第7話:騎士団

その翌日、セバスが手配した騎士団員によりベルターが捕らえられ、後の厳しい尋問により、他にも複数の裏切り者が芋づる式に断罪された。またそれらは騎士団の中にもチラホラ紛れ込んでおり、片っ端から牢に叩き込まれた。もちろん、憤慨したシルバ団長自らの手によって。


「ご苦労だったな。セバスにシルバ」

「「はっ」」


「特にシルバ。お前は前当主の命令によって、散々嫌な仕事をさせられたと聞いている。生真面目なお前には大分きつかっただろう。前当主の代わりに謝罪させてほしい。本当にすまなかった」

「いえいえ。私もあなた方に救いの手を差し伸べられませんでしたので……謝罪するのは、むしろこちらです。それに団長でありながら、裏切り者の存在に気が付かなかったという、即座に首を切られてもおかしくないようなヘマまで犯したゆえ……」


「では、今回はおあいこということにして、これからも男爵家の下で励んでくれ。まだまだやめてもらっては困る。お前は最も替えの利かない人材なんだ」

「御意」


ここでセバスが話を変えた。

「リュウ様。話を遮ってしまい申し訳ないのですが、マンテスター男爵家に関してはどういたしましょう」

「ああ……今回の件で隣領から、ちょっかいを掛けられている事が判明したわけだが、同格の貴族家相手では、さすがに慎重に動かざるを得ない」

「まさか、マンテスターに狙われているとは思いもしませんでしたね」

「同感だ。内側に意識を向けすぎて、外側の動きを全く気にしていなかった。反省しなければ……」


団長が神妙な面持ちで問う。

「リュウ様はどうお考えですか?」

「だから慎重に動かざるを得ないと今言った……ん?」

(急に雰囲気が変わったな)


「もしや、俺が事前にマンテスターの策略を知った上で前当主を暗殺し、今も素知らぬ顔で家の立て直しを図っている、とでも言いたいのか?」

「……」


リュウは思わず笑いを漏らした。

「くっくっく」

「不躾で申し訳ないのですが、一体何がおかしいのでしょうか?」

「いや、そんなにも俺を買い被ってくれていたのかと、少々嬉しくなってしまってな。言葉を選ばすに言えば今の俺は、親父が死んだことで嫌々当主を継いだだけの、世間知らずのクソガキに過ぎない」


「……そうですか」

「ああ。あと最後にシルバ」

「なんでしょう」

「マンテスター男爵家の件については、口外禁止にさせろ。内通者を炙り出したことで、おそらく“こちらが気づいたことに、気づかれた”。だから今相手には何も情報を与えたくない。わかったか?」

「……了解しました」


シルバは何とも言えない表情のまま一礼し、立ち去った。


「シルバ団長は良い線を付いていましたね。さすがです」

「だな。やはりうちに必要な人材だ」


リュウとセバスが前男爵の暗殺を実行した本当の目的は、母の治療に必要なエリクサーを手に入れる事だ。そのためには男爵家に戻り、マンテスターを返り討ちにして全てを奪い取るという作戦が、成功に最も近いプロセスだった。ただそれだけの話である。


「まぁどうせ三ヵ月以内には、マンテスターは宣戦布告を飛ばしてくる。シルバはそれまでに、俺達の輪の中に入れればいいさ」

「ええ。彼が入れば百人力です。しかしリュウ様。万が一敵が怖気づき、宣戦布告してこなかった場合はどうなされますか?」

「今回の件を大義名分とし、こちらから攻め入る」

「名案ですね。老いぼれた身ではありますが、血が騒いできましたよ」


それから一月の間、アードレン男爵家は死に物狂いで数多の改革を行い、順調に領民からの信頼を回復していった。現在領内は前当主の頃と比べ見違えるほどに安定しているが、税率を大幅に下げたことに比例し税収が減少したため、男爵家の懐は未だ寒いままである。


母アイリスに関しては、メイドや医者の尽力により、顔色がかなり良くなった。しかし、これはあくまで時間稼ぎに過ぎないので、早めにマンテスターが攻めてくることを願うばかりである。


「皆悪いわねぇ。こんな病人の世話をさせちゃって」

「我々は今までの罪を帳消しにしていただいた上で、御屋敷に置かせていただいているのです。アイリス様には頭が上がりません」

「そうです。たとえこの身が滅びようとも、一生側に仕えさせていただきます」

「うふふふ。大げさねぇ」


リュウは彼女等の首は切らないとはいったが、昇進に関してはまた話は別だ。これからどのような姿勢でアイリスを支えていくか。それが彼女達の賃金の上げ下げに関わっていくだろう。すべては母アイリスの受け取り方次第。


前当主に圧力を掛けられていたのは事実だが、世の中そんなに甘くはない。特に仁義というものは良くも悪くも、このように後々響いてくるものなのである。


妹のレナについては、リュウに「来年、帝立学園の入学試験を受けてほしい」と頼まれたため、現在自室で勉強に励んでいる。帝立学園とは、試験に合格した十三歳以上の優秀な生徒のみが入学できる、国内最難関の教育機関である。リュウの場合は幼少期から捻くれていたため、もちろん試験は受けていないし、これから受ける予定もない。


「お兄様のために……お兄様のために……愛するリュウ兄様のために……ハァハァ」

(絶対に合格して、いっぱい頭を撫でてもらうんだ。そしてその後は……えへへへ……)


ちなみにレナはブラコンである。


その頃、リュウはというと。

会議室にて、セバスと対マンテスター戦の計画を練っていた。

「ふむ……レナは今日も頑張っているようだな」

「え、わかるんですか?この距離で」

「兄妹だからな」

「な、なるほど」


そしてリュウも、妹に負けないくらいには拗らせている。



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