第37話:計画は順調に

リュウはグレイス辺境伯との面会後、直ちにアードレンに戻り、港町建造計画の準備を進めた。アードレン男爵家の者達は事前に計画の全容を聞いていたため、動き出しはかなり早かった。以前説明したが基本的に貴族家の使用人という職業は花形であり、領民の中から選抜されたエリート集団なので、リュウが上から指示を出すだけで計画はどんどん進行していく。現在領地改革の真っ最中だということもあって、皆の腕は温まっているため、進行に拍車がかかることだろう。


辺境伯はこの時期小麦を帝国中へ出荷しなければならないので、日々時間に追われており、それに加え商人ギルドを通じ、今後農産物を取引する同盟国を探して契約まで持っていく必要があるため、余計多忙となるだろう。まだ港町どころか森すら切り開けていない段階なのだが、なぜか本人はノリノリである。その理由は……。


「なんかリュウ君がいれば絶対に成功する気がするんだよねぇ」

(女皇陛下が協力の意を示してくれたことも大きいけど、リュウ君が関わっている時の安心感はそれ以上に大きい。普通は逆だろうに。何なんだろうね、この不思議な感覚は。もしかして龍神様の加護でもついたのかな?リュウだけに)


「お父様、リュウ君って誰ですか?」

「おや、その透き通った声は……」

辺境伯が振り返ると、そこには美しい少女が立っていた。


この美少女の名はフローラ・グレイス。グレイス辺境伯家の次女である。

今年十四歳になる彼女は、現在帝立学園の二年生であり、普段は首都ウィールの屋敷に住んでいるのだが、ちょうど冬休みに入ったため一時的に帰郷したのだ。


「僕の可愛い可愛いフローラじゃないか!久しぶりだね、会えてうれしいよ」

久々の親子の再会を記念し、腕を大きく広げ、娘が飛び込んでくるのを待つが……。

「……」「……」

いつになっても娘は動かない。


「あの……私もうそういう年じゃないので……」

「でもたまにはさ。親子で感動の抱擁とかしたいでしょ?」

「全然したくないです」

「えぇぇぇ」

辺境伯は膝から崩れ落ちた。


そんな父をそっちのけに、フローラは話を戻す。

「お父様。さっき言っていたリュウ君って一体何者なのですか?」

「リュウ君の正式名称はリュウ・アードレン。アードレン男爵家の現当主だよ」

「アードレン……?マンテスター男爵家を返り討ちにした、あのアードレンですか?」

「そうそう、そのアードレン。今学園から帰ってきたばかりなのによく知ってるね」


「件の戦争は学園でもかなり話題になりましたから。超劣勢なはずのアードレンが、なぜかマンテスター相手に完勝を収めたので、それはもう大盛り上がりでしたよ」

「だろうねぇ。あ、そういえばリュウ君はフローラと同い年だよ」

「えっ、本当ですか?」

「本当本当」


「そんな素晴らしい能力を持っているにもかかわらず、なぜ学園に入学しなかったのでしょう?」

「う~ん、どうしてだろうね。直接聞いたわけではないから、はっきりとはわからないけど……学園に入学したところで、特に学べる事が無いからじゃないかなぁ」


「学べる事が無い……?帝立学園はアストリア帝国最高峰の教育機関ですよ?」

「シンプルに頭が良いんだよね、あの子。僕なんかよりもよっぽど博識だし、頭の回転も早いんだ。思わず溜息が出ちゃうくらいに」

「十四歳の彼が、元帝立学園首席のお父様よりも博識って……さすがに冗談ですよね?」

「嘘じゃないよ。僕は嘘つきが世界で一番嫌いだということは、フローラもよく知ってるでしょ?」

「は、はい」


「あとこれはただの勘なんだけど……」

「?」

「たぶんリュウ君はね、めちゃくちゃ強いよ。あの戦争に関していろんな噂が囁かれているけど、僕はリュウ君が自ら戦ってもぎ取った勝利だと思ってる」

「……」

フローラはゴクリと生唾を呑んだ。


辺境伯は窓際まで歩き、眼下に広がる黄金畑を眺めた。

(会話の途中、彼が一瞬だけ見せたあの鋭い目。あれは完全に武人そっち側の人間が見せるそれだった。いつも意図的に隠し、素人を装っているんだろうけど、僕は騙されないよ……リュウ君)


「うん。やっぱり戦争に誘ってよかった」

「もしかしてリュウさんを、ですか?」

「もちろん」

「十四歳の子を戦争に連れて行くなんて……お父様最低です!」

「え"っ⁉」



その頃、アードレンの南西側にある森の入り口では、凄腕狩人集団とアードレン騎士団が待ち合わせをしていた。狩人達はすでに到着しており、現在騎士等を待っているところである。


そしてようやく騎士団が到着。

シルバはすぐに下馬し、狩人集団に挨拶をしに行った。

「遅れてすまない。木を切り倒す用の斧が想像以上に重く、運送に手間取ってしまった」


すると集団の中から、これまた気怠げな様子の村長が出てきた。


「……また貴方ですか」「……また貴殿か」

そう。この二人はアードレン前当主死亡事件の際に一度顔を合わせているのだ。特に確執があるわけではないが、両者ともなんとなく馬が合わないような気がしているだけである。


そんな微妙な空気の中で、一人だけ明るい光を発している存在がいた。

「あれが本物の狩人さんですか‼かっこ良いですね‼」

「おい、ミミ。少しは空気を読まんか」

「いいじゃないですか~。だって私にとって憧れの存在なんですよ、狩人さんは‼」

ミミは周囲の静止を無視し、目をキラキラと輝かせる。


村長はシルバに問う。

「シルバ団長、あの子は?」

「あの子はミミという名の見習い騎士だ。リュウ様から直々に、貴殿に預けるよう仰せつかった。計画が終わるまでの数ヵ月間、彼女を頼めるだろうか」

「あのリュウ様が……へぇ……」

(リュウ君の事だから、きっと普通の見習いじゃないんだろうね。面白い)


「もちろん引き受けさせてもらいますよ」

「恩に着る」

「では早速森を切り開いていきましょうか。ルートはもう決まってるんで」

「相分かった」

ついに港町建造計画が始まった。



はたまたその頃、アードレン男爵家の屋敷では。

「もう少しで受験だな」

「はい‼十位以内に入れるように頑張ります‼」

「さすがはレナだ。何事においても志を高く持つことは大事だからな、その調子で頑張ろう」


リュウはスタイリッシュかつ優しく、レナの頭をナデナデした。


「あれ~?なんかいつもより心地良いような気がする~」

「きっと、レナが今日勉強を頑張ったからだ」ナデリコナデリコ

「えへへへ」


日々の頭撫で撫で練習の成果をしっかりと出していくシスコン兄であった。

(くっくっく……練習した甲斐があったな)

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