第12話:マンテスター戦②
リュウの表情はほんの少し険しくなった。
「“血の宴”って、帝国を代表するAランク冒険者パーティだろ?あまり冒険者に詳しくない俺ですら聞いたことのある名だぞ」
「はい、あの血の宴です。そんな大物がなぜここに……」
「マンテスター男爵があちらの一般冒険者に金を出さなかったのはコレが理由だったか」
マンテスター男爵は有象無象の冒険者達を雇わず、その金の全てを使い有名なAランクパーティを仕向けてきたのだ。要するに一点掛けである。
リュウは溜息混じりに呟く。
「これまた厄介な敵が出てきたもんだ」
「まず我ら白狼が先陣を切るとして、その後はどう戦われますか?」
「その後って、お前……」
白狼の面々は神妙な面持ちで、コクリと頷いた。
スザクが“その後”と言っている時点で、白狼の敗北は確定だと言っているようなものである。だがそれも無理のない話。
帝国の冒険者ギルドには、Bランクは結構な数が在籍しているものの、Aランクは数えるほどしか存在しない。いくら才知に長けた者でも、Bランクで止まってしまう事がほとんどだからだ。アードレン領では向かうところ敵無しの実力を持つ白狼のリーダーが戦う前に負けを明言するほど、冒険者ギルドにおけるAランクとは特別な存在なのである。
Aランク以上とそれ未満では、もう別の世界だと言っても過言ではないだろう。
「ん?あそこにいるのってアードレン男爵じゃねえか?」
「わお。金貨千枚の賞金首があんなところに!」
「これでしばらくは安泰」
などと駄弁ながら準備運動をしているこの三人組は、それほどの怪物なのである。
スザクは再び問う。
「して、どうなされますか?」
「次の動きに関しては、お前達と奴等の戦いを見てから決めようと思う。未知数の強敵に適当な戦術をぶつけるのは、馬鹿のやることだからな」
「了解です。ではリュウ様、後は託します」
「ああ。武運を祈る」
白狼の五人は味方軍の中を掻き分け、“血の宴”の前に躍り出た。
スザクが開口一番。
「お久しぶりです。血の宴の皆さん」
「あ?誰かと思えば白狼じゃねえか。久しぶりだなぁ」
「一つお聞きしますが、このまま引き返すおつもりはありますか?」
すると血の宴のリーダーは金貨のハンドジェスチャーをしつつ、
「ねぇな。もうコレをたんまり貰っちまったからなぁ~」
リーダーは続ける。
「ま、それ以上の金を積んでくれれば引き返してやらんこともないが、今のアードレンじゃ無理だろうよ。くっくっく」
「その余裕……すぐに崩してあげますよ」
「はっ!やれるもんならやってみな!」
スザクは白狼のメンバーに指示を出す。
「私が“あの男”の相手をします。君たちは二人ずつに分かれて、残りの二人を抑えてください。できる限り長時間戦う形でね」
(リュウ様が戦術を練る時間を全力で稼がねば)
白狼の四人は指示通りに移動し、すぐに臨戦態勢を整える。
そして白狼の一人が矢を放ったのを合図に、戦いの火蓋が切られた。
血の宴のリーダーが腰の長剣を引き抜く。
「やっぱ俺の相手はお前だよな、スザク」
「剣には剣を、魔法には魔法を。これが対人戦の決まり文句ですから」
「よくわかってんじゃねぇか。じゃあ行くぜ!!!」
「すぐに叩きのめしてあげますよ!!!」
両リーダーの奏でる剣舞曲に、皆の意識は釘付けになった。
「なんと美しい戦いなのだろうか……」
「二人は本当に人間なの?」
「こ、これが高ランク冒険者の実力なのか」
凡人の目には互角の勝負に見えるかもしれないが、実際のところスザクは完全に押されており、徐々に身体の傷を増やしている。それに比べ敵は無傷。
(いくら何でも速すぎです。一体どんな小細工を使っているのやら)
スザクは敵が魔力に覆われている事に気が付いた。
「まさか……魔法を纏っている!?」
「はっはっは!よく気付いたなぁ!俺ぁ今、風魔法を纏ってんのよ!」
「そ、そんな離れ業、聞いたことがありません!」
「そりゃあ、Aランクの中でも一握りにしかできない芸当だからなぁ!!!」
その答え合わせを皮切りに、敵の攻撃は激しさを増していき、ついにスザクは深く斬りつけられてしまった。
「くっ……」
その隙を見られ派手に蹴りを食らい、
「ほらよっ」
「かはぁッ‼」
血飛沫を上げながら後方に吹き飛ばされた。
スザクは地面に倒れ込んだまま動かない。
(身体に力が入りません。少々血を流しすぎたようです……)
血の宴のリーダーは剣をくるくると回しながら、
「ま、同業の誼で命だけは取らないでいてやるよ」
(あとでギルドの爺共にゴチャゴチャ言われんのも嫌だからな)
冒険者達は初めからわかっていたかのように俯き、騎士達は絶望し嘆いた。
「そ、そんな……」
「あの白狼がこんな簡単にやられるなんて……」
「化け物どもめ……!」
「私たちが何人かかっても、あんな奴等止められないでしょ……どうすんのよ……」
スザクは地に伏したまま周囲を確認した。
すると他の四人も自身と同じように、戦闘不能状態に陥っていた。
(くっ、ここまでか。申し訳ございません……リュウ様……)
そう心の中で謝罪していると、いつの間にか本人が真横に立っていた。
「リュ、リュウ様!?」
「よく頑張ったな、スザク。お前達のおかげで、敵の実力を概ね把握することができた。後は俺に任せとけ」
と言い、リュウは“抜刀”した。
「リュウ様ご自身が!?それに……その剣は……」
(確かあれは、東の島国で製造されている“刀”という名の片刃剣)
その言葉を聞き、騎士や冒険者達も騒ぎ始めた。
「リュウ様!私たちが戦いますのでお下がりください!」
「そうですよ!我らが壁になりますので、今のうちにご退避を!」
「全員の命を懸ければ、リュウ様が逃げる時間くらいは……」
「お前等一旦静まれ」
その静かなひと言は、自然と軍に響き渡った。
リュウは続ける。
「そんな無駄死にのような真似を、この俺が許す筈ないだろう」
しかし騎士達は引き下がらない。
「で、ですが」
「いいからお前等は大人しく後ろで見ていろ。俺が何のために森側に来たと思っている」
「そ、それは……」
獲物が自らノコノコやってきたと言わんばかりの卑しい笑みを浮かべている血の宴に、リュウは視線を移した。
「ああいう調子に乗った馬鹿共を、俺直々に葬るためだ」
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