第31話:天賦の才

ミミをディランに押し付けてから、約一ヵ月が経過した。

その間、ミミはアードレン騎士団の女子寮で生活していたため、リュウとは一度も顔を合わせていない。


リュウは今日、久しぶりにミミ達の様子を見に訓練場へとやってきた。と言っても、特段聞きたいことがあるわけでもないので、現在訓練場の端の物陰から、彼女達の訓練をそっと見守っている。

「……」


「ミミ、もっと姿勢を低く!相手のバランスを崩す感じで!」

「はい‼」

ミミはディランと剣戟を行っており、その手には面白い形状の剣が握られていた。


(ほう、ククリ刀か。これまた珍しい武器を使ってるもんだ)

ククリ刀とは主に砂漠の民が使用している、扱いの難しい片手剣の一種である。それを彼女は両手で持ち、双剣として使っている。この時点で何らかの才能を感じるわけだが、それはひとまず置いておこう。


「ミミ。次は俺を殺すつもりでかかってこい」

「殺すつもり……?」

ミミの雰囲気が変わった。

ディランは不敵に笑う。

(そう。その眼だ。いいぞ、ミミ)

そのまま剣戟が再開した。


「シィッ‼」

ミミは凄まじい連撃をディランに浴びせる。

「くっ!いいぞ、その調子だ!ボスを思い出すよ‼」

だが副団長を崩すのには、まだ到底足りない。


ちなみにボスというのは、ディランが幼い頃に所属していた裏組織のボスのことで、その人物はミミと同様魔力を持っていなかったらしい。ディラン曰く、性格はミミと違って最悪だったものの腕だけは確かだった、と。


(すごい成長スピードだな。まだ訓練を受けて一ヵ月しか経っていないのにもかかわらず、軍で言うところの上等兵くらいの戦闘技術を身に付けている。よく子供は呑み込みが早いとは言われるが、そういう次元じゃない。ミミは天賦の才を持ち合わせているのかもしれんな。将来が楽しみだ)


十二歳のミミに対しリュウは十四歳なので、実は二歳しか離れていない。その割には達観しているが、逆に考えればリュウにもまだまだ伸びしろがあるということなので、それはそれで良しとしよう。


その調子で物陰から見守っていると、背後から声を掛けられた。

「あの~、そこで何をしているんですか?リュウ様」

「スティングレイか。久しぶりだな」

「はい。お久しぶりです……じゃなくて!」

「なんだ、どうかしたのか?」

「怪しすぎますって、さすがに」


スティングレイと再会したので、ミミについて少し尋ねてみると。

「ミミちゃん本当に良い子なんですよ〜。女子寮では半ばアイドル扱いされてます」

「だろうな。猫耳だし、尻尾も生えてるし」

「そんな可愛らしい子が、あんな殺気を纏うなんて考えられませんよ」

「俺もそう思う」


「纏うと言えば、風魔法の“纏い”に関してはどうだ?」

「それが全然できなくて、習得まであと一年は掛かりそうです……」

「Aランク冒険者曰く、纏いができるのはAランクでも上位の猛者達だけらしいからな。焦らなくていいと思うぞ。スティングレイは現時点でも、騎士団内で指折りの実力者なんだし」

「そう言ってもらえると助かります」


しばし会話した後、急にスティングレイは背筋を伸ばし、手を後ろで組んだ。

そしてリュウから目線を外し、照れくさそうに……。

「そういえばリュウ様。そろそろランチの時間ですね」

「確かに腹減ってきたな」

「……一緒にランチでもいかがですか?」

「あー、すまん。この後早急に屋敷まで帰り、レナに魔法を教えなければならないんだ。妹を待たせるわけにはいかん」

「そ、そうですか……残念です……」


二人は一ヵ月以上共に旅をしたので、軽く百回くらいは一緒に食事をしているのだが、スティングレイにとって任務外のランチというのは、それとはまた別で、他の楽しみがあるのかもしれない。


「じゃあまた今度行くか、飯」

「えっ」

その後、リュウはスティングレイと別れ、急ぎ足で屋敷の方へ去って行った。



屋敷にて。

「お兄様。この魔法がなかなか成功しなくて……」

水操スイソウか。この魔法は少し特殊でな。回数を重ねていくごとに成功確率が上がるという性質を持った面倒な魔法なんだ。だから風呂に入ってる時にでものんびり練習してくれればいい」


「え、一緒にお風呂に入ってくれるってことですか⁉」

「違う違う」

「私なんかとは一緒に入りたくない、と……」

レナはわざとらしく俯いた。

「そんなわけないだろう。入りたいのはやまやまで……」


と、その時。

コンコン。

「リュウ様。いらっしゃいますか」

セバスの声が聞こえた。

「おう。入っていいぞ」

「失礼します」

ガチャリ。


「勉強の邪魔をしてしまったようですね。申し訳ございません、御二方」

「気にするな」「大丈夫だよ~」


「で、どうかしたのか?セバス」

「はい。それが先ほど……」

セバスは一息置いた。




「女皇陛下から封書が届きました」

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