第23話:二人の評価

エリクサー受取り当日。

リュウとスティングレイは件の薬師を訪ねるため、一般人の住んでいるエリアに向かっていた。


「いや~、それにしても昨日はすごかったですね~」

「女皇だけでなく帝国魔術師も同時にお目にかかれることなんて、まず無いもんな。あの一連のやり取りを見て、スティングレイはどう思った?」

「イリス陛下が想像よりも優しい御方だと思いました。リュウ様が若干崩れた口調で話しても、陛下は特に怒ったりはしなかったので」

「昨夜はそんな感じだったが、普段は鬼より厳しいと思うぞ。昨日はたぶん俺を勧誘する目的で接近してきたから親しい態度を取ってくれただけで」

「勧誘……?何に勧誘しようと思ってたんですか?陛下は」

「もし俺の戦闘力が優れていたら、帝国魔術師にでも誘うつもりだったんだと思う」


「魔術師!!!絶海さんみたいに!!!」

「そうだ。昨日は危うく絶海さんの同僚になるところだったわけだ」


ここで一般エリアに着いたので地図を開き、薬師の住居がある方角に進む。

首都ウィールの家屋には白い石材が多く使われているため、非常に景観が良い。


「逆にリュウ様はどう思われました?」

「野心に溢れた怖い人だな、と」

「え、野心?何に対しての野心ですか?」

「わからん」

「えぇ……」

「しいて言うならば、この世界で女皇にしか成し得ない事、それも歴史を大きく動かすような何かを密かに企んでるんじゃないか?」


「じゃあ昨日の出来事もその一環だったのかもしれませんね」

「ああ。もしももっと長く会話していたら、文官コースまっしぐらだったかもしれん。あのタイミングで退席して本当によかった」

「あの陛下の勧誘を断れる人なんて、今の帝国には存在しませんからね~」

「その通り」


「でも万が一大臣に誘われたりしたら大金星じゃないですか」

「なわけあるか。記念として首都内に使用人付きの大豪邸とかを贈呈されてしまうぞ」

「それは最高なのでは?」

「百人規模の使用人兼皇族のスパイがアードレンに入り込むことになるわけだが、それでもいいのか?」

「あ」


先ほどの勧誘と同じく、皇帝からのプレゼントを拒否できる貴族など存在しない。他国の王族ですら困難な業だろう。また首都の豪邸を維持するには、最低でも百人以上の使用人が必要なので、それらを養うためにも半強制的に大臣を続けなければならない。


「百人のスパイを養うために、一生大臣の座に縛られることになる……考えただけでも恐ろしい」

「せっかく与えられた彼等を解雇するなんて不敬なことできませんからね」

「しかも陛下の事だから、どうせスパイをギリギリ養える程度の賃金しか出さないはず」

「本当に縛る気満々じゃないですか。やっぱ怖いです……女皇陛下……」


二人とも他人事のように語っているが、皇帝に飯を奢らせるのも十分不敬である。あの場にそれを広めるような輩がいなかったのは、非常に幸運であった。さすがは女皇のお墨付きレストランだと言えよう。


「絶海さんもすごかったですよね」

「まさに帝国魔術師といったような軍人だった。ああいうのを何人も抱えているうちは、帝国は安泰だろうな」

「そういえばどうやって魔術師だと見抜いたんですか?」

「魔力の質が他とは段違いだったんだ」


リュウは昨晩、絶海の魔術師と相対した時の事を鮮明に思い浮かべる。


「魔力の質ですか?」

「ああ。まず魔力を完全に抑えられる人間などこの世には存在しない。あの帝国魔術師でさえ無理な芸当だ。要するにあの時俺は、絶海が発する微弱な魔力を感知したわけだが、その質が半端なかったんだ。まさに芸術品のような魔力だった」

「な、なるほど」


あまりパッと来ていない様子のスティングレイを見て、リュウは説明を続ける。


「他の言葉でわかりやすく例えるのならば……一般人の魔力が泥水で、魔法使いの魔力が川の水だとしよう」

「ふむふむ」

「その場合、絶海の魔力は湧き水に当たる。大地で浄化され美しく透き通った湧き水。誰もが惚れ惚れするような洗練された魔力」


「要するに、すごいってことですね」

「そうだ。めちゃめちゃすごいんだ」


女皇も絶海もめちゃくちゃすごい事がわかったところで、ちょうど目的地に到着した。


「ここが件の薬師さんのお家ですか……」

「なんというか、こう……もっと研究所チックな見た目を想像していたんだが」


二人の前には、ところどころにヒビが入り大量の蔦に覆われた、ボロ屋という名がふさわしいような建物がたっていた。



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