属性検知
朝早く、夜明けから餌を探しに飛び回る鳥たちのさえずりが、バルコニーの開いた窓から入ってきた。
「ふあぁ〜……」
伸びをしながら起き上がった僕が最初にしたことは、前世からの習慣のように毎日続けてきた朝の運動の一つである腕立て伏せ。 「健全な精神は健全な身体に宿る」と言われる。 学校に来たからといって、体を鍛えることを怠るわけにはいかない。
「ふぅ〜、爽快だ。」
汗が出ない程度に軽く朝の運動を終えた後、僕は腕を組みながら思案にふけった。
「そういえば、入学式はいつ始まるんだろう?」
考えてみれば、入学式がいつ始まるのかを聞いていなかった。 ガブリエルなら知っているかもしれない。 僕は部屋を出て、隣の部屋にいるガブリエルのドアをノックした。
「ガブリエル。」
ガブリエルも目を覚ましたのか、適当に服を着てドアを開けた。 奴は寝ぼけた姿でもとてもハンサムだ。 あの顔だけでも外して僕の顔と取り替えたいくらいだ。
「こんな朝早くに何の用だ?」
「入学式がいつ始まるか知ってる?」
「入学式?えっと……それは……たぶん……」
ガブリエルは部屋に掛けてある時計を見て目を見開き、廊下を走り出した。
「おい、早くついてこい!」
「なんで?」
「入学式が始まったんだ!」
&&&
ざわざわした声が広い講堂をいっぱいに満たしている。 椅子が一定の間隔で並んでいる広い講堂。 一番前には壇が置かれている。
「貴族の子供たちがこんなに多いのか?」
講堂内にはなんと多くの人がいることか。 少なくとも500人は超えているように見える。
「でも、助かったよ。一時間遅れたからね。」
ガブリエルが小さく囁く。 本来の入学予定時間は8時。 しかし、今は一時間遅れて9時に始まるという。
「あ、ちょっと待って。」
ガブリエルが席を立ち、一群の学生の中に入っていく。 入学式が始まる前からもう友達作りだなんて。 僕も行くことはできるが、友達は選んで作らなければならない僕としては、勝手にどこでも入るわけにはいかない。
「こんにちは。」
隣に座った少年が僕に挨拶をする。 右側に長く伸びたブリッジ、鋭くつり上がった目つきの少年だ。
「こんにちは。」
「よろしく。僕はマグマエル伯爵家の長男、トライド・ル・マグマエルだ。」
「僕はエステル男爵家の長男、エドワード……」
奴が自己紹介をして手を差し出してきたので、僕も挨拶しながら奴の手を握ろうとした。 しかし、奴は僕が言った「男爵」という階級を聞いてすぐに手を引っ込めた。
「なんだよ?男爵家だったのか?」
「……」
「消えろよ、ガキ。知り合い面するな。」
その言葉を残して席を立ち、別の場所へ歩いていった。
「はぁ……はは……」
「悪いな、エドワード。知り合いがあそこにいるんだ。」
笑いながら戻ってきて座ったガブリエルが僕の表情を見て首をかしげる。
「どうかしたか?」
「なんでもない。」
僕がこの話をすれば、ガブリエルの性格上、奴に詰め寄るに違いない。 攻撃するならまだしも、人に守られるのも自尊心が許さない。
「ところで、入学式はなんで遅れたんだ?」
「聞いたところによると、まだ大事なご子息が一人来ていないらしい。」
「大事なご子息……」
どれだけ位の高い貴族の子供であれば、この多くの貴族の子供たちを待たせることができるのだろうか。 少しだけ興味はあるが、特に知りたいわけではない。 ただ静かに座って入学式を過ごせばいい。
「皆さん、静かに!」
今にも始まりそうな様子で壇上に誰かが登った。 紫色のローブを身にまとい、手にはワンドを持ち、カラスの仮面で顔を隠した女性。 静かになった学生たちの視線がすべて彼女に向かい、彼女はゆっくりと口を開いた。
「まもなく入学式が始まる予定ですので、すべての学生は席に着いてください。」
彼女の言葉に立っていた学生たちは一斉に椅子へと向かって座った。 そしてしばらくして、また別の紫色のローブを着た、白髪を長く垂らした老年の男性によって盛大な入学式が始まった。
入学式は思ったよりも簡単に終わった。 誰もが一度は経験する校長先生の訓示の後、新入生代表の宣誓。 もちろん宣誓は、いつ選ばれたのかも分からない貴族の子供がした。
入学式が終わった後はクラス分け……だと思っていたが、予想外の出来事が起こった。
「全員揃ってるな?」
頭にフードを被り、紫色のローブで体を覆った男性があくびをしながら眠たげな目で僕たちを見つめている。 今僕がいるのは学校の裏手。 30人ほどの子供たちの中に混ざっている。 一つだけ残念というべきか、幸いというべきか。 ガブリエルとは別々の場所にいるということだ。
「先生。」
「なんだ?」
「私たちはなぜここに……いるのでしょうか?」
「なぜここにいるかだと……」
先生は耳をほじりながら問い返した。
「なぜここにいると思う?」
子供は先生の前にある壇上を見てあごに手を当てた。 壇上にあるのは先生の頭よりも大きな玉一つ。
「属性検知をしようとしているのではないですか?」
一人の少女が前にいた子を押しのけながら前に歩み出た。 赤い髪を後ろに束ね、女性用の白いチュニックにベストとズボンを着た、まるで炎のように燃える情熱が感じられる少女。 彼女は腕を組み、居丈高に先生を見つめている。
少女の言葉を聞いた先生は腹を抱えて笑い出した。
「他の子たちはどう思う?これが正解だと思うか?」
誰も答えない。 二つに一つだろう。 勇気がないのか、それとも正解だと思っているのか。
「それじゃ、正解を明かす……前に、まず自己紹介をしようか。」
「もう知ってるから自己紹介は必要ないですよ。」
「もう僕の名前まで調べたのか?」
「ええ、いつも半分閉じた腐った目に、廃人みたいな顔。あなたがアレイラ・ベリスティンですよね?」
彼女の言葉に、先生が苦笑しながら彼女を見つめた。
「そうだ、当たりだ。じゃあ、俺もお前を当ててみよう。赤い髪に、その生意気な口調……セリマ伯爵家の次女、アリア・ド・セリマだな?」
「な、生意気だなんて……私に向かってそんなことを……。」
「生意気だと?お前の姉と話し方がそっくりじゃないか。いや、今ではお前の方がもっと生意気だな。」
アリアの顔が赤くなり、先生は私たちを見回しながら話し始めた。
「改めて自己紹介しよう。俺はお前たちに魔法の基礎を教える先生、アレイラ・ベリスティンだ。」
すべての事柄は基礎が最も重要だ。建物を建てることだって、基礎がしっかりしていなければ崩れてしまう。訓練も同じだ。身体がきちんと鍛えられていなければ、どんな武術や射撃術を学んでも無駄だ。つまり、このアレイラという先生は他のどの先生よりも重要だということだ。
「さっきアリアが言っていた通り、今から私たちは属性検知を行う。」
「属性検知ですか?」
「ああ、属性検知だ。アリア、説明してくれ。」
アリアは鼻で笑い、顔をそむけた。
「やれやれ、性格の悪さが根っから染みついているな。まあいい。」
先生は舌打ちをしながら話を続けた。
「属性検知というのは、お前たちの体内に流れるマナがどれだけあり、どの属性と相性が良いかを確認する作業だ。入学したら必ず行う作業だから、心配せずに俺の言う通りにすればいい。」
「はい!」
「じゃあ、前から一人ずつ前に出て来い。」
「私が先にやります。」
アリアが前に出てきた。
「前から順に出て来いって言っただろう。」
「どうせ全員やるじゃないですか?」
まるでハンマーで後頭部を殴られたように頭がくらくらする。私と同じように感じたのか、アレイラ先生は額を叩き、深いため息をついた。
「お前……なかなかの論理だな。いいさ、お前からやれ。」
アリアが球体の前に立つと、アレイラ先生が球体の上を指差した。
「球体の上に手を置け。」
アリアは緊張した表情でゆっくりと手を置いた。その瞬間、燃え上がるような赤い光が球体から放たれた。アレイラ先生はテーブルに置かれた紙に何かを書き込んだ。
「アリア・ド・セリマ。属性は火属性。マナ量は上。」
「やった!」
「やはり血は争えないな。次。」
アリアが笑顔で生徒たちの中に戻り、次の生徒が前に出た。
一人、一人と進むごとに、赤い光だけでなく青い光や緑の光、さらには白熱光のように明るい光を放つ者もいれば、黒い光を放つ者もいた。
そして。
「次だ。」
いよいよ私の番だ。果たして私にはどの属性があり、マナ量はどの程度なのだろうか。
「名前。」
「エドワード・エステルです。」
「エステル?」
「はい……。」
「そうか。」
アレイラ先生は他の生徒と異なり興味深そうに姿勢を正し、球体を見つめた。
「やってみろ、一度。」
我が家のことを知っているのか?それとも無名の家が学校に入学したからどんな奴か気になっているのか。
ごくり。
飲み込んだ唾が耳に響き、私はゆっくりと球体の上に手を置いた。
ブイイイイーン――
検知される音が鳴り、次に現れる光は……。
「あれ?」
なんだ、反応がないぞ?
「アハハハ!」
前で先生が腹を抱えて笑っている。
「やっぱり父に似たな!」
「ちょっと待ってください。これは何かの間違いで……。」
「エドワード・エステル。属性なし。マナ量。」
私を見つめながら小さく呟いた。
「ゼロ。」
「そ、そんな馬鹿な!」
これは普通じゃない。普通というのは、他の貴族の子供たちのように赤い光や青い光、黄色い光など、基本的な属性が現れることが普通だ。でもこれは普通どころか、まったくもって特別じゃないか!それも悪い意味で!
「もう一度……もう一度試させてください。」
「ああ、もう一度やってみろ。」
どうせ結果は同じだろうと思っているのか、アレイラは爪の汚れを取りながらやれという仕草をした。いいさ、笑うがいい。今度こそ光を出してやるから。
緊張で手から流れる汗をズボンで拭き取り、私は慎重にもう一度球体に手を置いた。
確かに間違いに違いない。 俺に属性も、マナもないなんて……。
ブイイイイーン――
またしても作動音が聞こえる。 そして、再び現れた光は……。
「ほら見ろ、俺がなんて言った?」
「くそ!」
そんなはずがない。 本当にマナがないのか?
「お前の父親も幼い頃はマナがなかったからな。息子のお前も同じだ。」
「父を知っているんですか?」
アレイラがうなずいた。
「ああ、知ってるさ。お前の父と魔法学校で一緒だったからな。」
「くそったれ!」
「おいおい、どけよ。次の奴が待ってるぞ。」
先生がどけと言わんばかりに手を振る。 俺は後ろへ歩き、自分の席に腰を下ろした。
「マナがないって……どういうことだよ。」
魔法はマナを使うものだ。 マナがないということは、マナを使って発動する魔法を使えないということだ。 つまり、俺がここで学校生活を続けることができないのではないかということだ。
「俺が……マナ無しだなんて……!」
これがどういうことだ……。 俺が……俺がマナ無しだなんて! あり得ない……こんなのあり得ないだろう!
「やっぱり男爵家の子供はそんなもんだよな。」
隣から笑い声が聞こえて、振り向くとそこに一人の子供がいた。 入学式で俺に最初に近づいてきたものの、男爵だとわかると無視して去って行った奴だ。 名前は確か……。
「トロールだったか?」
「トライドだ、この男爵家の野郎!」
「ああ、そうか。トライドだったな。」
来たのはトライドだけではなかった。 横には取り巻きが二人ついていて、腕を組みながら俺を見下ろしている。
「かわいそうにな〜?俺ならさっさと退学して、村みたいなところに帰って、父親と一緒に農業でもしてるだろうな〜」
人を煽るような口調で言ってくる。
「そんなに拳を握って、どうするつもりだ?」
俺が拳を握っているのを見て、奴はさらに嫌味を言ってくる。 今すぐ飛びかかって、父が教えてくれた暗殺の技で奴の顔面に一撃をお見舞いしたいところだが、そんなことをすれば、俺の家が終わってしまう。 奴は伯爵の息子で、俺は男爵の息子だからだ。
「勝手に言ってろよ。俺は別に構わないからな。」
「そうだよ、男爵の分際で身の程をわきまえるのがいいさ。」
無視しよう。 こんな奴に口答えしても、結局痛い目を見るのは俺の方だからな。
「おい、大丈夫か?」
壁際で学生たちが属性検知をしている様子を見ていた俺の隣に、一人の生徒がやってきた。 空色のショートヘアに丸い青い目、可愛らしい顔立ちの少年だった。
俺は誰だろうと思って無言で彼を見つめていると、彼はにっこりと笑いながら手を差し出してきた。
「ああ、自己紹介がまだだったね。俺はルアイズ子爵家の次男、ニル・ド・ルアイズだ。」
「俺はエステル男爵家の息子、エドワード・エステル。」
「これからよろしくな。」
子爵は伯爵よりは下だが、男爵よりは上の階級だ。
「さっきの奴の言葉は気にするなよ。マグマエル家は他の家にも無礼で有名だからさ。」
「別に気にしてないさ。事実だし、どうせ魔法を使えないと確定したら退学するつもりだから。」
ここは魔法を学ぶ学校だ。 魔法を使えないのなら学ぶ必要もないし、学ぶ必要がなければ出て行くだけだ。 これを説明すれば、父も納得してくれるだろう。
「マナ量は鍛錬すれば増えるんだ。マナがない人間が鍛錬すれば……よくは知らないけど、少しは増えるんじゃないか?」
「慰める必要はないさ。」
俺の言葉に、彼は少し寂しそうな顔をした。
「さて、属性検知をしていない人はいないな?」
「はい〜」
「じゃあ教室に戻ろう。」
アレイラの言葉に、生徒たちは一斉に教室の中へ戻っていった。
「はあ……」
マナがないとわかった以上、同じクラスのあのトライダーだかトライドだかいう奴が毎日のように俺に絡んでくるだろうし、魔法を学んでも使えるかどうかもわからない。 まだ入学したばかりなのに、先行きが早くも暗いな。
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