第16話:レナと魔法書
戦後処理も順調に進み、アードレン男爵家には久々の平穏が訪れていた。本日リュウは朝からレナに付きっきりで魔法を教えている。二人が覗き込んでいる魔法書は過去にリュウが編集したモノなので、多少の癖はあるものの、非常にわかりやすい内容となっている。
レナが現在開いているページには、いくつかの基礎魔法が並んでいた。
「私この魔法が気になります」
「
“
「でもお兄様。以前私が騎士団の訓練を見学した時は、皆始めに詠唱していましたよ?」
「いい点に着目したな。実は今読んでいる魔法書は上級者向けなんだ」
「上級者向け……?上級者は皆無詠唱で魔法を使うんですか?」
「その通り。実際Aランク冒険者も魔法を無詠唱で扱っていた」
レナは首を傾げた。
(なんで上級者向けの魔法書なんだろう。私はまだ初心者なのに)
「と言っても疑問が残るだろうから、今レナが考えていることについて、詳しく説明しよう」
リュウはコホンと咳払いした。
「現在帝国に出回っている魔法書の大半が、“魔力の少ない初級者向け”に書かれている物なんだ。それは逆に言えば、魔力の多い上級者には非効率的ということ。レナはそもそも保有魔力量が多い上に、きちんと基礎知識を持っている。さらには騎士団の見学などを頻繁に経験したことで、なんとなく魔法のイメージも沸くだろう?」
「はい」
「ここだけの話、数回実物を見ただけで魔法のイメージが沸くということは、それすなわち魔法の才能が抜群にある、ということなんだ」
「は、はい」
「あとはもう、言わなくてもわかるな?」
「私にはこの上級者向けの魔法書が最適だということですね」
「ああ、間違いなく。一つ懸念点を挙げるとすれば、教師役の俺が教え下手ということぐらいだな」
「リュウお兄様は教え下手なんかじゃありません!!!最高の教師ですよっ!!!」
「レナは優しいな。ありがとう」
「むぅ……」
(お世辞じゃないのに)
ここでレナは、ごもっともなことを問う。
「でもせめて中級者向けの魔法書でいいのでは、とも思うのですが……」
「ダメだ。レナは将来偉大な魔法使いになるのだから、“コレ”から始めるべきだ。初心者~中級者用の魔法書で学び、変な癖が付いたらどうする」
「でも……」
(お兄様結構スパルタなのね。ちょっと意外かも)
「俺が手取り足取り教えるから安心してくれ。こう見えて俺は三桁の魔法書を読み漁った本の虫だからな」
「手取り足取り……本当ですか?」
「本当だ。アードレンの名に誓おう」
「ではこの魔法書で学びます!」
勉強会を再開し、約一時間が経過。
(指先に魔力を溜めて……
レナの人差し指の先に、小さく明るい炎が生まれた。
「成功しました!やったー!」
「よし、よくやったぞ。完璧だ。さすがは我が妹。将来は帝国魔術師に名を連ねるに違いない。この調子で頑張ろうな」
「もう、褒め過ぎですよ!でも嬉しい!」
勉強の後は二人で茶を嗜んだ。
「お兄様が一番得意な魔法って雷属性でしたよね?」
「そうだ。よく知ってるな」
「確かこの前座学を学んでいる時、何かの教科書に雷はトップクラスに難しく扱いにくい魔法だと書いてあった気がします。なのにどうして学ぼうと思ったのですか?」
「なんとなくカッコいいと思ったからだ」
「えぇ……」
(リュウお兄様もしっかり男の子なんだね。萌える)
それから数日後、ついにリュウが首都へ出発する日がやってきた。
本来リュウは一人で向かう予定だった。その方が目立たない上に、時間も金も節約できるからだ。しかしそれを聞いたシルバが「さすがにリュウ様を一人で旅させるわけにはいきません。常識的にも、面目的にも」と言い出し、結局一人だけ護衛を付けることとなった。
現在リュウは旅の荷物を片手に、庭で護衛の人物を待っているところだ。
「……」
今回はアイテムバッグと呼ばれる、空間拡張魔法が付与された高級革袋を持っていく。ちなみにこれは前当主が手に入れた魔道具だ。“あの父の所有物”ということで、若干のいわく付きだが、リュウは使える物は全て使う主義なのである。
すると、シルバが一人の女性騎士を連れてきた。
「遅くなって申し訳ありません」
「気にするな」
女性騎士は華麗に腰を曲げ、
「私が今回リュウ様の護衛を務めさせていただく、スティングレイでございます。以後よろしくお願いいたします」
「俺はリュウ・アードレンだ。お前の親父さんにはいつも世話になっている。こちらこそよろしく頼む」
今リュウが言ったように、実は彼女はシルバの一人娘なのである。最近までは騎士修行のため帝国中を旅していたのだが、例の戦争を機にアードレンに戻り、騎士団と共に矛を振るった。
その後シルバの推薦でアードレン騎士団に入団し、旅の経験が豊富ということで今回リュウの護衛を務めることになったのだ。
そのためリュウと彼女は初対面である。
(ふーん。この男が噂の新当主なのね)
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