始まるモンスター討伐実習

ファイアボール。 俺が知っていて、また見たことのあるファイアボールは確かに火花のように赤い色だ。 そもそも特別な金属を燃やしたり、もっと高温でない限り、火の色は変わらない。 変わるはずがなかった。


ブウゥン–


ワンドから振動が伝わってくるが、魔法陣は見えない。 だが、直感的にわかる。 空中に揺れる蜃気楼。 そして、その蜃気楼がだんだん集まり始め、素早く木に向かって飛んでいく。


ドカーン!


「えっ……」


まるで空気を集めて吹き飛ばしたように周囲が焦土と化した。 俺が発動させたのはファイアボールだ。 そもそも昨日の授業時間、今日の実習時間に習ったファイアボール以外、俺は知らない。 だから、俺の呪文から出たのは間違いなくファイアボールのはずだ。 しかし、なぜ他の人たちと違って飛んでいったのは火の玉ではなく、空気の塊なのか。


「ふむ……」


俺が何か間違えたのか。 いや、そんなことはないはずだ。 俺が実習をしているとき、いつも俺をからかうあの先生ですら、姿勢や呪文については指摘しなかった。 つまり、俺の呪文や姿勢には間違いがないという意味だ。


「もう一度やってみる?」


今この状況でできるのは、もう一度やってみること……だけど、どうやらそれは無理そうだ。


「周囲を見張れ!」


爆発音のせいか、町を守っていた警備兵がこちらに向かってくる足音が聞こえる。 このまま見つかれば、100%追い出されるだろう。


俺はすぐに立ち上がり、通路に向かって走り出した。


&&&


「昨日よく眠れなかったの?」


魔法の基礎授業の時間が過ぎ、顎をついてうとうとしている俺の隣にニールが近づいてくる。


「まぁ、そうだな。」


昨夜テストしてみたあの魔法。 あの魔法が一体何なのか考えていて、まともに眠れなかったのだ。


「二限目の召喚魔法の理論の教科書は持ってきたよな?」

「持ってきたよ。それよりニール。」

「何だ?」

「もしもさ。もしもある魔法の呪文を唱えたとき、別の魔法が発動することってある?」

「ある魔法の呪文を唱えたのに別の魔法が発動するってことか……」


今まで見てきた限りでは、ニールは魔法に関する知識が多少あるみたいだから、知っているかもしれない。


「うーん……俺が知る限りでは、呪文というのは魔法ごとに一つに決まっていると聞いているよ。」

「一つに決まっているって?」

「正確にはわからないけど……世の中にはたくさんの魔法があるだろ?」

「そうだな。」

「その魔法を錠前に例えるなら、その錠前を開けるための鍵が呪文と考えてもいいんじゃないか。」 「『鍵』か……」


錠前にはそれぞれに合う鍵がある。 ニールの話は、魔法も同じように各魔法に合った呪文があるという意味だ。


「それなら、別の魔法が発動することはないんだな?」

「断言はできないけど……そうだろうな?それか先生に聞いてみたらどうだ?」


俺は誰もいない教卓を見た。


「いいよ。あの人に聞くぐらいなら、ただ疑問のままのほうがマシだ。」


どうせまともな答えも返してくれないだろう。 ニールがぎこちなく笑い、続けて俺に聞く。


「ところで、それはどうして?」

「いや、ただ……」


ニールに話したら信じてもらえるだろうか。

直接見せても構わないんだが、こいつは優しい奴だから、先生が何か聞いたら全部答えそうで言うのが迷う。


カーン、カーン–


魔法学校の授業開始を知らせる鐘の音が鳴り響き、一人の人物が扉を開けて入ってくる。


「みんな席に着け。授業を始めるぞ。」


茶色の長い髪をツインテールにして結んだ、小柄で顔も幼い少女。 彼女は召喚魔法の理論を教える教師、ミューゼル・ディスクリーフ。 直接言われたことはないが、噂では彼女は100歳を超えているという話がある。


「このクソガキども!早く本開け!」


幼い体からどうしてこんなに大きな声が出るのか、広い教室中にミューゼルの声が響き渡り、学生たちは一斉に座って何も言わずに本を開く。 こうして、次の授業である召喚魔法の理論講義が始まった。


俺が初めて魔法を使ってから1週間。 今、俺を含む学生たちはナルメリアの森にいる。


「今日も変わらずやってきた実習だ。」


アレイラが力なく拍手をしながら学生たちを見渡した。


「みんな、ちゃんと練習はしてきた?」 「はい!」


最初に答えるのはアリア。 アレイラに褒められたからなのか、それともセルリマ家の家風なのか、彼女は夜遅くまでファイアボールの練習をしていた。 どうしてそれがわかるかって? 夜中に爆発音が響いて眠れなかった学生が何人もいるからだ。 もちろんその何人かに俺も含まれる。


「今日の実習でやること、それは、モンスター討伐だ。」

「モンスター討伐?」


ナルメリアの森にモンスターがいたっけ? 今まで歩き回って一度も見たことがないのだが。


「そうだ、お前たちも魔法を習っただろう?一度はモンスター討伐をしてみたいと思わなかったか?」


学生たちは答えない。 もちろん学生たちも考えたことぐらいはあるだろう。 自分が習った魔法でモンスターを討伐することを。 だが、それはあくまで魔法をちゃんと使えるようになった時の話だ。 今いる学生の半分以上がまともにファイアボールさえ使えないのに、モンスター討伐に自信を持っている人間がどこにいるというのか。


「もちろんあります!」


ただし、あの火中毒者アリア・ド・セルリマは除いて。


「モンスターなんて、このマグマエル伯爵家の長男、トライド・ル・マグマエル様が全部倒してやるぜ。」


あれは間違いなくバカだな。


「さすが兄貴!」

「いやぁ、兄貴!自信に満ちた姿がかっこいいっす!」


隣にいる取り巻きの二人が持ち上げるから、やつの鼻は天を突くほどに高くなる。


「同い年なのに兄貴ってな……」


ニールが呆れたように苦笑する。


「おう、二人とも。自信に満ちた姿はいいぞ。」


自信満々の二人を見て褒めたアレイラは、周りの学生たちを見ながら言った。


「他の学生も心配するな。学校に入学して間もないやつらにオークやオーガみたいなやつを倒せなんて言うほど、ナルメリス魔法学校は厳しい場所じゃないからな。」

「じゃあ俺たちは何を倒すんですか?」


トライドの質問にアレイラが答える。


「君たちが倒すモンスターはスライムだ。」


スライム。 核を中心に液体を集めて作られるモンスター。 体も俺の足のサイズより少し大きいぐらいで、人間に比べてかなり小さなモンスターだ。


「君たちも本で学んだように、スライムは普通の人でも踏みつぶして殺せるほど弱いモンスターだ。君たち各自のレベルがどうであろうと、スライムぐらいは簡単に魔法で倒せるはずだから、心配しなくていいぞ。」

「ええ、スライムで魔法の訓練になるんですか?」


アリアの言葉にアレイラが笑みを浮かべた。


「なら、お前一人でダンジョンに入ってゴーレムでも倒してこいよ。」

「ダンジョンまで行くのはちょっと遠いですし。今日はスライムで満足します。」

「遠いか?なら俺がテレポートで連れて行ってやる。」


その言葉にアリアが静かに後ずさりし、顔をそむけた。


「まぁ、いい。今から二、三人ずつペアを組んでスライムを見つけ、ファイアボールを使ってスライムを討伐してみろ。」

「えっと、先生!」

「何だ?」

「ナルメリアの森で他のモンスターに出会ったらどうすればいいですか?」

「良い質問だ、ニール・ド・ルアイズ。」


褒められて嬉しくなったニールが照れくさそうに後頭部を掻き、アレイラが俺たちに言った。


「君たちも知っての通り、このナルメリアの森はナルメリス魔法学校内にある森だ。こんな場所にいろんな種類の強いモンスターがいたら、うちの魔法学校が今まで存続してるわけがないだろう。」

「ってことは……」

「このナルメリアの森にいるモンスターは、召喚魔法理論を教えているミューゼル先生が、先生たちがモンスターを要請するたびにそのモンスターだけ召喚するんだ。他のモンスターがいるわけがないから心配しなくていい。それに授業時間が終わればすぐに消えるから、全部倒せなくても授業が終わればすぐに森の外に出てくるんだ。」


『ああ、だから今までナルメリアの森を歩き回っていても、夜になって一度も見たことがなかったのか。』


今まで何度も森の通路を歩き回ってもモンスターの影すら見なかったが、それには理由があった。


「さて、他に質問は?」

「ありません。」

「よし。今残っている時間が約1時間20分だから、みんな散らばってスライムを探せ。授業が終わる時間になったら。」


アレイラが空に向かってワンドを掲げて呪文を唱えた。


「スモールボム(small bomb)」


すると丸い火の玉が空高く昇り、花火のような大きな音を立てて炸裂した。


「この信号が聞こえたり見えたりしたら、またここに集まれ。」

「はーい」

「では、開始。」

「開始~」


学生たちがみんなペアを組んで出発し、ニールと一緒に森の奥へ歩こうとしたとき、後ろから誰かが俺たちの隣に駆け寄ってきた。


「アリア?」

「一人は魔法も使えないし、もう一人は使えてもひ弱な魔法しか使えないでしょ?このセルリマ家の次女でありファイアボールマスターの私が特別に一緒に行ってあげるってさ、どうする?」

「友達いないのか?」

「ちょっ……友達がいないわけないでしょ!」

「ならそいつらに一緒に行こうって言えばいいのに、なんでまた俺たちにくっつくんだ?」

「それは……さっきも言ったでしょ!特別に一緒に行ってあげるって!」

「えっと……エドワード、その辺でいいだろ。アリア、よろしくな。」


アリアは鼻で笑いながら顔を背ける。


「子爵家のニールはちゃんとした常識があるみたいね。」

「常識がないのはお前だろうよ。」

「このっ!」

「もうやめてってば~!」

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