地獄のような実習時間
「今日から実習を始める。」
いくつもの堅い岩と、所々にターゲット用の鉄板がある学校の裏手の訓練場。
今日は生徒たちが待ちに待った実習の日だ。
もちろん、私は違うけど。
「みんな、昨日習った魔法、覚えてる?」
「はい〜」
昨日習った魔法といえば……
「ファイアボール。」
アレイラがワンドを持ちながら目標を指して呪文を唱える。
すると、彼のワンドの前に空中に赤い魔法陣が生成され、その魔法陣の中央から火の玉が飛び出して目標に命中した。
大きな爆発音とともに黒い煙が空へ立ち上り、生徒たちは緊張した表情でその様子を見つめていた。
「ファイアボールはこう使うんだ。前から一人ずつ出てきてやってみなさい。」
アレイラは訓練場の片隅に用意された机に座り、私たちを見つめている。
生徒たちは仲の良い子同士で、あるいは練習のために数人ずつ組み分けをしていく。
当然、私はニールとペア。 そして、私たちと一緒に組んだ一人。
「はぁ……なんで私がこんな下級貴族たちと一緒に練習しなきゃいけないのよ……。」
後ろでまとめた赤い髪の少女。 以前アレイラに無礼だと言われたあの子だ。 名前は確か……
「アリア・ド・サラダだったっけ?」
「アリア・ド・セリマよ!」
私の言葉にアリアが耳をつんざくような大声で叫ぶ。
「そうか、アリア・ド・セリマ。」
「下級貴族のくせに私の家門の名前を間違えるなんて……外ならただじゃ済まないわよ!」
「ニール、君が先にやってみて。」
「私を無視するつもり!?」
私の言葉に、ニールがワンドを手に取り目の前のターゲットを見つめ、深呼吸をする。
そして、ワンドを持ち上げた。
「ちょっと待って!」
アリアが魔法を使おうとしたニールの前に立ちはだかる。
困惑した表情でニールがアリアを見つめると、アリアはにやりと笑って傲慢な表情で目標を見つめ、こう言う。
「私が先にやるわよ。あなたたちのような下級貴族はセリマ伯爵家の次期家主候補、このアリア・ド・セリマ様の魔法を見て学ぶの。分かった?」
『おぉ……。』
入学前にでも学んだのだろうか? いや、それはないだろう。
父が言っていたではないか。
学校以外で魔法を学ぶのは王国の法律に反すると。
「分かった、先にどうぞ。」
ニールがぎこちなく笑いながら後退して場所を空け、アリアはふんと鼻で笑いながらターゲットを睨みつける。
「よく見てなさい。これがこのアリア・ド・セリマ様の魔法よ!」
その言葉と同時に、ターゲットに向かってワンドを振る。
「ファイアボール!」
アリアのワンドの前に赤い魔法陣が現れ、その魔法陣からファイアボールが発射される。
ドカーン!
周囲が震えるほどの大きな爆発。 その音を聞いてアレイラが立ち上がり、アリアのもとに歩み寄る。
「さすが炎のセリマ家というべきか?炎の魔法は上手いな?」
「次期家主になるにはこのくらい当然です。」
先生の褒め言葉のおかげか、かなり得意げに胸を張る。
「だから褒めると図に乗るのよ。」
アレイラは舌打ちし、後ろの岩に寄りかかりながらニールを見て言った。
「次、ニール・ド・ルアイーズ。」
「はい!」
アリアが脇へよけ、ニールが前へと歩いていく。
そして、ターゲットにワンドを向けた。
冷や汗がニールからこぼれ、やがてニールが呪文を唱える。
「ファイアボール!」
ニールのワンドの前に現れる魔法陣。
しかし、その魔法陣はアリアのものよりもはるかに小さく、飛んでいく火の玉も野球ボールくらいの大きさで、爆発は起こらなかった。
「やっぱり下級貴族は下級貴族ね。こんな簡単な魔法一つまともに使えないなんて。」
アリアがクスクスと笑う。
「元々これが普通よ。セリマ家の属性が異常に炎魔法に近くて強いだけ。」
「いいえ、私たちセリマ家は代々炎属性の魔法だけでなく、氷属性や電気属性も得意でした!」
「そう?じゃあエレシード家と電気属性の魔法対決をしても勝てるの?学校にエレシード家の生徒がいるけど、呼んで一度対決してみる?」
「そ……それは……」
アリアが歯をぐっと噛みしめ、やがてぎこちなく笑う。
「エレシード家は私たちの家と非常に強い絆を築いた家門です。決闘をしてまでどちらの家の魔法が強いか競うのは、無意味な時間の無駄に過ぎません。」
「まぁ、そういうことにしておこうか。では、次。」
アレイラがにやりと笑いながら私を見つめる。
「我らがマナゼロのエスター男爵家のエスターもやってみるか?」
ニールはただニールと呼んだのに、どうして私は男爵家だと特定して言うのだろう。
いや、そもそもどうして私を目の敵にしてるんだろう?
「はい。」
「頑張って!」
ため息をつきながら前に進む私に、ニールが後ろから応援してくれる。 ニールがこうして応援してくれているのだから、少しは誠意を見せないといけないだろう。
「よし。」
私はワンドを取り出した。
「さぁ、さぁ、生徒たち!全員注目!」
私が始めようとすると、アレイラが拍手をして、練習していたすべての生徒の視線をこちらに集中させる。
「今からマナゼロのエドワードが魔法を使う予定だから、よく見ておくように。」
「ちょ…ちょっと待ってください、先生。」
「なぜ?」
「他の子たちが練習を中断してまで、私の魔法を見守る必要はないでしょう!」
「ないわけないだろう?むしろこれは練習を中断して見る価値がある。」
「え?」
「君はマナがゼロだろう。マナがゼロの人間が魔法を使ったときに何が起こるのか、他の生徒たちも一度確認する必要があるということだ。」
全く反論できない表面的な理由だ。
本音は、きっと私に恥をか게しようとしているのだろうけど。
「はぁ……」
「心配するな。子供たちが君をからかわないように私がしっかり言っておくから。」
『よく言うよ。』
これ以上言っても生徒たちの視線を逸らす気はなさそうだ。
早くやって終わらせるのが一番だ。
「ふぅ……」
『どうか本当に小さなファイアボールでもいいから発動してくれ。』
私は心の中で祈りながら、緊張しきった状態でワンドを掲げた。
そして呪文を唱えた。
「ファイアボール!」
ワンドが振動する。
そして空中に魔法陣が……
バキッ。
「えっ?」
魔法陣が出ることなく、ワンドが半分に折れてしまった。
「何これ?」
「はい、見ましたか、皆さん?」
アレイラが生徒たちに向かって叫ぶ。
「マナがない人間が魔法を使おうとするとこうなるんです〜」
「はい〜」
あちこちから笑っているような声が聞こえる。
もちろんその中で一番大きく笑っているのは、あのトレードマークなのか何なのかっていうやつだ。
「ところで先生。」
ニールが手を挙げてアレイラを見つめる。
「どうした?」
「本来、マナがない人が魔法を使おうとすると反応がないはずではありませんか?」
「確かにそうだな。」
「でも、どうしてワンドが壊れたんですか?」
アレイラが正確に真っ二つになった私のワンドを見つめた。
「二つのうちのどちらかじゃないかな?緊張して手に力が入りすぎて自分で壊したか、あるいは……」
アレイラは腕を組みながらあごを触れる。
「まぁ、後者はないだろうし、前者だろうな。」
人を怒らせる方法の一つ。 話を最後までしないこと。
「後者って何ですか?!」
「お前には関係ないさ、おい。みんな、もう見物は終わりだ。練習に戻れ。」
その言葉を最後に、アレイラは再び自分の席に戻った。
「はぁ……」
「先生の最後の言葉……何だったんだろう?」
「何でもいいさ、どうせ関係ないんだろう。」
あの人は私をからかうことしか考えていないから、二つ目を言わなかったのもおそらくからかうためか、それに似た理由だろう。
「さすが男爵家。マナもないし魔法も使えない。だから男爵家なんだろ?」
本当に口を縫い付けてやりたい。
私より低い階級だったらすぐにでも駆け寄って口を紐で縛り付けるところだ。
あの奴が伯爵家であるのは幸運なことだ。
「それにしても……もう一つワンドを支給してもらえるかな?」
「多分無理だろうね。支給されたとき言ってただろう?ワンドはこれ以上支給されないから大切に使えって。」
「いつ?」
「教科書と一緒に支給されたときに先生が言ってたじゃん。」
特に重要な内容はないだろうと思って、支給される時に他のことを考えていたけど、そんなことを言っていたとは。
「とりあえず先生に聞いてみよう。もしかしたら支給してもらえるかもしれないし。」
「先生が僕にワンドを再支給してくれるって?それは本当に笑える話だな。」
「それで、どうするつもり?」
「方法はいくらでもあるさ。」
僕だけが……いや、僕とその身元不明者たちだけが知る隠された通路がある。
どうせワンドは街で買えるんだ。
出かけて、もっと良いワンドを手に入れればそれでいい。
「僕は大丈夫だから、君は続けて練習して。」
「わかった……うん、わかったよ。」
ニールはその場を立ち、練習を再開するために標的へと向かっていく。
『とりあえずワンドをたくさん買っておくか。』
どうせ実習でたくさん壊すだろうし、念のために多めに買い置きしておかなくちゃ。
&&&
夜も更けた頃。
僕は今、森の中にいる。
ナルメリアの森ではなく、街の外にある名もなき森だ。
こんな夜遅くに、僕がどうしてリュックを背負ってここにいるのかというと、買ったワンドを試してみるためだ。
僕は震える手で、手にした長方形の細長い箱を見つめた。
「ふぅ……」
深呼吸をして、慎重に蓋を開けた。
中に入っているのは、わずかに赤みがかったワンド。
この世界にはあまり存在しない、マナの流れを極限まで引き出せるというマホガニー製のワンドだ。
所持金を全部はたいて、膝をついて値引きまでしてもらい、やっとの思いで手に入れた、元値1ゴールドのワンド。
もしかしたら、このワンドが僕の体内にないマナをどうにかして引き出してくれるかもしれない。
そう考え、目をぎゅっと閉じて、持っている全財産をはたいて購入した高価なワンド。
このワンドを試してみるために、僕は今、街の外の森にいる。
僕はワンドを慎重に箱から取り出し、目の前に構えた。 そして、呪文を唱えようとしたが……
「はぁ……」
僕は息を吐き出した。
口が開かない。
まさに今、僕が持っている全財産を使って購入したワンドだ。
もし、呪文を唱えて実習の時のようにワンドが壊れたりしたら、何も得られずに全財産を失うことになる。
父が1ゴールド近いお金をくれたのは、しばらくお金の無心をせず、それで食いつなげという意味だったのに、手紙でお金を無心したら、父が手紙で怒るに違いない。
「ふぅ……」
僕は再び気を引き締め、前に見える木を睨みながらワンドを構えた。
そして、呪文を唱えた。
「ファイアボール!」
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