第14話:マンテスター戦④

落雷したことで戦場全体が紫電に支配された。

ここはもう、先ほどとは全くの別世界。


リーダーの頬に冷や汗が垂れる。

「てめぇ……マジで何者だ?」

「お前の知っている通りだが」

「嘘つけ。まるで人の形をした怪物と戦ってるみてぇな感覚なんだよ。特にその雰囲気……昔、偶然遠目に見た“龍”にそっくりだ」


「確かに名前は一緒だな」

「能ある鷹は爪を隠すとはよく言ったもんだ。まさか地方にこんな化け物が隠れているとはな。これを最初から知ってりゃあ参加しなかったんだが……ったく、最悪の気分だぜ」

「奇遇だな。俺も今最悪の気分だよ」


リーダーは全力で風魔法を纏った。

「グダグダ言ってもしょうがねぇ。次の一閃に、俺の全てを賭ける」

「ほぅ。逃げないのか」

「仲間の魂置いて逃げるなんて、漢の名折れよ。普段は馬鹿してる俺だって、一応そんくらいの矜持は持ってんだぜ?」

「……そうか」


ここでもう一段、リュウの魔力が上昇した。

魔法を一切使っていないにもかかわらず、“黒い雷”が戦場を迸る。


それは遠くから見守っているアードレン軍にも影響を及ぼす。

「リュウ様の魔力が、さらに……!」

「やばい、息ができない」

「くそッ、武器が感電して持てん……」

立っているのですらやっとである。


「お前の度胸に敬意を表し、冥途の土産に特別な魔法を見せてやる」

「特別な魔法……だと?」

(コイツにとっては、さっきの落雷ですら特別に入らねえのかよ……)


荒々しい黒雷がリュウの全身を包み込む。


そして、

「黒鎧-雷神武甕槌命ライジンタケミカヅチ

東の島国で言い伝えられている霹靂の神が、再びこの世界に足を下ろした。


「……」

敵である血の宴のリーダーでさえ、この神秘的かつ破壊的な光景に目を奪われていた。

(ただの天才という一言で簡単に済ませていい魔法じゃねえ。魔力量も意味不明だが、一番イカレやがるのはアレを制御する魔力操作技術だ。まだガキのくせに、一体どんな修羅場を潜り抜けてきやがったんだ……?)


リュウが一歩踏み出せば大地が揺れ、さらに一歩踏み出せば大気が震える。

曇天から雷が降り注ぎ、森が悲鳴を上げる。


「行くぞ、血の宴。構えろ」

「はっ。余計なお世話だ、バケモンが」


例えるならば、風の魔人と、雷の魔神。

先に動いたのは……前者。

「うぉぉぉぉぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」


その日、血の宴はこの世から消えた。




戦いが終わると、今まで嵐のように黒く染まっていた空がすぐに晴れ、何もなかったかのように太陽が顔を見せた。


リュウも魔法を解除し、いつもの姿に戻る。

軽い足取りで振り返り、未だ状況を飲み込めず固まっているアードレン軍に、

「今の戦いについては、一切口外禁止とする。わかったか?」


すると返事はできないまでも、全員が素早く頷いた。

ちなみに白狼のメンバー達の治療はすでに完了しており、リュウの戦いを途中から彼等と共に見守っていた。


欠伸をしながら、こちらへダラダラ歩いてくるリュウを見て、スザクは静かに呟く。

「リュウ様……貴方は一体……」




正気に戻った森側アードレン軍が、ようやく帰路についた頃、街道側では。


「……」

「シ、シルバ……貴様ぁ……‼」

マンテスター騎士団長の胴体に、大剣が突き刺さっていた。


シルバが剣を突き刺さした場所は、心の臓。

そのため敵軍総大将はすぐに息絶え、アードレン軍は勝鬨を上げた。

タイミングよく空が晴れ、陽光がアードレンの鎧を美しく照らす。


「やりましたね。シルバ団長」

「ああ。だが仕事はまだまだ終わっていない。最後まで付き合え」

「はいはい。どこまでも付いて行きますよ」


副団長は水分補給をしつつ、シルバに問う。

「というか森側は大丈夫なんですかね?あっちはかなり雷が降ってましたけど」

「何度も言うが、問題はない。森側にはあの御方がいらっしゃる」

「でもリュウ様ってまだ十四歳ですよね?」

「副団長、よく聞け」

「?」


「人は年齢と見た目で判断するな。“本物はあえて凡人の皮を被る”。大陸のどこかに紛れている帝国魔術師のようにな」

「……!」

副団長は、シルバの何とも言えない迫力に圧倒された。


シルバは乗馬し、声を張り上げる。

「逃げた敵兵共を一人残らず殲滅しろ!我々はこのままマンテスター男爵家の屋敷を制圧しに向かう!」

「「「「「はっ」」」」」


結局、マンテスター男爵家の制圧が終わる頃には、すでに日が暮れていた。

ちなみにリュウは屋敷に帰還した時点で冒険者達をギルドに返し、アードレン騎士団の二割をそのまま本邸の防衛に費やした。


その日の深夜。

妹のレナは、母アイリスの部屋でぐっすりと眠っていた。

またその部屋の外にはリュウがおり、ドアに寄りかかりながら報告書に目を通していた。

「……」

(ふむ、概ね計画通りだな。さすがはシルバだ)


そこにセバスがやってきた。

「リュウ様、本日はお疲れ様でした」

「お前もな、セバス」

「いえいえ、私など屋敷で待機していただけですので」


セバスはそう言っているが、実際は戦場に赴くよりも、長時間守るべきものの側で待機している方が、心身にかかる負担は重たかったりする。リュウもそれをきちんと理解しているため、セバスには頭が上がらない思いである。


「まぁそのうちシルバがマンテスター男爵の首を持ち帰ってくる。それまでは気を抜かず、守りを固めておくぞ」

「了解致しました」


同刻、屋敷の外では……。

「なぁ」

「ん、どうした?」

「リュウ様ってマジで何者なんだろうな」

「しッ。その話は禁止されているだろうが」

「わりぃわりぃ」


「だが、昼間のリュウ様は本当にすごかった……本当に……」

「これでアードレンは安泰だよな。俺騎士団入って良かったわ」

「ああ。同感だ」



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