第11話:マンテスター戦①
開戦当日。
アードレンからマンテスターへと続く街道は一時封鎖され、シルバ率いるアードレン騎士団が防御陣を築いていた。
「シルバ団長。ついにこの時がやってきましたね」
「ああ。久々に血が滾る」
「それにしても、本当に二割しか送らなくて大丈夫なんですか?初めて聞いた時はリュウ様が自棄になられてしまったのかと思いましたよ」
「私も初めはそう考えていた。だが特に問題はない。我々は前だけを見ていればいい」
「まぁ団長がそうおっしゃるのであれば……」
シルバはふと、リュウとの模擬戦を思い浮かべる。
(最悪あの御方がいればどうにかなるだろう。私は己の責務を全うするのみ)
とその時、前方からマンテスター男爵家の旗を掲げた集団が姿を現した。
「趣味の悪い黒色の鎧に、気味の悪い赤色の戦旗。間違いなくマンテスター騎士団ですね」
「ようやく来たか」
シルバは背中の大剣をゆっくりと引き抜いた。
刃に太陽光が反射し、ギラギラと部下達を照らす。
「お前達」
その大きくないひと言は、自然と全員の視線を集めた。
「もしここを抜かれれば領内は蹂躙され、全てを奪われる。自身の家族や友人を守るためにも、この戦いだけは鬼となり、あの侵略者共を薙ぎ払え」
「「「「「はっ‼」」」」」
黒い集団の先頭を走る大男が、シルバと同じように大剣を抜き、スピードを落とさずに特攻してきた。
「マンテスター騎士団団長か。久しいな」
「はっはっは!お前を殺しに来たぞ!シルバァァァァ!」
シルバも大剣を大きく振りかぶる。
そして。
ガキンッッッ!!!
両軍の団長が剣を合わせ、甲高い衝撃音が周囲に響き渡った。
それが開戦の合図となった。
その頃、森の入り口では。
アードレン騎士団とギルドから選び抜かれた優秀な冒険者達が、街道側と同じく防衛線を張っていた。
リュウは雲一つない空を見上げ、眉を顰める。
「……」
冒険者代表を務めるBランクパーティ“白狼”のリーダー、スザクがやってきた。
「リュウ様。どうかなされましたか?」
「いや、なんでもない」
(ついに戦いが始まったか。頼んだぞ、シルバ)
「本当に上手く行くと思いますか?この作戦」
「必ず成功するから安心しろ。万が一少数精鋭で攻め来るのであれば、針の穴を通すように森を抜けてくるかもしれないが、その時は数の暴力で叩き潰せばいい。それ以外は大丈夫だろう」
「そのお言葉が聞けて、少しばかり肩の荷が下りましたよ」
森に張り巡らせてある罠は、先日リュウと白狼が協力して仕込んだもの。これらを潜り抜けるのは至難の業だと言えよう。
リュウは全員の顔が見える場所に移動し、
「今日は頼りにしているぞ、お前達」
「「「「「はっ」」」」」
森の中では、“ほぼ”リュウの狙い通りに事が運ばれていた。
「ぎゃぁぁぁぁ!!!」
「助けてくれぇぇぇぇ!!!」
「なんでここにオークの群れがいるんだよ!?」
「おい、ここも危険だぞ!」
「勝手に木が動いて……ぐぁぁぁ!!!」
「ようやく逃げ切ったと思えばトレントの林だとか、さすがに運が悪すぎるだろう!?」
阿鼻叫喚な状態のマンテスター騎士団のすぐ後ろには、いかにも歴戦といった風な三人の男達が。
そのうちの一人が怪訝な表情で呟く。
「はぁ……だからそっちには行くなって言っただろ……」
「素直に僕達の言うことを聞いていれば、こんなことにはならなかったのにねぇ」
「騎士はプライドの高い奴が多くて困る」
「もう俺達だけで進むぞ。一応依頼金はたんまりと貰ったわけだしな」
「だね。彼等に付き合ってたらキリがないよ」
「賛成」
男達は軍から勝手に離脱し、そのままアードレンの方角へと消えた。
それから二時間後、森の入り口にて。
スザクが森の異変を感じ取った。
「リュウ様……何か来ます」
「ああ」
全員ゴクリと生唾を呑みつつ、森へ視線を向けた。
すると……。
「ふぅ。やっと森を抜けたか。性格の悪い罠ばかり仕掛けやがってよぉ」
「おやおや、皆さん勢ぞろいのご様子で」
「この程度の人数、余裕」
三人の男が森の中から堂々と出てきた。
アードレン騎士達は、三人しか現われなかったことに安堵の息を漏らす。
「なんだ、たったの三人かよ」
「心配して損したぜ」
「それよりも誰なんだ?あの連中は」
しかし冒険者達は逆に、彼等の姿を見るやいなや硬直し、頬に冷や汗を垂らしていた。
「「「「「……」」」」」
それは白狼の面々も例外ではない。
リュウもそれに気が付き、すぐさま問う。
「おい、スザク。アイツ等は一体誰なんだ?」
「や、奴等は……」
スザクはひと息置き、はっきりと言った。
「Aランクパーティ“血の宴”です」
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