第192話:しばしの別れ

「リュウく~~~~ん。遊びにきたよ~~~~」

コンコン、コンコン。

「あれ?おかしいな。いつもならすぐ出てくれるのに。リュウく~~~~ん」

コンコン、コンコン。

コンコン、コンコン。


「リリー隊長。おそらく現在、リュウさん御一行は外出中なのです。諦めてまた明日出直しましょう」

「ほら、早くしないと勇者達が行ってしまうぞ、隊長」

と部下ちゃんとルイズに止められるものの、リリーは中々引かない。

「え~、でもここ数日会ってないからさぁ。お~い」

コンコン、コンコン。


すると、後ろから総支配人が現れた。

「リュウ様御一行であれば、昨晩ここを出られましたよ」


リリーはポカーンと口を開け、


「えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ」


情けない絶叫が宿屋に響き渡った。


「まさか別れの挨拶すらせずに行ってしまわれるとは……」

「なんというか、リュウらしいな」

「しくしく……リリーちゃん、ショック……」


◇◇◇


「───ということがあったんだよ‼もう、信じられない‼」

とリリーは勇者達に愚痴っていた。


「そもそもリュウにそういうのを期待しちゃダメですよ」

「明らかに感動的な別れの挨拶とかをしないタイプの人間よね、リュウさんは」

「わざわざ律儀に挨拶しに来たら、それはそれで驚きだよな。あははは」


「あっ‼ 勇者君達までそういうこと言う‼」

未だにぷんすか怒っているリリーを、部下が宥める。

「隊長。しかし我々の本来の任務は勇者様方の護衛ですから」

「それはそうだけどさぁ……」

「ほら、どーどー」

「私を馬みたいに扱わないで‼」

「正直今の状態の隊長はお馬さん以下ですよ。独り身だし」

「うわぁぁぁぁぁぁぁん」


武志は徐に呟いた。

「……とはいえ、最後に一度くらい顔を見たかったというのは事実なんだよな」

「ええ。最後に会ったのは四日前だし」

「リュウから学んだことは多い。彼がいなければ、僕達はまだ巨大地獣砂漠で燻っていたはずだ」

「その通りね。何も言わずに帰って行ったという事は、裏を返せば、これからは自分達で歩む道を決めろというメッセージなのかも」

「ああ。まずは魔王の動きを監視しつつ、ガルシア王国の内情をどうにかしなければ」


リリーは現在地面にぐったりと寝そべりながら涙を流している。

「ふぇぇぇぇ。リュウ君達とはもう一生会えないんだぁぁぁ」

そこへ勇者三人が来た。

「リリー隊長。もうリュウ達はいないので、次の計画を立てましょう」

「次の計画……?」

「ほら、リュウも言っていたじゃないですか」


『確かに魔王云々も大事だが、その前にお前等は自分達の国をどうにかした方がいいんじゃないか?』


「……と」

「………………」

「万が一魔王が大暴走して、我々では抑えきれないと判断した時は、リリー隊長が彼から渡された紙を開けばいいわけですし」

「……あの住所が書いてあるやつね」

「はい。最悪ピンチにならなくてもリュウの家に遊びに行っても大丈夫ですから。なんやかんやで彼は優しいので」


「そうだよね‼ 今度暇な時にみんなでリュウの家に遊びに行けばいいんだもんね‼」

「そうです。どうせなら西園寺さんと第一特殊部隊の皆も連れて行っちゃいましょう」

「いいね、それ‼ 絶対楽しいよ‼」


リリーは露骨に元気になった。


「よし、じゃあ今日もダンジョンに潜る前に、ダンマスに会いに行こうか‼ ほら、早くしないと置いて行っちゃうぞ~‼」

そのままスキップしながら巨大地獣砂漠ダンジョンの方へ。


「ナイスよ、武志」

「さすがはリーダーだぜ‼」

「今度から隊長のカウンセリングは武志様に任せましょうか」

「だな。毒を以て毒を制すとはまさにこのことだ」

「……今僕のことも毒扱いしました?」


リリー、部下ちゃん、ルイズ。

武志、天音、海斗。

彼女等六名とはしばらくの間、お別れである。


◇◇◇


リュウ一行は現在、雲の上。

アリスは翠龍に乗り。

それ以外は白銀龍の背に乗っていた。


……というのも。

「まさかそっちも俺等と同じ流れになっていたとは」

「こちらの方が驚きでござるよ。拙者とアリスはまだしも、お主等は急に話が進み過ぎでござる」


実はあの日、龍真もアリスと正式に婚約を交わしたため、龍の事実を打ち明けたのだ。


「一応スティングレイとの付き合いはレナの次に長いはずなんだけどな」

「しかし婚約は三番目と……」

「うちの銀髪女騎士は初心うぶなもんでな」

「どこかの夜行性ロリフとは大違いでござるなぁ」

森の賢者エルフと書き、淫魔サキュバスと読む」


「こらぁ‼ 聞こえておるぞ、クソたわけ龍共がッ‼」


ここでスティングレイが。

「そういえばリュウ様、本当にリリー隊長達に挨拶しなくてよかったんですか?」

「ああ。どうせまだ帰らないでくれと裾を掴まれるからな。一応住所の紙切れも渡してるし、これが最適解だ。あとは勇者達からも異世界の話はばっちり聞けたし、ぶっちゃけ連邦へはもう秒で行けるから、特に留まる必要もない」

「まぁレナ様とアリス様、エステル様の三名は一週間後には学園ですもんね~。いろいろ準備もあるだろうし、早めに帰った方がいいですよね。ダンマスも待っているでしょうし」


────その後。


レナはぶんぶんと手を振った。

「じゃあね~‼ アリスちゃん、龍真さん‼」

「またすぐに会えるのを楽しみにしておるのじゃ‼」

「さようなら~‼ また剣を教えてくださいね~‼」

「ギャウ」「ブルル」「……」プルン


アリスも手を振り返す。

「バイバイ、みんな。またすぐに会おうね」


「じゃあな、龍真。水晶の設置ミスるなよ」

「それは拙者のセリフでござるよ。誰かさんの魔力量は制御不能レベルでござるからなぁ」


二柱の龍は別れ、白銀はアードレン子爵領へ、翠はブラン伯爵領へ向かった。

各々まず本邸の地下にダンジョンを作り、その後首都の第二屋敷へ帰り、両者を直通させる算段である。



───龍の覇道の冒険は少しの間休憩だ。


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