第38話:現場監督

港町建造計画は順調に進んでおり、現在森を三割ほど切り開いたところだ。五割に達した時点でグレイス騎士団と合流し、護衛に協力してもらう予定なので、これから大急ぎで駐屯地を造らなければならない。夜は魔物が活性化するため一時退避する必要があるのだが、その際にグレイス騎士団が宿泊する施設がまだ無いのだ。


グレイス騎士団はここら一帯では最強格な上、あの辺境伯家所属なため、今後の関係も考慮すれば、やはり丁重にもてなすべきであろう。そのため駐屯地もそこそこのモノを造るつもりだ。計画が無事終了した暁には、そこをアードレン騎士団のサブ基地にするなり、改良を加え宿屋にするなり、やりようはいくらでもある。要するに施設自体は無駄にはならないため、思う存分資金を投入しても良いということだ。


リュウの財布には再び大寒波が到来することだろう。


その日は珍しく午前中に書類仕事が片付いたため、リュウは暇つぶしにレナの様子を見に行こうかと、屋敷内をダラダラと歩いていた。すると使用人が忙しなく玄関を出入りしていることに気が付いた。


「何かあったのか?」

「リュ、リュウ様!?昼間からバタバタと音を立ててしまい申し訳ございません!」

「気にするな」

「実はですね……」


使用人曰く、本日の正午過ぎから駐屯地の建築に取り掛かる予定なのだが、現場を監督するはずだった人物が急遽体調を崩してしまい、現在急ぎで代わりの人材を探している最中なのだとか。


「じゃあ俺が向かおう」

「リュウ様に押し付けるわけにはいきません!」

「いいんだ。午後は暇だから」

「ですが、当主様ご本人が向かわれるというのは、さすがに……」


今回建設に携わるのは職人だけではない。そのサポートとして、先日の戦争で職を無くした元マンテスター民達を手配したのだ。彼等の中には、身内をアードレン騎士団に討たれたという者も少なくない。そのため、戦争を指揮したアードレン男爵本人が監督するとなれば、何が起こるかわからない。最悪の場合、暴徒と化した民に襲われてしまう可能性だってある。使用人はそれを危惧しているのだ。


「俺なら大丈夫だから安心しろ」

「しかし……」

「ほら、いいから設計図を渡せ」

リュウは使用人から無理矢理設計図をぶん取った。


「リュウ様。くれぐれも御注意を」

「わかった、あとは任せろ。お前も午後の仕事頑張れよ」

「はっ!承知いたしました」



正午を過ぎた頃、リュウは徒歩で件の現場へ向かっていた。すると……

「あれ、リュウ様じゃないですか」

「おお、ディラン。こんなところで何してるんだ?」

「それはこっちのセリフですよ……また護衛も連れずに一人でブラブラ出歩いて……」


ディランの話によれば、先ほどアードレン騎士団の基地に使用人が現れ、大至急駐屯地の護衛を増援するよう要請したらしい。それもできるだけ実力の高い者を向かわせろ、とのこと。


「で、副団長自ら来てくれたってわけか」

「はい。シルバ団長は木を伐りに行ってて不在なので、とりあえず俺が出てきました。弟子のミミも森側に行っちゃったので、その分暇なんですよね」

「俺も暇つぶしに現場監督をやることにした」

「あ~、だから使用人が大慌てで基地に飛び込んできたんですね。納得です」

(やっぱ慕われてるんですね、リュウ様は)


その調子で歩みを進めること約三十分。ようやく件の現場が視界に入った。現場監督は急遽変更されたので、まだ職人たちはリュウが来ることを知らない。

そのため……。


「リュウ様だ」

「なぜここに領主様が?」

「もしかしてリュウ様が現場監督を?」

「馬鹿野郎。男爵様にこんな泥臭い仕事させるわけにはいかんだろうが」


リュウはその様子を見て、

「今日は俺が臨時で現場監督を引き受けることになった。よろしく頼む」


「マジかよ」

「腕が鳴るぜ!」

「戦争で勝ってくれた分、俺達も恩返ししねぇとな!」

「あ、戦争と言えば……」

職人等は振り返り、自分たちの後ろに控えている元マンテスター民達に視線を移した。


すると案の定、

「あれがアードレン男爵……‼」

「私達が参加することを知っていながら、よくもノコノコと……!」

「俺の親父は戦争で殺されたんだぞ!」

「息子を返せ‼」

顔を真っ赤に憤慨していた。


リュウは一歩踏み出し、彼等との距離を縮める。


そして。

「その件については申し訳なく思っている。アードレンの当主として謝罪させてもらおう。すまなかった……」

と言い、頭をゆっくりと下げていく。






だが途中でピタリと止まり、再び顔を上げた。

「……と言うとでも思ったか?」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る