
シャーロットが微笑みながら手を差し出す。
「ちょっと待ってください、先生。」
僕はアレイラの腕を引いて、シャーロットとの距離を取った。
「どうした? 何かあったのか?」
「パートナー、他の人にしてください。」
「なんだって?」
理解できないという顔で僕を見つめる。 きっとこの学校の大半の人が、僕がなぜパートナーを変えたいのか理解できないだろう。 おそらくシャーロット本人ですらもだ。 それも当然か。 将来有望な人と距離を置きたいと思う奴なんて、そうそういないからな。
「ダメだ。戻れ。変えてやるつもりはない。」
「いや、なぜよりによって数多くいる先輩の中から生徒会長のシャーロットなんですか?」
「そりゃ、お前が魔法を使えないからに決まってるだろう。聞いてるはずだ、今回の舞踏会祭りのとき、現れたモンスターをすべて倒したのがあのシャーロットだってことを。」
それは知ってるさ。 オーガの首元まで刺して倒し、俺に剣まで向けた人だ。 それに加え、学校中にその噂が広がっている。
「それは分かってますけど……。」
「こんな配慮が気に入らないなら、魔法を使えるようになってから言え。面倒をかけるな。」
アレイラが僕の頭を軽く叩いて、歩き去った。
「くそっ!」
どうやらパートナーを変えるのは諦めるしかなさそうだ。 なら、作戦変更だ。
ダンジョンを回っている間は、シャーロットからできるだけ存在感を消す! 話しかけられたら、徹底して短い返事で返して。 そうしているうちに、彼女も僕の態度に気づいて、もう話しかけてこなくなるだろう。 これでシャーロットと親しくならずに、今回のダンジョン探索実習を無事に終えられる。
作戦を立てた僕は、覚悟を決めた表情でシャーロットに一歩、また一歩近づいた。
「先生と何話してたの?」
小さくてもはっきりとした彼女の声。 ここで正直に話して好感度を急落させるのもありだが。
「とにかく、ダンジョン探索はしなきゃいけないし……。」
入る前から好感度を下げる必要はない。
「何でもないですよ。」
シャーロットが僕を見つめて、首をかしげた。
&&&
「ほら、みんな集合!」
アレイラがダンジョンの入り口で声を張り上げる。 彼の後ろには巨大な洞窟。 洞窟の両脇には警備員が立っており、その前にはドラゴンの頭が彫られた柱が立っている。 その柱の中央には文字が刻まれている。 読んでみると、それは初めて訪れる冒険者のためのダンジョンの説明書だ。
アレイラはダンジョンの入り口に木箱を置いて、その上に立ち、集まった生徒たちに向かって声を張り上げる。
「最近、学校に侵入者だけでなくモンスターまで侵入してくることがあるのは、お前たちも知っているだろう。」
舞踏会の期間。 学校内にいたすべての生徒が経験しているから、知らないはずがない。
「奴らがまた学校に侵入して、モンスターを呼び出し攻撃してくるかもしれない。だから少しでもモンスターを相手にする方法を教えるために、校長先生にダンジョン探索実習を提案したんだ。」
「やっぱりこの人が……。」
考えてみれば、こんな面倒なことをやりたがる先生はこの人くらいだろう。
「ここにお前たちが集まっているのを見ればわかるように、結果は当然合格だ。だから、お前たちはまだダンジョンを探索できる年齢じゃないけど、今日一日だけダンジョン探索の実習を行う。」
「今日だけなんですか?」
「ああ、そうだ。」
「次回もまたダンジョン探索実習があるんですか?」
「それは今回の実習の反応を見て決めるから、またやりたい奴は集まって校長先生に直接提案してこい。」
生徒たちがざわざわし始める。
「静かに、静かに! 今から注意事項について説明するぞ。」
アレイラがゆっくり説明し始めた。
彼が言った注意事項は全部で5つ。 まず1つ目、ダンジョンには前の列から順番に入場すること。 2つ目、ダンジョン内にはモンスターがたくさんいるので、気を抜かないこと。 3つ目、ダンジョン内にいるモンスターのうち、討伐対象のゴブリンでない場合は無視するか先生に知らせること。 4つ目、ダンジョン内に立ち入り禁止の看板があったら、過信せずに引き返すこと。
そして最後に。
「5つ目、ダンジョンで何かあった場合は必ず私や実習に参加した他の先生方に知らせ、ケガをした学生はここにいるナガイア・エルバトリス先生に治療してもらうように。」
アレイラが指さした方向を見てみた。 そこには髪を丸く巻き上げ、何でも吸い込みそうな黒い瞳を持つ、目が小さくて笑っているように見える若い女性がいた。
『この人が治癒魔法の先生、ナガイア先生か?』
この学校の先生たちはみんな年配の方ばかりだから、ナガイア先生も40代か50代だと思っていた。
「では、以上で注意事項は終わりだ。質問はあるか?」
「いつ出ればいいですか?」
「いい質問だ。ダンジョン探索が終わる時間になると、先生の一人がダンジョン内に入って『集合』と叫ぶ。その時、お前たちも大声で『集合』と言って出てくればいい。」
「はい~」
「他に質問はないか?」
アレイラは周りを見渡し、壇から降りて声を張り上げた。
「では、前から順番に入場!」
『ついに入場か……。』
僕たちの前の列から順に中へと進んでいく。 一定の距離で止まってはいるが、一応ダンジョンなので、学生たちの表情には緊張が浮かんでいる。 僕も緊張しているのは他の学生と同じだ。
ダンジョンか。 中はどうなっているんだろう。
&&&
あちこちで爆発音が響く。
キーッ!
緑色の肌に長い鼻と口、下半身は布や革などで重要な部分だけを隠した怪物、ゴブリンが僕に向かって走り寄ってくる。
「後ろに下がって!」
僕の前にシャーロットが立ちはだかり、腰から抜いたレイピアで目の前のゴブリンの頭を斬った。 切られたゴブリンの頭が地面に落ち、切断された首から流れ出た血が地面に溜まっていく。
「ふう……。」
深く息を吐き、僕を振り返る。
「ケガはしてない?」
「はい、おかげさまで。」
僕は彼女を通り越してゴブリンのところへ歩み寄った。 そして、死体の中を探り始めた。
「何してるの?」
シャーロットが僕のところへ近づき、僕の行動を見つめる。 僕が今していることは何か。 それは、収集だ。 モンスターを倒すと戦利品が手に入る。 戦利品といっても、やつらが使っていた武器や防具、食料がほとんど。 その中で一番高く売れるのは、やつらが心臓の代わりに持っている魔石だ。
『なんだこれ?』
僕は切られた首から手を奥に突っ込んで魔石を取り出した。 森にいたやつと同じサイズの魔石だ。
『ダンジョンのやつは少しは大きいかと思ったけど、ゴブリンはやっぱりゴブリンだな。』
ゴブリンが下級モンスターだからか、アーセルの森にいたゴブリンと特に変わりはないようだ。
「じゃあ、行こう。」
僕は魔石をポケットに入れ、前へと歩いていった。 僕のそばに来たシャーロットがまた僕に尋ねる。
「さっきのは何?」
「気にしなくていいです。」
僕の言葉にシャーロットは顔を正面に向けたまま、目だけ僕の方に向けて見つめている。 たぶん僕の反応を見て、相当冷たくあしらわれていると感じているだろう。 それが僕の狙いでもあるが、ただ距離を置くためにそう答えたわけではない。
モンスターから出る魔石はかなり高く売れる。 こんな下級モンスターの魔石でも、少なくとも1シルバー、多くて20シルバーで売れる。 これを僕がどうして知っているかというと、たまにアーセルに来る行商人に魔石を売って小遣い稼ぎをしていたからだ。
そして今。 前に赤いワンドと学校の支給用ワンドを買うためにお金を全部使い果たした。 残っているお金もお菓子に使ってしまい、今やポケットを探ってもホコリしか出てこないほど。 ここで集めた魔石で夜にこっそり小遣い稼ぎをするつもりだった。 もちろん、教えたからといって、公爵家という爵位を持つ家柄の娘であるシャーロットが少額を取り上げるとは思えないが……
『教えたからといって、いいことはないからな。』
「前にもゴブリンがいるね。」
僕の言葉にシャーロットが前方を見た。 目の前のゴブリンは全部で4匹。 やつらは僕たちを見つけると、舌をペロリと出しながら棍棒を構えてこちらに走ってくる。
シャーロットが前に出てゴブリンたちに立ち向かう。 その間、僕は後ろに腰を下ろし、ダンジョンの内部を見回した。
『普通の洞窟と大差ないな。』
前世で北朝鮮に潜入した時、仲間と名前も知らない洞窟で一度野営したことがあった。 北朝鮮の軍人たちに見つからないように奥で寝ていたが、その時見た洞窟の風景と大きくは違わない。 一つ違う点があるとすれば、あちらはコウモリが頻繁に現れる洞窟だったが、ここではコウモリの代わりにゴブリンが現れるくらいだろうか。
「やっ!」
シャーロットが剣を一振りするたびにゴブリンたちが豆腐のように切られていく。 あっという間に4匹のゴブリンを倒し、僕はまたゴブリンのところへ歩いていき、短剣を取り出して体を裂き、中から魔石を取り出してポケットに入れた。
『もう聞かれないな。』
好感度は完全に底をついたようだ。 かといって、僕を嫌っているわけでもなさそうだ。 僕が無関心を貫いていると、シャーロットも無関心を貫くことにしたようだ。
『よし、このままで行こう。』
アレイラ、よく見てろ! あなたがつけてくれたシャーロットを利用して、お金をどんどん稼いでやるからな!
&&&
ガツガツと噛む音が耳を打つ。 「あいつか……。」
僕は剣を手に取り、前を見据えた。 砕けた頭、力なく垂れ下がったゴブリンの死体を食い荒らしているやつだ。
「グルル……」
やつが僕の目を見つめ、牙をむいてくる。
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