第13話:マンテスター戦③

リュウはついに血の宴と対峙した。

(剣士、魔法使い、格闘家。今思えばなかなかバランスの取れた良い三人パーティだ)


「いっちょ前に剣を持ってるってこたぁ、素直に降参するわけじゃあねぇみてえだな」

「わざわざ自分から来てくれてありがとねぇ、賞金首さん~」

「手間が省けた」


リュウはもちろん挑発を無視。

「お前等に数の暴力は利かなそうだからな」

「ほぅ。それで当主自ら戦うってか?」

「ああ」

「おいおい……」


リーダーは呆気にとられた様子。

「さっきの戦いを見てなかったのか?こっちはAランク三人だぜ?」

「そうそう。単独で僕達を相手にできるのは一握りの天才だけだよ?例えばSランク冒険者とか、帝国魔術師とかね。お貴族様のくせにそんなこともわからないの?」

「心意気だけは認める」


アードレン軍が固唾を呑んで見守る中、リュウの出した答えは……。

「まぁ、Aランク三人程度なら俺一人で十分だろう」


その言葉に、血の宴は黙った。

「「「……」」」


そして。

「じゃあすぐにぶち殺してやるよ!!!クソガキがァ!!!」

リーダーが風を纏い、地を蹴った。

音を置き去りにする速さで肉薄し、剣を振りかぶる。

この場にいる者は誰も反応できていない。


ガキンッッッ!!!!!


そう……“リュウを除いて”。


「……は?」

(俺の剣を受け止めただと???)


足下に大きなヒビが入るほどの衝撃。

「想像よりも少し速いな。だが……」

「ちょ、ちょっと待、ぐはぁっ‼」

リュウはリーダーの腹を豪快に蹴り飛ばした。先ほどスザクがやられたように。


(なんちゅう力だ、息ができねぇ)

リーダーは地面を転がり、そのまま元の位置まで戻った。


他二人は目を見開いている。

「リーダーが距離を詰めたと思えば、壁に跳ね返ったかのように、一瞬で元に戻ってきた?」

「何が起きたのか理解不能」


「ゲホッ、ゲホッ。アイツはただのガキじゃねぇ……本気でいくぞ、お前等」

二人はその一言で全てを察し、臨戦態勢を整える。

「「了解」」


そこから血の宴による、本気の連携攻撃が始まった。

剣士と格闘家が両サイドから攻め、正面から魔法使いが火魔法を飛ばす。

(右に逃げたら剣。左に逃げたら拳。正面からは火炎。上に跳べば敵の思う壺か。おもしろい)


リュウは敵に背後を取られぬよう上手く後退しつつ、剣士と格闘家による怒涛の連撃を捌いていく。時には受け止め、時には躱し、時には刀で弾く。

「くそッ、全然当たらねぇ。どんな動体視力してやがる……」

「なぜ俺の拳を受け止められる?意味がわからない」


そうこうしている間も、正面から巨大な炎が着実に迫っている。

被弾する直前、二人は一度バックステップで下がろうとするが……。

「逃がさん」

「!?」

リュウは格闘家の顔を掴み、強引に己の盾とした。

「ぎゃぁぁぁ!!!!!」


Aランク冒険者の火魔法をまともに受けた格闘家は、丸焦げになり戦闘不能に。

リュウは黒い塊を雑に放り投げた。

「あと二人」


アードレン軍の皆はこの凄まじい戦いに、すっかり魅入っていた。

「血の宴の連中、さっきとはまったくの別人じゃないか」

「それを一人で相手するリュウ様は一体……」

「私たちの目の前で何が起きてるのよ……」


一人やられたことで、ついに魔法使いは自身の置かれている状況を理解した。

(この戦法で何人もの猛者を仕留めてきたのに……相手は全くの無傷。どうにかしてダメージを与えなきゃ)


「君、そういえば妹がいるらしいね?それもかなり別嬪の」

「さぁな」

「今頃屋敷にマンテスター軍が押し寄せてて、大変な事になってるんじゃないの~?騎士団は女性の割合が少ないから、いろいろと飢えてるしね!」

「……」

その挑発はリュウの逆鱗に触れてしまった。

戦場の雰囲気がガラリと変わる。


魔法使いは彼の鋭い視線に耐え切れず、無意識に一歩下がった。

「……!」

リーダーは心の中で叫ぶ。

(馬鹿野郎。変にアイツを刺激すんじゃねぇ!)


「お前には特別に、“本物の魔法”というものを見せてやる」

「本物……?なんだ、急に空が暗くなって……」

今まで晴れていた空に雲が立ち込め、黒に染まった。

リュウの魔力が徐々に上昇していく。

本来見えるはずのない魔力が、はっきりと視認できるほどの密度。


そしてリュウは人差し指を上に向け、静かに下におろした。

霹靂インドラ

「……え?」


瞬間、

ドォォォンッッッ!!!!!!!

天から雷が落ち、盛大な衝撃音と共に魔法使いを消滅させた。


そこに残ったのは……巨大なクレーターのみ。





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