第35話:港町建造計画
「うちと協力して、そこに貿易用の港町作りませんか?」
「貿易用の……港町???」
(以前までの二領間の関係性であれば不可能だったけど、確かに今なら複数の条件さえクリアすれば可能な計画だね。でも……)
「その条件が重すぎますよね」
「心を読むのやめてほしいんだけど……」
「心というより、顔に書いてありましたよ」
「屁理屈もやめなさい」
グレイス辺境伯はコホンと咳をし、流れをリセット。
「まず、どうやって森を切り開くつもりだい?」
「実はアードレンには、森に精通した凄腕の狩人集団がいるんです。その人たちに聞いてみたところ、あの森は危険な場所とそうでない場所に分かれていて、後者を縫うように進めば割と安全に街道を敷けるらしいです。もちろん、魔物が活性化する夜間は一時退避する必要がありますけど」
「ほほう。本当にそれが可能だとして、港町の建造に着手したとする。グレイスの技術力なら港くらいなら造れると思うけど、肝心の輸送船はどうするつもりだい?うちはそんな職人抱えてないし、アードレンも同じでしょ?」
「女皇にその旨を具申すれば、きっと協力してくれると思いますよ」
「……その根拠は?」
(あの女皇を頼ろうだなんて、考えたこともなかった。大した度胸だねぇ、今代のアードレン男爵は。こんな逸材、今まで一体どこに隠れていたんだか……)
「帝国貴族の上納金は割合型ですから、辺境伯家の収入増加は、それすなわち皇族の財布が潤うことと同義です。さらに女皇は、現在の情勢を踏まえ、同盟国が他の列強に寝返らないような新たな鎖を求めている筈。小麦は大陸の主食ですから、うちに依存させてしまえば後々安心ですよね」
「なるほど……君の頭脳は想像以上だね……」
「いえいえ。女皇に協力してもらうのは、職人の手配と建築材料の購入先を確保してもらうこと。あとは街道に設置する魔物除け魔導具の製造依頼くらいですから。そもそも先ほど挙げた皇族側の利益がなくとも、グレイス候の頼みとあらば普通に手を貸してくれると思いますよ。なにせ貴方は、帝国の食料庫の最高責任者なのだから」
「なんというか、君は本当に……」
その後二人で話し合い、その他諸々の条件やら何やらを、細かい部分まで綿密に確認した。
「小麦以外には何を輸出しようか」
「まずは保存性の高い農産物。それ以外は後々決めましょう。どの程度の輸送船を造れるのかによって、変わってきますから」
「労働力はどうする?」
「戦争で職を失った領民が結構いるので、その人たちを動員しようかと」
「森を切り開く際の護衛は?」
「両騎士団で協力しましょう。良い訓練にもなるでしょうし。もちろん駐屯地についてはアードレンに任せてください」
正午になったので、休憩がてら食事をしつつ続けた。
「いやぁ~、こんなに有意義な日は何年振りだろうね」
「同じくです」
「そういえばこの間、リュウ君が首都に向かったという情報が衛兵から挙がってきたけど、何をしに行ったんだい?」
ここでリュウの眉が少しだけ動いた。
(よし、その質問を待ってた)
「実は母が難病にかかってしまったので、エリクサーを購入しに行ってました」
「母のために、当主自ら首都に……戦後処理と並行しつつ、大変だったでしょ?」
「正直大変でしたけど、決して苦ではなかったので」
「君は良い子だねぇ……」
これで辺境伯の心を完全に掴んだと言っても過言ではない。
また、これから女皇に具申の書簡をしたためることになり、文面にリュウの名も記されるわけだが、リュウがグレイスと協定を結んだということは、“つまりそういうこと”なので、女皇は快く承認の印を押してくれることだろう。
「あ、グレイス候、一応聞いておきたいことが」
「なんだい?」
「勇者の件はご存じですよね?」
「うん、もちろん」
「もし出軍命令が出されたらどうします?」
「う~ん、できれば参加したくないかなぁ。前回のも断ったし」
「でも万が一計画の途中に戦争が始まり、その際女皇からの命を断れば、かなりの確率で計画は中止されるのでは?」
「確かに。最悪すべてがパァになっちゃうね」
「グレイスの大平原で育った軍馬は精強で、もちろんそれに跨るグレイス騎士団も大陸屈指の実力を持っている。勇者も召喚されたばかりでまだ育成途中でしょうし、敵軍として参加することは無い。なので堂々と臨めばいいと思いますよ」
「それはそうなんだけどさぁ。あ、いいこと思いついた」
辺境伯はニヤリと口角を上げた。
「リュウ君が副官として一緒に戦ってくれるなら戦争に参加してもいいかな。君、
「……はい?」
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