第42話:辺境伯軍と合流

アードレン男爵家を出立したリュウは、現在グレイス辺境伯領との境にある、例の関所へ向かっていた。彼の隣にはスティングレイが、そのさらに後ろには合計百騎の騎兵が二列で隊列を組んでいる。騎兵とは、簡単に言えば馬に乗った騎士だ。これにより行軍の速さはなかなかのものである。


「いやぁ~、カッコよかったですね!先ほどのリュウ様は!」

「あの時は嘘をついてでも皆を励ます必要があった」


今回は前回のような領同士の争いとは違い、数万の兵がぶつかり合う、国同士の戦争だ。そのためリュウの家族や騎士の親族等はずっと浮かない表情をしていた。たったのひとことで、そんな皆に希望の光を差したリュウはさすがとしか言いようがない。


「それでも、ですよ!皆リュウ様に惚れちゃったんじゃないですか?」

「それはお前な。自分の顔面見たことあるか?」

「?」

「相変わらず鈍感だな」

「そ、そんな鈍感とかじゃないですし」

「はぁ……」

「溜息吐かないでください!」


アードレン軍は副団長の下に大隊長という役職がある。大隊長はその名の通り、大隊の長であり、一人につき一つずつ大隊を管轄している。マンテスターとの戦の際、一名の大隊長が命を落としてしまった。その後任として大抜擢されたのが、このスティングレイである。新参者が任命されれば下の者から文句が挙がりそうだが、そもそもスティングレイは小さな頃から父シルバと共に軍の訓練に参加しており、当時からアイドル的存在だったため、その決定は快く受け入れられた。


今回戦争に赴くのはスティングレイ大隊所属騎兵、計百名である。

(スティングレイ隊長は本日もお美しい)

(隊長と仲が良いリュウ様が羨ましいぜ)

(私も彼女の隣を走りたい……)

(隊長にめっちゃ叱られたい)


「そろそろ関所に到着するわ。他の者の迷惑にならないよう、くれぐれも隊列を乱さないでね」

「「「「「はっ♡」」」」」


「統率はばっちりだな。さすが大隊長」

「幼少期から父の背を見ていたので」

「スティングレイの努力のおかげでもある」

「やっぱリュウ様に褒めてもらうと嬉しいですね~」


「あと今回、リュウ様はどんな役職を与えられるんですかね?」

「わからん。だがグレイス候は副官がどうのとか言っていたから、そこそこの職を押し付けられそうだな」

「え、実質ナンバー2じゃないですか‼やりましたね‼」

「嫌だよ、面倒くさい。仕事が増えるだけだ」

「でも活躍すれば陞爵されるかもしれませんよ!」

「アードレン子爵か、悪くない」


(ふ、副官⁉)

(伯爵級の職じゃないか!)

(さすがは我らがリュウ様だ)


副官御一行は関所に到着し、人数が多いためそれなりに時間が掛かると思いきや、ほぼ顔パスで辺境伯領に入ることができた。

「なんかすごい対応が良かったですね」

「確かに」

(今までもグレイス衛兵の態度は礼儀正しかったが、今回はいつもより著しくへりくだっていた。俺自身がどうのというよりは、シンプルにグレイスとアードレンが密接な関係を築いた事が影響しているのだろうな)


それだけグレイスも港町建造計画に本腰を入れているという証拠の表れだ。


いつも通り小麦の黄金畑が彼等を迎えた。

「収穫時期なのにまだ輝いてますね!」

「港町にリソースを割いた分、こちらが若干遅れているのかもしれん。悪い事をした。あとでグレイス候に謝らなければ」

「ですね。収穫が遅れれば遅れるほど、麦の品質は下がっていくわけですから。でもどちらかと言えば戦争のせいなのでは?」

「そこら辺を詳しく尋ねてみるか。今後うちにも関わっていく問題だからな」


前回グレイス辺境伯が帝城からの出軍要請を断ったのは、こういうことが起きる可能性を考慮してのことだろう。


そして、午後のうちに辺境伯領の第一都市に着いた。

都市の中は普段よりも騒がしく、心なしか住民達の表情も険しいような気がした。

大きな屋敷を目印に、通りを進めば……。


「うわぁ、すごい数ですね」

「空気が殺伐としている。これが本物の戦争か」

「緊張してきました……」

兵士等はあれだけ広い辺境伯家の敷地内に収まりきらなかったのか、表の通りにもビッシリと隊列が組まれ、出軍を今か今かと待っていた。



門番がリュウの存在に気が付いた。

「アードレン男爵様、お待ちしておりました。ぜひ敷地の中にお入り下さい。最奥で閣下が待機されておりますので」

「承知した」


ここからは軍の間に形成された狭い道を通ることになるので、リュウ達は一列となり、歩みを進めた。こちらは全員騎兵なのでかなり目立っている。

(あれが例のアードレン男爵か)

(想像以上に若いな)

(百騎……?何かの冗談か?)


「見えた」

最奥には、リュウ同様に招集された貴族家の当主等と、その中でもひと際すさまじい覇気を発している辺境伯の姿が。

(辺境伯も戦争モードに入ったのか。前回とは全くの別人のようだ)


「グレイス候、遅れて申し訳ございません。リュウ・アードレン、只今到着致しました」

「ははっ。ここの皆がせっかちなだけだから、全然気にしなくてもいいよ。そんな事より、君をずっと待っていたよ、リュウ君……」




「いや、ここではアードレン“参謀長”と呼んだ方が良いかな?」



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